1 原則について

 前回までに,デール・カーネギーが提唱する「人を動かす3原則」と「人に好かれる6原則」を紹介しました。

 

2 人を説得する12原則

 今回は,「人を説得する12原則」を紹介します。カーネギーは,次の原則をあげています。

 (1) 議論を避ける

 (2) 誤りを指摘しない

 (3) 誤りを認める

 (4) 穏やかに話す

 (5) 「イエス」と答えられる問題を選ぶ

 (6) しゃべらせる

 (7) 思いつかせる

 (8) 人の身になる

 (9) 同情を寄せる

 (10) 美しい心情に呼びかける

 (11) 演出を考える

 (12) 対抗意識を刺激する

 

3 二つを選んで紹介します。

 いずれも大切なことですが,この中から(1)と(2)について紹介したいと思います。

 

(1) 議論を避ける

 相手と激しい議論をして,たとえ勝ったとしても,相手は意見を変えたりはしませんし,私を嫌いになるだけです。一瞬の優越感が得られるだけのことで,まったく意味がありません。

 

 議論が始まりそうなときは,自分に次のような問いをすることが大切です。

 ・相手の方が正しいのではないか。

 ・少なくとも正しい部分があるのではないか。

 ・相手の主張に,正当性,長所はないのか。

 ・私の反論は問題の解決に役立つのか,ただ溜飲を下げるだけのものか。

 ・私の反論は相手を引き寄せることになるのか,遠ざけることになるのか。

 ・この難関はむしろ好機ではないか。

 

 私の経験を一つ紹介します。ある人から責任者に提案があり,その責任者から私の意見を求められましたが,私は反対の意見をメールに書いて返信しました。

 

 私のメールは提案者に転送されましたが,さらに反論のメールがあり,責任者と一緒に協議することとなりました。

 

 私はかなり対立的な議論になるだろうと予測して,車で協議の場へ向かいましたが,その車中でオーディオブックを再生したところ,本書の「議論を避ける」というところが流れてきました。

 

 私は自分に対して先ほどの問いを投げかけましたが,目が覚めたような気分になりました。

 協議の場で,私は相手の意見にすべて賛成しましたが,結論は私の意見のとおりになりました。つまり,二人は同じ意見だったのです。

 

 意見の違っている部分に目が行きがちですが,俯瞰すると意見は一致していたのです。激しい議論を予想していた責任者は拍子抜けしたようでした。

 「議論を避ける」ことは,とても大切なことだと知らされた出来事です。

 

(2) 誤りを指摘しない

 若い弁護士がアメリカの法廷で弁護をしていました。その時,裁判官が「海事法では時効は6年だったね」と言いました。その弁護士はしばらく裁判官の顔を眺めていましたが,やがて「裁判官,海事法には時効の規定はありません」と言いました。その瞬間,法廷は水を打ったように静まり,冷たい空気があたりを覆ったと言います。この裁判の結果がどうなったかは分かるでしょう。相手の誤りを指摘することは得策ではありません。

 

 しかし,真面目で優秀な人ほど,他人の誤りを指摘しがちです。人の誤りを発見すると黙っておれず,指摘したいという心がムクムクと沸き起こってきます。指摘欲です。この欲と戦って,スルーすることが何より重要です。正しいことを言うことは必ずしも正しくありません。

 

 誤りを発見したときは,この誤りは正すべき誤りなのか,正さなくて良い誤りかを考えます。そして,もし正すとすればどういう方法が適切か,相手に伝えて正すのか,自分を変えて正すのかを熟慮するようにしましょう。

 

 この続きは以下です(最終回)。