『大前研一「"共産主義国家"ニッポンが低所得低成長である根本原因」』(大前 研一/ビジネス・ブレークスルー大学学長)


https://president.jp/articles/-/52221
「2021年10月の総選挙は、実につまらない選挙だった。岸田文雄首相は、自民党総裁になったあと「分配と成長の好循環」を目指すと表明し、他の政党も選挙前に「消費税を5%に下げる」「10万円を配る」など、「分配」政策ばかりを掲げた。しかし、日本は新たな分配政策を打つまでもない。そもそも日本は、稀に見る“分配が行き届いた国”だからだ。上位1%世帯の資産が全体に占める割合は、日本はG7のなかで最も小さい。(略)
日本の格差は、アメリカから見れば誤差の範囲みたいなものだ。日本ではアルバイトでも月に20万円弱ぐらいは稼げるし、夫婦なら30万〜40万円近くになる。餓死する人はほとんどいなくて、貯金ができるほどだ。年金、生活保護などの社会保障も日本は手厚い。
問題は所得格差ではなく、働く人たちの収入が全体的に少ないことなのだ。
日本の初任給はこの30年間、24万円前後でほぼ横ばいだ。その間に欧米では3倍ほどになっている。日本はこの30年間、GDPが増えていない。分配する富が創出できないことのほうが問題なのだ。(略)
IT技術者は、海外では給料が高い職業だが、日本では初任給が24万円前後と他職種と変わらない。中国はじめ世界のIT業界では、給料が安い日本の技術者を雇うのが最も得だと言われている。(略) 世界のIT技術者は、転職を繰り返して出世していく。終身雇用に魅力を感じるわけがない。IT業界に限らず、日本では就職や転職の考え方が、世界標準からズレている。より高い給料を求めて業種を超えて転職するという発想がない。日本の給料が安い原因の1つだ。(略)
転職が当たり前の国では、企業も給料の高さを競って、優秀な人材を採用し、辞めていかないようにする。需要と供給によって、給料は自然に上がっていくのだ。(略)」

大前氏の口から出てくるのは、いつも出まかせと妄想ばかりだ。

上記のコラムをちょっと読むだけでも、
「そもそも日本は、稀に見る“分配が行き届いた国”だ」
「日本ではアルバイトでも月に20万円弱ぐらいは稼げるし、夫婦なら30万〜40万円近くになる。餓死する人はほとんどいなくて、貯金ができるほどだ。年金、生活保護などの社会保障も日本は手厚い」
「転職が当たり前の国では、企業も給料の高さを競って、優秀な人材を採用し、辞めていかないようにする。需要と供給によって、給料は自然に上がっていく」
といった具合に、“ウソと出鱈目”がてんこ盛りだ。

大前氏の妄想に対しては、
・国民の年収が四半世紀近く昔よりも減り続ける国のどこが“分配が行き届いた国”なのか?
・日本の大学生の平均的なバイト収入は月額3-4万円なんだが?
・月に20万円も軽く稼げるバイト学生って、いったい何処の世界戦に生息しているのか?まさか、P活女子のことか?
・夫婦で30-40万円稼げるって、そんなの子供が1‐2人いたら旅行にも行けないほど生活はカツカツなんだが?
・貯蓄ゼロ世帯の割合は、二人以上世帯で16.1%、単身世帯で36.2%にもなるんだが?
・日本は既に転職経験者が56%と過半数を占める転職が一般的な社会だが、“優秀な人材を求めて給料の高さを競い合う企業”なんて、ほとんど見かけないのだが?
・特に離職率が26.9%と平均値(14.6%)を大きく上回る宿泊・飲食業の平均年収は330‐350万円と他業種と比べて著しく低いが、人材の流動性が高く優秀な人材を奪い合っているはずの業界で、なぜ給料が上がらないのか?
といったツッコミが即座に浮かんでくる。

彼のような幼稚な新自由主義者&グローバリストは、「いまの会社に安住するな!」、「若者は海外に出でよ!」と何の根拠もないホラ話を騙りたがるが、何を根拠にして、転職が増えれば給料が上がるなんていう大嘘を自信満々に騙れるのか、筆者にはさっぱり理解できない。

彼は「インドのIT技術者は20代で年収1600万円も珍しくない」と息巻いているが、日本企業に20代の技術者に1600万円もの年収をポンと出せるところなど1社もないのだから、いくら転職が活発化しても、そもそも前提となる“美味しい椅子”自体が存在しないから、転職の都度年収が下がるだけに終わるだろう。
ゴキちゃんがウロつくぼろアパートばかりが立ち並ぶ街で、いくら引っ越しを繰り返しても、小綺麗な物件には永遠に入居できないのと同じ簡単な理屈だ。

奇しくも大前氏が「日本の初任給はこの30年間、24万円前後でほぼ横ばいだ。その間に欧米では3倍ほどになっている。日本はこの30年間、GDPが増えていない。分配する富が創出できないことのほうが問題なのだ」と述べているとおり、まずマクロ経済をしっかり過熱させ、分配する富を創造せぬことには、いくら社員が転職を繰り消して自分を高く売りつけようとしても、買い手側の企業には彼らのスキルや熱意に応じるだけの原資がないから、いつまで経っても給料は上がらない。

ここ数年の間に、東証一部上場企業は史上空前の収益を上げるなど、労働分配率をもっと高める余力がある企業は確かに存在する。
だが、それは386万者とも言われる国内企業の極々一部に過ぎない。

企業の99.7%を占める中小零細企業には、とても高給を以って人材を引き抜いたり引き留めたりする力は残っていない。


マクロ経済環境が好転せぬまま、大前氏の妄想どおりに転職が当たり前の社会が来たとしても、転職によって待遇が上がる者はごく僅か、殆どの者は年収ダウンに見舞われ、履歴書の職歴欄が長くなり、面接での自己アピールスキルだけが向上するだけ、という結果に終わるだろう。

大前氏は、「転職が激増すれば、優秀な人材の引っ張り合いになり、黙っていても年収が上がるはず」と簡単に片づけようとするが、そんな都合の良い“白馬の王子様”は存在しない。

そもそも、サラリーマンは転職どころか、社内の転勤ですら強い拒否反応を抱く者が多い。


とある民間企業の調査によると、「転勤を希望したことがあるかどうか」という問いに対して58.8%が「ない」と回答しており、また、「転勤は退職を考えるキッカケになりますか?」との問いには、64%が「なる」(なる:31%、ややなる:33%)と答えている。

その理由は、見知らぬ土地への不安感や人間関係がリセットされてしまう、結婚相手やパートナーが仕事をしている、家族と離れたくない、子供に転校させたくない、親の介護がある等様々ある。


特に最近は、生まれてから会社に入るまで一度も東京や首都圏から出たことがなく、地方都市に行くのを怖がったり嫌がったりする甘ちゃんな若者も多いだろう。

こうした時代背景もあり、企業はむしろ転勤や部署異動を減らして、地域限定勤務制度を設ける例も多い。
大前氏みたいに、「転職すれば給料が増える(何の根拠もないけど…)」と言い張る連中は、いまだに頭の中がバブっているのではないか?

大前氏には、古ぼけた情報を基にくだらぬ妄想を開陳しては恥をかくだけ、それよりも30年も初任給が上がらない我が国の経済問題の根本原因を探り、それを改善するための具体策を提言しろ!と厳しく指摘しておく。