非正規社員の大量解雇問題に関連して、昨今、ワークシェアリングの導入を検討すべきという声が大きい。


 ワークシェアリングは、オランダが成功例とされるが、人口約1,600万人のかの国と、労働人口だけで6,600万人にもあるわが国とは事情が違いすぎる。限られたパイを分かち合う、つまり、日本という国がこれ以上成長しないといった概念が前提になっており、到底承知できない。日本が有する生産力・サービス提供力(=労働力)は世界でも有数のレベルにあり、需要さえあれば当然成長することは可能だと思う。なんといっても、ここ10数年というもの殆ど成長していなかった(名目成長率で)のだから。政府の役割は、萎縮して凍りついたこの需要を積極的に作り出すことにある。


 ワークシェアリングは、ホワイトカラーエグゼンプションと同様に、一般の社員(=多くの国民とその家族)にとっては賃下げにしかならない。住宅ローンや教育関連費用など月々の固定支出が高水準にある家計が、賃下げを飲み込める訳がないし、結局は、支出が絞られ→消費減退→企業業績低下→景気の更なる悪化→税収の落込みという悪循環に陥るのは目に見えている。


 そもそも非正規雇用者の多くは、企業が正社員として処遇すべきであるのに、それを放置してきたもので、企業がそういった努力をせずに、非正規社員の待遇が低水準で不安定なことを正社員のせいにしようとし、マスコミもそれに加勢して両者間の対立を煽っていることに憤りを感じる。今朝の日経新聞に、人材派遣会社の経営者のコメントが載っていたが、それによると登録者のうち、あえて非正規雇用を望んでいる層が60%になるそうだが、全く呆れた意見としか言いようがない。本当に6割もの人が非正規でもいいや、もしくは、非正規でいいんだ などというなら、こんなに大きな問題になるはずはなく、ほとほと幼稚で無見識な意見である。


 だいたい、巷で言われている正社員の“既得権益”なんかは、高給取りのマスコミなどごく一部に過ぎない。年収4-500万程度で、諸手当は減らされ、会社のカネで飲み食いもできず、毎年給料が減らされ早期退社勧告の恐怖に怯えながらもノルマだけは右肩上がり、おまけにポストもなければ長時間残業で毎日終電帰り…。こんな身分が人も羨む既得権益なのだろうか。こんなのでよければ、何時でもくれてやる と思っている方も多いのではないか。


 世間の正社員が、このような悲惨な状況にあることは、当然、非正規の方々も感じているだろう。感じていながらも、その悲惨な正社員にすらなれないことへの焦りや憤りに苛まれているのではないか。


 こういった状況を一刻も早く打開する必要がある。それには、ワークシェアリングなどのちまちました政策では、何の解決にもならない。もっと大規模な、国が積極的に数十万~百万人単位で直接公務員(短期間ではなく正規の)として雇用するような大胆な取組みが必要だ。正社員か非正規社員か、といった小さなパイを争うような不毛な議論ではなく、パイそのものを拡大させるのが本筋の議論だ。


 教員を始めとする公務員の増員、防犯や軽犯罪専門の警察人材の増員、消防・海上保安など防災対策人材の増員、統計調査員の増員、福祉・医療人材の増員、科学技術支援人材(大学や研究機関など)の増員など国民のニーズの高い分野で大規模な雇用を生み出してはどうか。これらはいずれも社会基盤の整備に関するもの。バブル崩壊以降、20年近くにわたって国の基盤が侵食され続けており、将来に向けてこれらを再構築することが必要だ。


 大きな政府になる、財政が悪化する、改革が後退するなどといったお約束の反論に対しては、国民一人ひとりの幸福や社会の安定と国家の財政バランスとどちらが大事なのかと尋ねたい。


 国の借金は毎年順調に増加し、毎年のように財政危機が叫ばれながらも、国債の利率は史上最低の水準にあり、日本の信用力が高いことを示している。


 国債は、政府にとっての負債勘定かもしれないが、その大部分を保有する国内の金融機関等にとっては最も信用力の高い資産なのだ。管理通貨制度や国の通貨発行権があることを考えると国債の返済能力に問題がないことは明白であり、国債残高を盾にして、困窮する国民に何もしないばかりか、いまだに、痛みに耐えろなどと結果の出ない根性論を振り回す識者が多いことに呆れ返っている。