バブル崩壊後、失われた18年を経ましたが、一向に日本経済には回復する兆しが見えてきません。


 昨年起こったアメリカ発の金融危機による世界同時不況や世界的な需要の大幅な収縮、急激な円高など大きな厄災がわが国を襲い、企業の倒産、非正規社員などの大量失業といった大きな被害が顕在化しています。


 事ここに至っては、政府やマスコミがこれまで盛んに喧伝していた、いわゆる"いざなぎ越え"の景気回復(実感なき景気回復)が、まさに偽者であり、実体経済は長い不況下にあることを認めざるをえないのではないでしょうか。


 "闇が深くなるのは夜明けが近いから"という言葉どおり、今回の世界同時不況を経て日本経済が回復への途を辿ることが出来るのかということを中心に、経済問題や時事問題について所見を述べて行きたいと思います。


経済問題などに関する基本的な考え方


毎回ブログを更新していくに当たり、基本的な考え方を以下のとおり明示しておきます。


●経済問題はあらゆる分野に影響する最重要課題


 世の中の仕組みが貨幣経済に基づいて動いている以上、教育・福祉・医療・科学・国土保全・治安・防衛・防災・農林水産・スポーツ・外交などあらゆる分野が経済問題に大きな影響を受けている。近年の医療・年金崩壊問題などの主因が財源不足にあることなどが一例といえる。経済問題の解決=諸問題の解決となる訳ではないが、より容易に解決できる状態に近づけられるのではないか。


●バブル崩壊以後の長期不況の原因は需要の大幅な不足


 日本経済の不調の要因は、構造改革や規制緩和・不良債権処理の遅滞、日本的な雇用制度(長期雇用・年功序列)などのせいではなく、単なる需要の不足である。


 日本の有する生産力(ものづくり・サービスなどの数量や質)は明らかにバブル景気以前より数段向上している。車や電化製品、住宅、スーパーなどのサービスなど身近なもので、以前より退化しているものがあるだろうか?例外なく進歩していると思う。それも価格が安くなって。


 さらに、曲がりなりにもここ数年間で構造改革や規制緩和などが進められてきた。構造改革を無邪気に信奉する人には不十分だと思うが、いわゆる政・官・業の癒着みたいなものは相当打撃を受けてきたし、日本式経営的なものも骨抜きにされ、大店法や労働法関係などの規制緩和も進んでいたのではないか。


 良いものがあるのに売れない、構造改革や規制緩和が進んでいるのに景気が良くならない、これはなぜか?


 それは、国民が怠けているからも構造改革に耐えうる精神修行が足りないためでもなく、単純に財布にお金が入っていないから、つまり需要が不足していると考える方が自然だと思う。


●需要不足の解決には売上や所得の増加で対応すべき


 国民(=消費者)の財布が空っぽでは、製品の良否や社会構造に関わりなく消費の伸びは期待できない。内需拡大のためには収入の増大によるバランスシートの改善が最も効果的であり、平均所得を現在の500万円程度から800万円に伸ばすなどといった所得増加目標を立てるべきである。


●長期かつ大規模な経済対策が必要


 売上や所得の拡大にはGDPの拡大が不可欠であり、これまでの金融政策頼みの経済対策ではなく、財政政策を主体とし金融政策を補助エンジンとする長期かつ大規模な経済対策が求められる。財政赤字を理由に単発で小規模な財政政策を繰り返しても効果はなく、失われた18年を取り戻すためにも、最低でも10-15年間、年間ベースで40-60兆円規模の経済対策によるリフレーションが必要である。


●経済成長の手段として貨幣を活用すべき


 大規模な経済対策の財源を税に求めては元も子もない。財源は日銀による国債引受(法改正も必要だが)や政府貨幣の発行を活用すべきである。


 貨幣の増大=急激なインフレと考えるのは短絡的な考えで、飛躍的に伸びている生産力や膨大な失業者の水準を考えると、需給ギャップには相当のゆとりがあり急激なインフレが発生するとは考えづらい。


 金を貨幣の拠り所とする金本位制は当の昔に廃止されており、この世の中は管理通貨制度のもとで運営されているのだから貨幣に貴金属的な価値を求めることは無意味であり、生産力の維持向上のための手段として必要に応じて柔軟に活用されるべきである。


●国債は家計の借金とは違う


 年度ごとの国家予算の決定後に、お約束のように国の借金を家計にたとえると言う主旨の記事が新聞誌上をにぎわすが、全く無意味で誤った記事である。


 国家は永久に存在することを前提とし、管理通貨制度の下で通貨発行権がある以上、国債の水準云々を心配することは馬鹿げている。ましてや日本のように国債が国内の資産でファイナンスされているケースでは、最終的にはコストのほとんど掛からない通貨の発行によって返済すればよく、全く問題ない。


