http://www.sankei.com/west/news/141209/wst1412090002-n1.html

【衝撃事件の核心】
まるで映画のワンシーン…グリコ脅迫犯「怪人28号」を追い詰めた大捜査網 警察悪夢の記憶「グリコ・森永事件」模倣犯の〝素顔〟

2014.12.9 11:00 産経新聞



江崎グリコへの恐喝未遂容疑で逮捕され、
大阪府警本部に移送される久保淳容疑者
11月30日午後



「あれから30年。そろそろお金も尽きてきた」


 犯人は大胆不敵にも「怪人28号」を名乗り、
製菓会社「江崎グリコ」(大阪市西淀川区)に
脅迫文を送りつけてきた。

 グリコの商品に毒物を混入させると示し、現金
を脅し取ろうとした男が恐喝未遂容疑で逮捕され
た事件。

 男は脅迫文の中で、青酸入りの菓子がばらまか
れ、社会を震撼(しんかん)させた「グリコ
・森永事件」の犯人であるかのような態度をちら
つかせた。

 大阪府警と警視庁は合同捜査本部を設置。

 捜査員150人態勢の大捜査網を敷き、
11月30日、現金の受け渡し場所で身柄を確保
した。

 後に「典型的な模倣犯」と判明する男の素性は、
かつて映像制作会社の代表を務め、犯行の際に名
乗った「怪人28号」ならぬ「鉄人28号」の
舞台制作にもかかわった人物だった。




■ディズニーランド観光客の正体

 犯人が指定してきた周波数に無線機を合わせる。

 イヤホンから聞こえる会話に耳を澄まし、眼前
にいる不審な男の口の動きを注視する。

「同じだ」-。

 11月30日午後。

 東京ディズニーランドの最寄り駅、千葉県浦安
市の舞浜駅周辺は、〝夢の国〟を訪れた家族連れ
やカップルらでにぎわっていた。

 だが、そのにぎわいのうち、約70~80人は、
警視庁と大阪府警の捜査員が〝化けて〟いたもの
だった。

 犯人が指定した現金の受け渡し時間は、

《11月30日午後5時》

 場所は、

《東京ディズニーランドの入場ゲート》

 現金の受け渡しに際しては、あらかじめ、無線
で連絡を取り合うことを要求しており、具体的な
周波数も提示してきていた。

 この1週間前の23日、犯人はJR東京駅での
現金受け渡しを指示してきていたが、姿は確認
されなかった。

 そして今回-。

 現金を持参する江崎グリコ関係者は大阪府警の
捜査員が演じていた。

 また、ディズニーランドと舞浜駅を結ぶ約
500メートルの区間には、雑踏に紛れる形で
府警と警視庁の捜査員らが配置された。

 ある者はカップルにふんし、ある者は観光客の
ように振る舞って…。

 だが、犯人の不審な動きを見落とさないように
と目には鋭い光が宿っていた。

 やがて、捜査員は舞浜駅からほどなくの地点で、
不審な動きをしている人物を発見する。

 黒いコートを着て、ショルダーバッグを持った
男が、無線機に向かって何かを話していたのだ。

 捜査員は職務質問をし、警視庁神田署に任意
同行を求めた。




■「またお願いするよ」

《平成26年10月下旬から、江崎グリコ社長
あてに脅迫文を郵送し、現金の交付を要求。応じ
なければ商品に毒物を混入する旨の気勢を示し、
現金を脅し取ろうとしたが、同社が警察に届け出
たため目的を遂げなかった》

 男の逮捕容疑だ。

 府警によると、男が出したとされる脅迫文は
6通。

 都内の別々の6カ所から出され、差出人はいず
れも「かい人21面相」ならぬ「怪人28号」。

 1通目は10月29日に投函(とうかん)され
ていた。

《あれから30年。そろそろお金も尽きてきた。
毒入り危険と騒がれたくなければ、またお願い
するよ》

 ほかの脅迫文は、次のような内容だったという


《要求に応じるか?》(2通目)

《現金3千万円を要求する。無線でやり取りをし
たい。周波数を指定する》(3通目)

《11月23日午後5時、JR東京駅丸の内南口
改札だ》(4通目)

《不穏な動きを察知した。だから次は5千万円だ》
(5通目)

