湯島センチメンタルズ90s その1 | 超殺落劇場…限りなくホームレスに近いパパ

超殺落劇場…限りなくホームレスに近いパパ

最近、妻と別居する事となり、二人の愛する愛娘をおいて、
マンションを出る事になりました。
ほぼホームレス状態になった私のこれまで、そして、
これからの超転落人生をお楽しみください(#^.^#)
どこまで堕ちるのか?分析と解説を交えながらお伝えします。

【湯島センチメンタルズ90s】

21、2歳の頃、オレは上野湯島にある
キャバレークラブで、ホールスタッフとして
働いていた。

そのお店は、御徒町から春日通りを天神下方向に進み、
その途中の細い路地道を左に入って仲町通り方向へ進むと
湯島の様々なジャンルの飲み屋の看板が、積み木のように
重なった区域が見えてくる。その一画地にある
路地裏の雑居ビル地下1階に、お店はあった。

形態はキャバクラだが、現在で言うセクシーパブや
ランジェリーパブに近い要素を含んだ先がけ的なお店だった。

全員のホステスではないが、OKがでたホステスのみが、
毎日、レースクイーンばりのハイレグレオタードや
水着などのセクシー衣装で接客する当時では新しい
スタイルのお店だった。

あのススキノや、変態ヘルスが乱立する池袋西口エリア
派生という、話題性もあってか、そのお店も意外と
流行っていた。

お店の特徴といえば、地下一階に降りていく階段の途中に、
煌々と怪しげに光る青い光と、その光とうまい具合に交わり、
より強い好色を演出するブラックライトの蛍光灯。

そして、

そのライトに照らされた、ナイスバディ~すぎ~
の黒い女体を持った大きな羽のアゲハチョウ女が、
このお店のトレードマークで目印になっていた。

ガキの頃に、虫取り網と虫かごを持って、
必死に追いかけていた、あのアゲハ蝶をまさか
二十過ぎになって、こんなエロティックなフォームで
見るとは思いもしなかった。

そのアゲハチョウ女の体は、いつも俺に
ルパン三世に登場する峰不二子を想像させた。

それぐらい、グラマラスで非現実的なスタイルを
持ち合わせた、エロいアゲハチョウ女だった。

客は、そのアゲハチョウ女を見ながら階段を降り、
店内から徐々に響き渡る、上品の欠片もない男性スタッフの
アナウンスと「フランキーゴーストハリウッド」などの
80sユーロビートに引き込まれ、さまざまな想像を駆り立てながら
来店することは、容易に想像する事ができた。

現在では、時代遅れ的な店舗設定かもしれないが、
この頃、特に湯島では、斬新で目を引く外装や内容だった。

その一方、お店の周りには「個性」とは程遠い
スナックやキャバクラ、居酒屋、多国籍料理屋たちが
ギュウギュウに詰めあいながら、湯島の街に
軒を連ねていた。

そして上野全体が夕闇に包まれる時間帯になると、
一斉に、これもまた「個性」とは程遠いネオンを
華やかに放ち始める。

その眺めはオレに、授業中に一斉に手を挙げて
先生を困らせる遠慮を知らない小学生達を想像させた。

やる気のある看板から、やる気を失せた看板まで
個性のない様々な形の看板が一斉に手を挙げた。

その光景は、華やかでとても賑やかなのだが、
オレにとっては、どこか寂しくて、非常に孤独を
感じる光景でもあった。

理由は解らないが、ナゼかそう感じたし、
ナゼだかいつも、そんな風に見えた。

湯島独特の街の雰囲気がそうさせているのか、
湯島の夕闇モードがそうさせているのか、
それは定かではないが、いつもそう感じさせた。

それは、夏と秋が交じり合った季節に、
誰もいない静かな砂浜で、無惨にも砂だらけに
なって干からびた、昆布のミイラのように
寂しくて孤独だった。

さらに「いもッ子倶楽部」とか「ナウいん♬」
などの間抜けなネオンを見ていると、より一層、
ジャンル違いの両極端な寂しさが二乗することになるのだ。

湯島革命や根性試しでもしようと思っていたのか、
なぜ、そんなフザケタ名前が付けられるのか
オレには超常現象のように不思議で仕方なかった。

どこから、そんな店舗名の案が出てくるのかを
自分なりに想像する事もしばしあったぐらいだ。

「いもっ子倶楽部」という店名はどのように
誕生したのか?

