7月4日の『ロンドン・ブールヴァード』の作者と同じだが、
あっちの作者は、ケン・ブルーエンとなっていた。
Ken Bruen と書くが、
発音は“ブルーウン”に近いという事で、
早川書房では“…ウン”としてあるようだ。
(…エンと表記しているのは新潮文庫)
ウンでもエンでもいいけど、
運よりは円の方がいいなぁ。
で、本題の『酔いどれに悪人なし』
例によって内容紹介文。
酒のせいで警察を辞職する羽目になったジャックは
日々行きつけの店で飲んだくれ、
飲まないときは読書をするか、前職を活かした探偵業にいそしんでいた。
ある日、いつものように飲んでいると、
美しい女が自殺した娘の死の真相を調べてほしいと頼んできた。
望みの薄そうな調査に始めはいやいやだったジャックだが、
ある事件をきっかけに負けじ魂に火がつく!
酒と本を愛するすべての人に捧げる、新しいかたちの探偵物語登場。
舞台はアイルランド。
アイルランド(正しくはアイルランド共和国)と言えば、
『ユリシーズ』の作者のジェームズ・ジョイスや、
世界的に有名なロックバンド『U2』
などを排出した国として有名である。
場所は
グレートブリテン島の西に浮かぶ、
アイルランド島の南約6分の5である。
(残りの北アイルランドはイギリス領)
前回の『ロンドン・ブールヴァード』はノワール(暗黒小説)だったが、
こちらは、ハードボイルドであるが、
さすがに“ノワールの詩人”の作品だけあって、“暗い”。
文中から:
店内には装飾品らしきものは何もない。
ハーリング(アイルランド式ホッケー)用スティックが二本、
汚れた鏡の上で交差している。
そのさらに上に目をやると三連式の額がある。
額におさめられているのは、
教皇、聖パトリック(アイルランド人の守護聖人)、
そしてジョン・F・ケネディ。
JFKが真ん中だ。
アイルランドの三聖人。
ん?JFKってアイルランド人だっけ?
調べた。
そうか、JFKの両親はアイルランド系移民なんだ。
だからジョンがアメリカ大統領になった時、
アイルランドの国民は狂喜乱舞したんだ。(らしい)
酒場で酔っ払いの女が、
アカペラで『ノー・ウーマン、ノー・クライ』を歌うと、主人公は言う。
「地獄の奥底で生きているやつでなきゃ、
こんな清らかな声で歌えない」
彼女はうなずいた。
「カフカだね」
「誰が?」
「いまの言葉を言った人」
「カフカを知ってるのか?」
「あたしは地獄を見てきた女だよ」
いいねぇ、さりげなくボブ・マーリーの歌が歌われ、
さりげなくカフカが会話の中に入ってくる。
カフカといえば、
『変身』も最後まで読み切った記憶が無いし、
『断食芸人』にいたっては…
苦手だなぁ、こういう真面目な本。
えっ、なぜ持ってるって?
それは読書家としての一種の義務みたいなもので、
カミュの『異邦人』などと同様なんだが…
現実には時は通り過ぎていかない。
おれたち人間が通り過ぎていくのだ。
その理由はわからないが、
とにかく、おれがこれまで学んだうちでもっとも悲しい事実のひとつだと思う。
そうだ、そうだっ。もっともだっ!
前に折られた指を病院で治療してもらったが、
完治前に再度折ってしまい…
アンに説得されて、おれは手を診てもらった。
新しギブスと小言をもらった。
看護婦がぴしゃりと言った。
「いいかげん、指の骨を折るのはおやめなさい」
思わずニヤッとしてしまった。
こういうウイットの効いたセリフは大好きだ。
そして何分か立ちつくしたまま、
滑稽なほどみじめな気分になって、クレイは首を振った。
思い知らされたのだ。
人生というのは、
一度しくじってしまうと、
果てしなくしくじり続けるものなのだ。ということを。
(これは章と章の間に挿入された、他の小説の引用文だ)
解るなっ、こういうの。
そんな人が、オイラの人生の中に何人も出現したもの。
あっ、オイラはしくじっていないので、ご安心を。
「どこかへ行くのかい?」
「ああ」
彼は訊かなかった。
どこへとも
いつとも
おまけに
なぜとも。
ただうなずいただけだった。
こういう友人って素敵だ。
あれこれ聞いてくるヤツは…
真の友人ではないかもしれない。
別の場所へ行って、
他のヤツに知ったかぶりをして言い散らかすんだよ、きっと。
例えば:
川の水面を撫でるように風がそよいでいる。
私は古びた木製の橋の前に立ち、じっと友を待つ。
なんてのより、
オレは橋のたもとで友を待つ。
ってのが好きだ。
友を待つのに、
風がそよごうが、雨が降ろうが、
ほとんどの場合、関係無い。
余分な形容詞や修飾語はいらない。
そう、ノワールや、良くできたハードボイルドは簡潔だ。
そんな意味で、この小説は合格だ。
エンディングも良かったし、
酔っ払い探偵の“胸キュン”も物語に花を添えている。
さて、次は何を読もうかなぁ。
あっ、間違ってもカフカやカミュではない♪