第五回高校生直木賞の候補作は・・・
佐藤正午「月の満ち欠け」
宮内悠介「あとは野となれ大和撫子」
彩瀬まる「くちなし」
門井慶喜「銀河鉄道の父」
澤田瞳子「火定」
でした。
なんとなく、毎年個人的な事前予想をしているのですが、
これが獲るんじゃないか的な。
で、毎年のっけから外しまくるわけなのですが。
(これ受賞しそう!と思った作品が、あっさり最初に落選する)
今年は、候補作全てを読んでみて、自分なりに予想を立てつつも、
いや待てよ。これが獲る可能性もあるし、あれが獲る可能性も捨てきれないぞと。
それぞれジャンルも文体も、全く違うし、
全ての作品が、高校生に響きそう!と。
毎年取材されている記者の方も、「本家よりも結果が読みにくい」と、おっしゃっていました。
今年は午前中に講演会があったせいか、午後の選考会が始まる前には、
既に他校の生徒同士で話が弾んでいる様子もちらほら見かけられ。
緊張感が半端ない例年よりは、和やかムードに。
ですが選考会が始まってみれば、途端に白熱した議論が例年通り、
ぽんぽん飛び交いました。
そしてまさかの。
候補作のうち、本家直木賞受賞作2作「銀河鉄道の父」「月の満ち欠け」が
第一次選考で落選。「月の満ち欠け」が受賞する可能性もあるかなあとも思っていた私の予想は
今年もあっさり外れてしまいました。
そして受賞作ということに、一ミリも流されない高校生たちの感性に、ため息が出ました。
もちろん、この二作を強く推す生徒たちもいました。
特に白熱したのは「銀河鉄道の父」
この作品は、宮沢賢治の父の視点で賢治が描かれている小説です。
数人の生徒が発言した後、司会者の方が、「この生徒さんにはぜひ意見を聞きたい」と、
岩手県立盛岡第四高等学校の男子生徒に発言を求めました。
「指名されなかったら、自分から手を挙げようと思っていました」と、ちょっと恥ずかしそうに言った後、
今までは盛岡に自分がいるから賢治が有名に感じるのかな?と思っていたけれど、
こんなに全国に知られていてスターみたいで嬉しい!と!笑
身内のように、賢治の知名度の高さを喜んでいる姿が微笑ましかったです。
その後も、「銀河鉄道の父」では、賢治のダメ~な部分も描かれているのですが、
「賢治、クズだな!と思った!」と他の生徒さんが発言すると、
盛岡の生徒さんは、ちょっとすまなそうに顔を赤らめたり
「クズじゃないです!」と、賢治を擁護したり。
もう、賢治に対してのみんなの意見を、雨にもマケズ風にもマケズ全身で受け止めている様子から
目が離せなくなってしまいました。
この作品ではもう一つ、論点になったのは、
「父視点」です。父から見た視点は高校生直木賞には不向きではないか?
父親のリアルな心はまだ分からないという意見VS高校生だからこそ、父と言う未知の領域に入っていく面白さがある、という意見。
「高校生にはまだ早いんじゃないか?」という意見は毎年出るのですが、彼らがいかに、「高校生直木賞にふさわしい一冊」というものを意識しながら選考しているか、ということを考えさせられます。
それとともに、何が高校生に早いのか早くないのか?ということも、わりとこちらは読めないのです。
最終選考に残った作品は、
「あとは野となれ大和撫子」「くちなし」「火定」
それぞれの作品を熱く推す意見、反対意見と、議論は更に白熱していき・・・
聞いているこちらは、
もうこの三作全てを受賞作にしたい(涙)
と思うほど、一人一人の生徒たちの作品への愛が溢れていて。
「少し読みづらいかもしれないけれど、今の高校生たちに、命と言うものを考えてほしい」と、「火定」を推す生徒。
「リアリティはないかもしれないけれど、読んでハッピーになる話」と、「あとは野となれ」を推す生徒。
「キレイとグロテスクが両立している、とても引き込まれる」と、「くちなし」を推す生徒。
もう最後の方、私は全ての意見に頷いていました。そうだよね、そうだよね、と。
そんな中、「本は買ったら一生もので、ずっと持ってるものじゃないですか!」
という、ある女子生徒の言葉に、心が波打ちました。
そう、本は一生もの。ずっと持っているもの。
高校生の時、そう思っていたなあ、と。
もちろん今でも思っているけれど、
でも大人になった今は、手放した本たちもある。
本を増やしすぎた私は、だんだん手放すことにも慣れてきてしまった。
だから、「一生もので、ずっと持ってるもの!」と言い切る彼女に、眩しさを感じました。
最終投票では、「くちなし」と「火定」の一騎打ち。
まだまだ議論は続けたい、というじりじりした想いが確実にこちらに伝わってきます。
でも、タイムリミットというものがあるのです。地方の生徒さんは、列車の時間があるのです。
司会者の方(オール讀物編集長さん)が
「ここで話されたことは、決してムダではありません」と、おっしゃいました。
あまりに真剣に聞き入っていたのと、高校生たちの想いがないまぜになって、
この言葉が、審判を下す神の言葉のように聞こえました。
そして、投票の結果
彩瀬まるさんの「くちなし」が、第五回高校生直木賞の受賞作に決定しました。
「くちなし」は、短編集なのですが、
分かれた愛人の左腕と暮らす女や、
獣となって愛するものを頭から食らう女などが登場します。
運命の相手にだけ見える、身体から咲く花のお話もあります。
さらりと書いてしまうと、なんのこっちゃと思われるかもしれませんが、
幻想的な設定の中に潜むリアリティに、どろどろとした感情を刺激されまくる不思議な作品です。
これはあまり男性には分かりにくい感情だなあ、とか、
高校生には早いかなあと、読み手を選ぶ作品だと勝手に思ってしまっていたのですが。
「くちなし」を一番熱く推したのは、男子生徒でした。
「もうこの本、すっごく好き!」が溢れていて、溢れすぎていて愛おしくなっちゃいました。
「これ読んで、左腕外れるかな?とか、僕もいつか運命の花見えちゃうのかな?とか思ってしまった!」
と嬉しそうに話していました。
だから、「くちなし」に決まった時、彼は今どんなにか嬉しいだろう!と。
それを考えただけで泣きそうになりました。
よい意味で、今年も高校生たちに裏切られました。
よい意味で、予想外しまくりました。
よいことしか、今年もありませんでした、高校生直木賞。
高校生たちが真剣に選んだ一冊が、沢山の新たな読者の元へ届きますように。
切に切に願っています。本屋大賞ぐらいに書店に山積みされてほしいものよ。
こんなにも高校生たちに読まれ、愛され、議論された本たちは、幸せだ。
追伸:高校生直木賞に参加されたOB,OGの生徒さんを中心に、
大学生芥川賞というのも設立されたそうです。
こちらも、ぜひ。
https://ameblo.jp/daigakuakutagawa/entry-12344816275.html