「ナウいん♬」という店名はどのよう形で
店名候補にあがったのか?

それは、責任者がワンマンで決めたのか?

それとも、

会議での多数決の結果、賛成多数で決定したのか?

普通の人ならどうでもいい事だが、その当時、
この湯島という街では、「それを考えざるを得ない状況」
を作り出す、摩訶不思議な看板やお店があったのだ。

どのようなプロセスを得て、店名がついたのか興味津々で、
オレは真剣に店名決定までのプロセスを想像した。

例えば、

こんな具合に。

そこは、インベーダーゲームとルーレット式のおみくじが
元々そこに備え付けてあったかのように、違和感なく
空気のように置いてある、浅草千束の喫茶店。

そこの窓際の席に、パンチパーマで強面、しかし、どこか
チンパンジーの子供のような愛嬌がある紫色のアルマーニスーツを着た
アニキ風の男と、押上をこよなく愛しているのか、背中に「押上」という
ゴシック体のロゴ文字が縦に大きく入った黄色のボーリングシャツに、
スリータックのハイウエストジーンズ、それに細い白のエナメルベルトを
した坊主頭の舎弟風の男が座っている。

「今から話す事は誰にも言うなよ、わかったか」
とチンパンジーのアニキが押上loveの胸倉を掴み、
自分の方に引き寄せ、眉間に皺をよせ、より
チンパンジーに近い顔で言った。

「へい!アニキ!」
と押上loveが緊張感なく明るく答える。

「実はよ、湯島のスナックで「ラフォオーレ湯島」って
お前も知ってるだろ」
とチンパンジーのアニキが「ラフォオーレ」の部分だけ、
まるで武田鉄矢のように強調して言った。

「へい、アニキ!大屋政子そつくりのママが
やっているお店でやんすね!」
と押上loveが、うっかり八兵衛のように答える。

その言葉を静止するように、チンパンジーのアニキが、
右の手の平を押上loveに押し出して、周りを警戒するように
見渡し、ヒソヒソ話をしてるつもりがヒソヒソ話になっていない、
大阪のオバちゃんのようなテンションと素振りをしながら、

「それがさ、その政子ちゃん似がな店を撤退する事になったんだってさ」
と手をパタパタ嬉しそうに振りながら言放ち、
ショートホープの箱からタバコを一本取り出し口に加えた。

「ヒュ~ヒュ~♬」
と何故か押上loveが盛り上がり、これでもか、というくらいの
早い動作で100円ライターをボンタンジーンズから取り出して、
チンパンジーのアニキのタバコに火をつけた。

「ヒュ~ヒュ~♬って、お前は牧瀬里穂か♪」
と「二十歳の約束」とダブったのか、そのヒュ~ヒュ~♬が
まんざらでもない感じでチンパンジーのアニキが嬉しそうに
ツッコみを入れる。

「あのママ、噂によると80歳超えてるらしいぞ」
と、チンパンジーのアニキは真剣な顔つきで言った。

「ヒュ~ヒュ~♬」
と押上loveが、盛り上がる。

「おい♬、お前は牧瀬里穂か♪」
と更に嬉しそうに、チンパンジーのアニキは満面の笑顔で
押上loveにツッコみを入れる。

「大屋政子だけだったらまだしもだよ、70近くの野村沙知代似の
ホステスまでいるんだからよ。もう限界だろ、流石に限度って
ものあるだろ限度ってものがよ。政子ちゃんとサッチーじゃ客も
ドン引きだよ。つい最近、あの店に入った客が、金縛りにあって
救急車で運ばれたって噂だぞ。宜保愛子まで呼んでお祓いしたらしいぞ。
クワバラ~クァバラ~。それに来る客って言ったら、妖怪マニアと
お化け屋敷マニアしかいねえっつーじゃねーか。それにだよ、
あの水木しげるが妖怪研究のために、足繁く通っていたなんて噂まで
あるんだぞ。そんな妖怪大全集に載っちゃうみたいなスナック、そうそうないよ。
ある意味、重要文化財だな、ありゃ。あの店に行くんだったらよ、
歌舞伎町のボッタクリバーで、あっさりボッタクラれた方が、まだマシだっつ~の~」
そう言うと、チンパンジーのアニキはタバコの煙を
うまそうに吸いこみ、鼻の穴から一気に吐き出した。

