1 カーネギーの原則

 前回までに,デール・カーネギーが提唱する「人を動かす3原則」と「人に好かれる6原則」,「人を説得する12原則」を紹介しました。

 

2 人を変える9原則

 今回で最後になりますが,「人を変える9原則」を紹介します。カーネギーは,次の原則をあげています。

 

 (1) まずほめる

 (2) 遠回しに注意を与える

 (3) 自分の過ちを話す

 (4) 命令をしない

 (5) 顔をつぶさない

 (6) わずかなことでもほめる

 (7) 期待をかける

 (8) 激励する

 (9) 喜んで協力させる

 

 いずれも大切なことですが,この中から(2)と(3)と(4)について紹介したいと思います。

 

(2) 遠回しに注意を与える

 チャールズ・シュワッブ(この本に何度も登場する人物です)が,昼休みに工場を見回っていると,「禁煙」と書かれた看板の下で数人の従業員がタバコを吸っているところに出くわしました。

 シュワッブは「君たちは,禁煙の字が読めないのか!」などとは言いません。一人一人に葉巻を渡し,「さあ,皆で外へ行って吸ってきたまえ」と言いました。彼らは二度と工場内でタバコを吸うことはありませんでした。

 

 デパート王のジョン・ワナメーカー氏が店内を見回っていると,一人の顧客がカウンターの前に立っていました。店員たちは少し離れたところでおしゃべりに興じています。ワナメーカー氏は,そっと売り場の中に入って注文を聞き,品物の包装を店員に頼んで立ち去りました。

 

 二つの事例が紹介されていますが,「遠回しに注意を与える」というより,まったく注意していません。

 

 私がジョン・ワナメーカーの立場に立ったら,どうするでしょうか。

 「何をおしゃべりしてるんだ。お客様が待っているんだぞ」と注意するのではないかと思います。

 

 心の中では,「仕事中はもっと緊張して,周りに気配りしろ!おしゃべりしているヒマなんかないんだぞ!」と相手を見下ろして,ののしる心が出てくると思います。そんな心で注意されたら,相手はどう思うでしょうか。間違いなく,私に対して腹を立てます。表面上は私に逆らえませんが,いつかこの仕返しをしてやろうと心に誓うはずです。

 

 この二つの事例は,とても大切なことを教えてくれます。

 

(3) 自分の過ちを話す

 

 人に注意することがある場合,「そんなミスをするなんて絶対にあり得ない」と言う人がありますが,それは逆効果です。反発を買うだけで終わってしまいます。

 

 「そのミスは,私も昔よくしたんだよ」と言った方が,相手は快く受け入れて成長するものです。

 

(4) 命令をしない

 学生の不法駐車で出入り口が塞がれていました。教員は学生に向かって「入り口に停めてある車は誰のものだ!車をどけろ。今すぐにだ。グズグズしていると車に鎖を巻いて引きずり出すぞ」と言いました。この日から同じクラスの学生がそろって,この教員を困らせることばかりするようになったそうです。

 

 確かに学生が悪いのですが,命令をするのではなく,「あの車を動かしてくれると助かるんだが」と言えばよかったのです。

 

3 最後に

 書名である「人を動かす」というのは,自分の思いのままに人を操るということではありません。相手がより素晴らしい人になれるように,素晴らしい人生を送れるように,その人を動かすということです。

 

 この本に書かれていることは,難しいことではありません。少し気をつければよいことばかりです。実践して行きたいと思います。