桜木紫乃著「ブルース」と、その続編「ブルース Red」

「ブルース」は、影山博人という、一人の男に翻弄される八人の女たちの短編集。

釧路で生まれた、指が六本ある博人が、自ら過剰な指を切り落としながら、夜の支配者へとのしあがっていく。
その過程で会う八人の女たちに、博人は希望と絶望を与えながら、忘れられないものを残していく。

物語の中で流れる、ナット・キング・コールの「Fry Me to the Moon」
この曲が全編を通してぴったりで、
読み終わってからしばらく聴いていた。

全然関係ないけれど、
Netflixで今話題の韓国ドラマ「イカゲーム」でも、
一話のラストにこの曲が流れる。
曲と場面の、ミスマッチ感を超えての相性の良さに震えて、そこから一気見してしまった。


「ブルース Red」は、博人と所帯を持った、まち子(八人の女たちのひとり)の娘、莉菜が主人公。


影山博人と莉菜は血の繋がりも肉体関係もないけれど、
血縁よりも身体の結びつきよりも濃い何かがある。

莉菜、お前は悪い女になるといい。
男と違って女のワルには、できないことがないからな。

博人の言葉を忠実に守りながら、莉菜は博人が消えた釧路の街を裏社会から牛耳っている。

彼女には、たった一人、その成長を見守っている男がいる。
亡き父、博人の血をひく松浦武博だ。
彼を後継者として育て、官僚から代議士の道を歩ませようとする。
そしていつか自分はこの街からすっきりと消えようと考えていた。


少年だった武博が逞しく頼もしく成長していくにつれ、
裏社会のダークヒロインだった莉菜は少しずつ老いていく。

前作でダークヒーローのようでもあった博人は、
老いを見せることなく姿を消したけれど
今作のヒロインは確実に年をとり、それ故に死に場所を求めずにはいられない。

生命は共生し、循環する。
どんな人間であろうと、その自然の摂理からは逃れることができないのだ、という当たり前の事実が、
物語にのめり込んでいた自分を、乱暴なほど現実に引き戻す。


裏切りの果てに莉菜が辿り着いた、
終焉の地の光景。

全編を通して様々な闇を見たけれども、
光りもまた、一筋ではなく。
それぞれに降り注ぐ様々な光りがあるのだと思えた時、救われたような気がした。