「そこでだ!驚くんじゃねえ、なんと俺はそのお化け屋敷を
ダダ同然に引き継ぐ事になったんだよ、あのリアルお化け屋敷とは
180度違うお店にしちゃうんだよ~」
とチンパンジーのアニキがニコニコと得意げに、
そして自慢げに言放つ。

その顔は最早、チンパンジー風ではなく
チンパンジーそのものになっている。

「ヒュ~ヒュ~♬」
と、押上loveがつかさず盛り上がる。

「だからン♬、お前は牧瀬里穂か♪ カキーン♪」
と、もうノリノリのルンルンでチンパンジーがツッコむ。

「そこで俺は昨日、一睡もせずに新しくオープンする
ための店名を脳ミソを雑巾みたいに絞って考えたんだよ」
と雑巾を絞る仕草をした後、ジャケットの内ポケットから
一枚の半紙を取り出し、両手でそれを勢いよく
押上loveに広げて見せた。

「いもッ子倶楽部!!」

と、そこには迷いや恥じらいなど1ミリも存在しない
ドスの効いた強い口調で、チンパンジーは誇らしげに言った。

そして、押上loveの目の前に出された半紙には、
ピカピカの小学1年生が書いた方が絶対にマシだと
思わせるほど、いびつで不細工極まりない、
変わり種バリエーション満載の文字で、

「命名 いもッ子倶楽部♡」

と黒のマジックペンで書かれていた。

「ヒュ~ヒュ~♬」
と押上loveが新種の生き物を発見してしまった
時のような驚きの顔でテンションが更にあがる。

「カキーン♪」
と絶頂のチンパンジー。

「スゲーだろ、俺が大好きな上位2つをくっつけたら
この名前にたどり着いたんだよ~ナウいだろ♪」
とチンパンジーが興奮しながら言う。

そして、チンパンジーが歌のベストテンを彷彿させる、
くちドラムロールで、大好物1位、2位を
嬉しそうに発表しだした。

「発表します!まずは第2位は・・・「こふきいも」!」

「ヒュ~ヒュ~♬」

「そして、堂々と第1位に輝いたのは、「おニャン子クラブ」!」

「キックオ~フ♪」
と押上loveが爽やかに言った瞬間、条件反射的に
チンパンジーが席を立ちあがり、おしぼりをマイク替わりにして、
おニャン子クラブのナンバー、「じゃあね」をもうこれ以上は、
我慢できんとばかりにフランク永井ばりの太い声で、それも、
完璧なフリをいれながら歌いだした。

「じゃあね♪そっと手を振って♪じゃあね~♬
だめよ泣いたりしちゃ♪」

「ナウいイイイイイイイイーンン♪」
とスピッツ犬が足を踏まれた時に出す鳴き声のように、
押上loveは絶叫した後、チンパンジーに追いつけとばかりに
「じゃあね」を一緒に歌いだした。

その後、2号店が「ナウいん♬」に決定したのは、
言うまでもなかった。

このように、基本的に陳腐な場所や決して基本的に
「まともではない」人たちによって、摩訶不思議なお店の
名前は決まっていくのではないかと、オレは想像する
しかなかった。

しかし、

逆に、そんなフザケタ名前で看板や100円ライターを
本当に制作してしまったオーナーやママたちは、
尊敬に値する人物なのかもしれない。

経営者というのは、「ま・と・も」な思考では
到底務まらないのだと、深く学んだのだ。

さて、俺がこのクラブで働く事になった
きっかけは、当時付き合っていた彼女からの紹介だった。

そう、付き合っていたガールフレンドが、
このクラブの仕事を紹介してくれたのだ。

彼女は、年齢は俺より三つ上で、とても明るくて、
口調はハキハキとし、笑顔がとても
チャーミンングな女性だった。

そして彼女は、オレのガールフレンドでもあり、
このお店でセクシー衣装を着て働く方の
ホステスでもあった。

「ヒュ~ヒュ~♬」

つづく