【AFP=時事】
米首都ワシントンでバーテンダーとして働くダンジェール
・ウィリアムス(Danjale Williams)さん(22)は、多くの米国
人同様、新型コロナウイルス による感染症の拡大に不安
を感じている。
しかし、ウィリアムスさんが感染よりも恐れているのは、
感染した場合に発生する払えるとは思えないほど高額の
医療費だ。
米国では2750万人近くが医療保険に加入していない。
「医療費がものすごいので、病院へ行くのに二の足を
踏むと思う」と言うウィリアムスさんもそうした一人だ。
「病気になっても、健康を保つのに十分な貯金がない」
先月29日に同国初の死者が報告された米西部でも、
新型コロナウイルスの拡大が始まっている。
公衆衛生の専門家らは、米国には他の富裕国にない
脆弱(ぜいじゃく)性がいくつかあると警告する。
このような脆弱性には、保険未加入者 の数が膨れ上
がっていること、当局との接触を恐れる1100万人前後の
不法移民が存在すること、病気になっても失職を恐れ
て休まない「パワースルー(困難な状況でもなんとかや
り切る)」文化があることが含まれる。
「これらすべてがウイルスのまん延を助長する」と、
カリフォルニア大学リバーサイド校(UC Riverside)の
疫学者ブランドン・ブラウン(Brandon Brown)氏は警告
する。
■保険未加入者
無保険状態の米国人の数は2010年の4670万人がピ
ークで、バラク・オバマ (Barack Obama)前政権時代の
医療保険制度改革法 (Affordable Care Act、通称オバ
マケア、Obamacare)以降減り始めていた。
だが2年前から再び増加しており、現在の保険未加入
者は2750万人と、全人口の約8.5%に上っている。
「(新型コロナウイルスの)感染拡大が続けば、われわ
れがすでに取り組んでいるのに解決できていない医療
格差問題の一部が浮き彫りになる」と、ジョンズ・ホプキ
ンス病院(Johns Hopkins Hospital)生物学的封じ込め
チームのブライアン・ガリバルディ(Brian Garibaldi)医長
は語る。
保険未加入者 が病気になった場合、頼るものが全くな
いわけではない。
米国法では支払い能力にかかわらず、緊急治療は受
けられると定められている。
だが、無料になるわけではなく、保険未加入の場合は
後に多額の医療費が請求される可能性がある。
米疾病対策センター(CDC)は新型コロナウイルス に関
する主な勧告の一つとして、症状が軽い場合は家にとど
まることを呼び掛けている。
「しかし仕事や立場、地位によって、そうできない人も
多い」とブラウン氏は指摘する。
米国は先進国で唯一、有給の病気休暇を国として義務
付けていない。
米シンクタンク、経済政策研究所(Economic Policy In
stitute)によると、民間企業では年平均8日の有給休暇が
付与されているが、最低賃金労働者で有給休暇を取得
できているのはわずか30%だという。
そうした労働者の多くにとっては、1日欠勤するだけでも
経済的に大きな損失となり得る。
会計事務所ロバート・ハーフ(Robert Half)が昨年10月
、全米の2800人を対象に行った調査によると、病気でも
時々仕事に行くと答えた人が57%、病気でも必ず仕事に
行くと答えた人が33%に上った。
■懸念されるワクチン代
新型コロナウイルスによる世界の死者は4500人を超え、
ワクチン開発と治療法の確立が急がれている。
現時点の予想では、ワクチン候補の開発に12~18か月
はかかるとみられている。
議会では「価格は手頃なのか」という問いが、アレックス
・アザー(Alex Azar)厚生長官に突きつけられた。
アザー厚生長官は「われわれとしては手頃な価格にな
るよう努力していると請け合いたい。だが、民間部門には
投資が必要であり、われわれは価格をコントロールする
ことはできない」と答えた。
同氏は「利益をあげるなとは言わない」と指摘する。だ
が、「コロナウイルスに感染したかもしれない米国人を支
払いができないからと、死なせてしまっていいのだろうか
」。
【翻訳編集】 AFPBB News