《11月30日午後5時、東京ディズニーランド
の入場ゲート。後は無線の指示に従え。周波数は
前回と同じだ》(6通目)

 江崎グリコは10月31日、大阪府警に相談し、
脅迫文を届けたという。

 脅迫文の中で、犯人が

「警察に言うなよ」

「警察を信じるな」などと脅していたにもかかわ
らず、

 だった。ある捜査幹部は
「グリコ側が素早く警察を頼ってくれたことが、
後の事件解決につながった」と明かしている。




■未曽有の企業恐喝

「氏名、住所ともに不詳。年齢は40代くらい」

 大阪府警は11月30日午後10時すぎ、
恐喝未遂容疑で男を逮捕したことを発表したが、
その時点では、男が何者なのか、詳細は分からな
かった。

 逮捕した30日午後8時すぎから約2時間後と
いう短い時間での記者発表もさることながら、
男は氏名や住所を含めて黙秘していたのだ。

 今回の犯人は
「警察庁指定114号」=「グリコ・森永事件」
に関係した人物なのか-。

 一連の事件は昭和59年3月、
当時の江崎勝久社長宅に犯人が押し入り、社長
を誘拐したことに端を発する。

 今回の脅迫犯が「あれから30年」と言及し
たのは、社長誘拐事件のことだろう。

 以降、事件は〝劇場化〟していく。

 同年4月、産経新聞などに1通目の「挑戦状」
が届く。有名な「けいさつの あほども え」
というフレーズのものだ。

 直後にはグリコ本社などが連続放火され、
5月に「青酸ソーダを入れた」との挑戦状が届
くと、店頭からグリコ製品の撤去が始まった。

 次第に犯人はグリコから丸大食品、森永製菓、
ハウス工業へとターゲットを変え、事件は多数
の食品会社を狙う企業恐喝事件へと拡大して
いった。

 警察当局は、大阪府警や兵庫県警、警視庁
などで延べ130万人を超える専従捜査員を
投入。

 約12万5千人を捜査対象者とし、情報も
2万8千件以上が寄せられたが、段階的に事件
は時効を迎えていき、平成12年2月、すべて
の事件での時効が成立した。




■映画会社代表の過去

 国内有数の未解決事件。多数の追随を許し、
400件を超える模倣犯を生み出したとされる


 近年でも、「黒子のバスケ」事件で
「怪人801面相」と名乗る関西弁の脅迫状が
出され、「毒入り危険」と張られた菓子がコン
ビニに置かれた。

 4人が誤認逮捕された遠隔操作ウイルス事件
では、犯行声明に
「警察・検察の方へ あそんでくれてありがと
う」と揶揄(やゆ)する文言が並んだ。

 そして今回。

 ある捜査関係者が「典型的な模倣犯」と断言
する中、男は12月1日になり黙秘を撤回。

 氏名や住所を含む素性を明らかにし、自らの
ことを話し始めた。

 男は東京都小平市上水本町、無職、久保淳
(あつし)容疑者(52)だった。

「金がほしかった。1人でやった」と語り、
グリコを狙った理由は
「食品会社は(毒物に対する)反応がいいと思
った」。

 明らかに模倣犯だった。

 関係者によると、久保容疑者は都内の映像
制作会社の代表を務めていた。

 会社のホームページによると、平成6年7月
設立。

 映画を中心とした映像作品の制作にかかわっ
ていることが多いという。

 脅迫文の「怪人28号」の着想となったのだ
ろうか、21年には人気漫画をモチーフにした
舞台「鉄人28号」を制作したとしている。

 だが近年は順調ではなかったようで、無職に
なり、借金もあったという。

 近所の住人は
「会社は数年前に入居するビルを引き払って
いたようだ」と話すが、家賃が払えなくなり
退去したとの情報もある。

 動機は「金」だった。

 ではなぜ、いったんは黙秘したのだろうか。

 久保容疑者はこう話したという。

「家族のことが気になり言えませんでした」。





30年前ならいざ知らず、防犯カメラが、普及
した現在、お金を脅し取るのは、難しいですね


現金の受け渡し現場を取られる可能性が、高
いですから。

労力に比べて、割の良い犯罪とは、思えません


お金に窮すると、そんな冷静な判断も出来なく
なるのでしょう。

家族が気になるのなら、初めからやらない事
ですね。