中宮定子に呼び出された清少納言がモジモジしていたところ、に定子の兄・藤原伊周がやってきて、兄妹でおしゃれな会話を繰り広げていたのが前回のお話でした。

 

中宮様は白いお召し物を重ね着した上に紅の唐綾を羽織っていらっしゃったわ。
それに御髪が掛かっていらしゃる美しさといったら、絵に描いたのは見たことがあったけれど、現実にはこれまで見たことがなかったから、まるで夢の世界にいるような心地がしたの
目
伊周様は女房と話をして冗談をおっしゃるの。
女房はそれにお返事するのをちっともきまり悪いとも思わずにお答えし、また時に嘘をおっしゃるのに対しては反論し申し上げたりするのは、もう目もくらむほどびっくりな様子で、私はもうわけも分からず顔が赤くなっちゃったわ。
伊周様はお菓子を召し上がったりして賑わし、中宮様にもさしあげなさったわ。


(原文)

宮は、白き御衣に紅の唐綾をぞ上に奉りたる。
御髪のかからせ給へるなど、絵にかきたるをこそ、かかることは見しに、うつつにはまだ知らぬを、夢の心地ぞする。
女房ともの言ひ、たはぶれごとなどし給ふ。
御いらへをいささか恥づかしとも思ひたらず、聞こえ返し、そら言などのたまふは、あらがひ論じなど聞こゆるは、目もあやにあさましきまで、あいなう面ぞ赤むや。
御くだものなど取りはやして、御前にもまゐらせ給ふ。


【語釈】

●うつつ
重要語で、現実の意味。

●女房ともの言ひ、たはぶれごとなどし給ふ
ここからは主語が伊周に戻る、と考える。やって来た大納言をよそに中宮が女房と話し込む、というのはちょっと考えられない。ただ、大納言と女房のやりとりに中宮も少し参加していたかもしれない。

●目もあやにあさましきまで、あいなう面ぞ赤むや
尊敬語が消え、主観的表現になったので主語は清少納言。「目もあやなり」とは、直視できないほど輝かしいまばゆいほど立派な状態を言う。

●御くだもの
「くだもの」には果実の意味の他に、お菓子の意味と酒のつまみの意味もある。ここでの「くだもの」は、おつまみは関係ないとして、フルーツなのかお菓子なのかはよく分からない。

●御前にもまゐらせ給ふ
「御前」は中宮様のこと。「まゐらせ給ふ」は「まゐらせ|給ふ」と切れる。「まゐらす」はさしあげるの意味。ちなみに「まゐら|せ|給ふ」と切れば「参上なさるor参上させなさる」の意味になるが、もちろんここでは意味不明になる。


引き続き圧倒されている清少納言です。

伊周に捕まったらさあ大変、というところですが、捕まらないわけがありません。

そのくだりは次回です。

 

<<戻る---進む>>

 

にほんブログ村 本ブログ 古典文学へ
にほんブログ村