●実体経済への資金供給が重要


 近年の金融政策を中心とする経済対策は、日銀の量的緩和や金利引下げなど主に金融市場向けのものでしかなかった。


 経済問題の解決は、企業や家計など私たちの生活に関わる実体経済に資金が供給されることなしに成しえず、次の3点に留意することが重要。


 ①実体経済の生産力に見合う十分な資金の量…生産力に対する需要(消費)力=売上・所得


 ②実体経済を廻る資金の流通速度の向上…消費の活発化


 ③上記の①②に携わるプレイヤーの増加…中流層の拡大


●国・企業・国民の役割


 国や企業・国民が果たすべき基本的な役割は次のとおり。


 ①国…経済目標の設定、実体経済への資金供給(政府貨幣・赤字財政など)と調節、雇用の創出


 ②企業…雇用の確保、安定した労働分配、技術革新


 ③国民…勤労、消費、一定程度の貯蓄


 国が十分な資金を供給し、企業がそれをビジネスに活かして給与として家計に配分し、家計が消費や貯蓄でそれを支えるといった構造である。


●安定した雇用の創出


 内需拡大には何よりもGDPの6割近くを占める個人消費の活性化が不可欠。基本的に消費は所得の増加に比例するものであり、長期安定的な雇用の創出が重要である。将来入ってくる十分な収入が見通せるなら消費することがより容易になる。


 現在問題になっている非正規雇用も企業も無責任によるものであり、彼らは本来正規社員として雇用されるべきものである。ここ数年というもの企業は、法人税の減税・派遣法改正やリストラによる人件費圧縮・一時期の円安誘導による為替差益・低金利政策などといった都合のよい政策を割り与えられているにも拘らず、労働分配率の削減や非正規社員の解雇を行なうなど全く甘えているとしか言いようがない。


●グローバル化は幻想に過ぎない


 中国、インドなど発展途上国の人件費の低さや技術力の向上を引き合いに出し、日本の労働者を叱咤する論調が目に付くが、これは単に人件費を削りたい側の脅し文句に過ぎない。中国やインドなどは国民性や社会制度からして現状程度が限界であり、こちらから無用な技術流失をしない限りは、これ以上の発展は難しい。


 第一、労働者のみが中国人と比較されるのは可笑しなことで、比較の対象に経営者や学者、エコノミスト、政治家、マスコミなども含まれるべきである。年収2千万円の無能な経営者を解雇して、5百万円程度で働いてくれる中国人の経営者を雇っても良いのかと言いたいところだ。また、中国の人件費が日本の1/10-1/30などと騒いで退去して進出しておきながら、それが10-20%上がっただけで次はベトナムだなどと騒ぎ出すなど、全く幼稚で呆れ返る。


 そもそもグローバル化を喧伝する論者は、自分はさておきという都合の良いことしか考えておらず、また、そういう連中に限って日本はここがだめ、あそこを改革すべきなどといいながら日本を離れようとはしないものである。


●企業は従業員と経営者のもの


 企業は、そこで働きそれを運営する従業員と経営者のものであり、株主のものという考えは誤りである。


 株主個々人の投資額といっても企業の総資産に占める割合は僅かであり、また、企業の生産行為に寄与していない以上、企業は株主のものなどというのは思い上がった考えである。


 ましてや、株を投資の対象としてしか所有していない者など言うに及ばない。


●職業に貴賎なし


 土木建設業やローテク産業、農林水産業などを付加価値の低い産業と蔑んだり、公務員を罵倒するような風潮が目立つ。なかには、これらの無駄な産業を廃して、より付加価値の高い産業へ移動させよといった意見も聞くが、全く幼稚な考えである。


 我々サラリーマンを含めて、現在就いている職業しか出来ない者が殆どであり、この産業は付加価値が低いからあの産業へなどというのは机上の空論である。付加価値の高低に関わりなく、雇用を維持し、最大の無駄である失業を発生させないことこそが重要で、現在のような不況期に雇用に手のつく(失業者の発生)ような政策を唱えるのはどうかしている。


●日本は資源のない国?


 日本は資源のない国だから…というフレーズをよく聞くが、世界中探しても鉱物資源を全て自給できる国はないのではないか。日本のみが資源のない国なのではなく、各国がそれぞれに資源不足を抱えている。石油の豊富な中東諸国、鉄鉱石や石炭の豊富なオーストラリア、ダイアモンドの豊富な南アフリカなど鉱物資源は採れても、それを加工して付加価値の高い製品を造る技術はない。つまり、鉄は採れても自動車は造れない国は多い。鉱物資源はむろん食料ではなく、何かの原料として使用されて初めて意味を持ちうる。すなわち、技術力や労働力)こそ最大の資源であり、幸いにして日本にはこれらがいまのところ豊富にある。ただし、現状のように大量の失業者を放っておくと貴重な技術力や労働力の先細りは避けられない。そうならないためにも、貨幣を有効に活用して国内の消費を活性化させ、技術力などの維持向上を絶えず図っていくことが重要である。


●規制緩和や構造改革すべきは政治・マスコミ・宗教団体


 財政政策を嫌う論者は、バカの一つ覚えのように規制緩和や構造改革を唱えるが、経済対策としては念仏と同じ効果しかない。それらは無駄な競争を煽ったり、支出の低下や失業者の発生をもたらすだけで経済的な効果に乏しい。規制緩和の対象として、医療・福祉・農業などがよく引き合いに出されるが、こういった分野に国民が困窮するほどの規制があるとは思えず(農業は例外)、また、既に飽和気味の市場でもあり、規制緩和したからといって大きなビジネスになるとは考えづらい。


 むしろ、供託金制度に守られる政治家、再販制度・広告の無規制・電波法に守られるマスコミ、免税制度に守られる宗教団体こそ最大の既得権益であり、規制緩和なり構造改革なりをすべきである。