先日、サントリーホールにて、第九を。

今年は合唱の人数を減らし、
客席前4列を空席にし、
出来うる限りの感染対策をしての演奏でした。

プログラムを読むと、来日予定だった海外の歌手の方お二人の代わりに、
日本人歌手のお二人が代役とのこと。

ここ数年、恒例行事のように、
年末に第九を聴きに行っているのですが、
始まる前から「コロナの時代の第九なのだなぁ」と、胸が締め付けられました。

指揮者は、イギリス人の、ジョナサン・ノット氏。

ステージに彼が現れた途端、彼は今どんな気持ちで日本にいらっしゃるのだろう、しばらく国に帰れないのだろうか、とか、色々考えて、また勝手に胸が締め付けられました。

ベートーヴェンが第九を書いた当時、その社会は、現代の我々の想像を超えて重苦しい状況にありました。街にはスパイがあふれ、ベートーヴェンはじめ、芸術家や大学関係者は検閲の対象となり、彼もスパイに睨まれていた、との記述もあったそうです。そうした中、彼は社会的不安や憤り、愛国的な感情を溜め込み、その個人的な感情が、交響曲というパブリックで、コンサートホールという公共空間で、大作を世に送り出そうという想いへと結実し、第九という作品になっていったのでした。

だからなのか、今年は全然「歓喜」の年ではないのに、これほどまでにメロディが、自分の感情と響き合うことはなかったように思います。

「それでも生きていく」という決意表明のような。
私たちは、どんな状況下であろうと自由を勝ち取ることができるのだと。
そんな連帯感を感じました。

それを証明するかのように、演奏が終わったあとの拍手の大きかったこと!
誰もが、ブラボー!と叫びたいけど、それは今は控えなきゃ。
でもこの感動を、感謝を、歓喜を、
ステージで素晴らしい音楽を奏でた演奏者たちに伝えたい、と。

私たち観客の想いはしっかり届いたようで、
鳴り止まない拍手の中、何度も、何度も、何度も… カーテンコールは続いたのでした。

そして、アンコールは、
「蛍の光」
段々と暗くなっていくステージの上に、
楽団員たちが持つ色とりどりのペンライトが揺れて…
とても幻想的でした。
生者と死者が、優しく交わり、飛び回るように。



今年一年ありがとうございました。
楽しみにしていたお仕事が延期になり、
先行きの見えない苦しい年になりましたが。
それと同時に、芸術がいつも以上に胸に響く年でもありました。
いっぱい受取ったものを来年はもっと、発信する側で!
がんばっていきたいと思います。
みなさま、どうぞ、
良いお年をお迎えくださいませ。

2020年 12月31日 小橋めぐみ