アートに詳しい友人に勧められた漫画「ジェリコー」。

食い入るように一気読み。

 

不勉強で、テオドール・ジェリコーという画家を知らなかったのですが、19世紀初頭、ロマン主義、印象派などに先駆けて

「近代絵画の先駆者」といわれていて、あのドラクロワを弟子にもち、ある作品で美術界にスキャンダルを巻き起こしたそうです。

 

では、ジェリコーは、何を描いたのか?

何故それを描こうとしたのか?

 


1816年、フリゲート艦「メデューズ号」が座礁し、150名近い乗客が救命筏で逃れたが、結局生存者は15名しかおらず、筏では、生き残りをかけた人間たちの凄まじい行為があった。

 

このショッキングな事件を題材に、ジェリコーは18ヶ月かけて大作を描き、サロンに出展した。

会場は騒然とした。

 

彼は、他人を喜ばせるための虚飾、硬直した神話ではなく、生身の、人間の、死と隣り合わせにある“生”を、

人間の野蛮を描こうとした。

そこに“美”を見出した。

 

病気のため、32歳の若さでこの世を去ってしまったが、もっと長生きしていたら、ドラクロワの名よりも後世に残っていたかもしれない。

 

彼は人目を引く美形で、家は裕福で、とても恵まれた環境にいた。

しかし、幼い頃に母親を失くし、もう一人の親代わりになってくれたような叔父夫婦の叔母と恋愛関係に陥ってしまう。

また、戦争に息子を行かせたくない父親が、お金を出して息子の身代わりを用意し、戦地へ送った。

 

当時の画家たちは、権力者とともに繁栄していたが、

ジェリコーは違う道を、独りで切り拓こうとした。

 狂気とともに。


 

人物を知ると、絵を観たくなる。

 

この大作「メデューズ号の筏」はパリのルーヴル美術館に飾られている。

数年前にルーヴルを訪れた記憶を辿っていった時に、微かに記憶の片隅に、この絵があった。

なんだかおどろおどろしい大きな絵があって、怖くて、目を背けた気がする。

 

この漫画を読んだ後だったら、しっかりと目に焼き付けたのに。

見る目がないなあと、落ち込んでしまった。


ジェリコーは、この作品だけではなく、何点かルーヴルに収められているそうで、

もしまた訪れる機会があったら、その時は、

ジェリコーが描こうとしたものを、受け止めたい。

目を逸らさずに。