回遊性浮魚類の産卵・索餌海域における植物プランクトン大発生のメカニズムが明らかに! | COPE (KU Plankton Lab)

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絶滅危惧研究室の営みをつづるブログです

こんばんは。主宰です。

 

熊本県立大学・魚類生態研究室と共同研究している成果が、国際誌に掲載されたのでここで報告させてもらいます。

 

鹿児島湾口部から竹島・硫黄島・黒島までに広がる北部薩南海域は、日本の水産資源を支えるマアジ・サバ類などの回遊性浮魚類の産卵域およびこれら仔稚魚の索餌海域です。このため、北部薩南海域の植物・動物プランクトン生産力はこれら回遊性浮魚類の資源変動に大きな影響を与えています。これまで、これら回遊性浮魚類が初期発育する春期になると、北部薩南海域では植物プランクトンが大発生することが知られていましたが、大発生するメカニズムやその波及効果については分かっていませんでした。そこで、私たちは鹿児島大学練習船南星丸を駆使し、数年間にわたる海洋観測と膨大な試料解析を行ってきました。これらの観測や実験などは、このブログで過去に紹介していますので、既にご存知のこととおもいます。

これら研究では、

1.鹿児島湾に黒潮分岐流が移流すると、鹿児島湾口部で特異的に湧昇が発生して栄養塩が表層に供給されること

2.この栄養塩供給により珪藻および渦鞭毛藻などの植物プランクトンが増大すること

3.これら植物プランクトン増大に伴い繊毛虫に代表される微小動物プランクトンも増大すること

4.増大した植物プランクトンがカイアシ類に代表される大型動物プランクトンによって消費されていること

が明らかとなりました。これらの結果は、北部薩南海域の海域特性によって低次生産力が増大し、回遊性浮魚類にとって好適な餌環境を形成していることを示唆しています。北部薩南海域に回遊性浮魚類の大きな産卵場があることを本研究グループは発見しており(久米さんの研究成果が大学ホームページにも紹介されています)、今後も鹿児島大学練習船かごしま丸・南星丸を駆使して我が国の水産資源を支える重要な海域を監視していく必要があります。

 

論文情報 

<タイトル>

1.       Spring phytoplankton blooms in the Northern Satsunan region, Japan, stimulated by the intrusion of Kuroshio Branch water

2.       Seasonal influence of intrusion from the Kuroshio Current on microplankton biomass and community structure in the northern Satsunan area, western Japan

 

<著者名>

1.       Tomohiro Komorita, Toru Kobari, Gen Kume, Daiki Sawada, Takuya Nagata, Akimasa Habano, Yoichi Arita, Fumihiro Makino, Mutsuo Ichinomiya

2.       Mutsuo Ichinomiya, Takehito Nomiya, Tomohiro Komorita, Toru Kobari, Gen Kume,

Akimasa Habano, Yoichi Arita, Fumihiro Makino

 

<雑誌>

1.       Estuarine, Coastal and Shelf Science 259 (2021) 107472

2.       Journal of Marine Systems 234 (2022) 103767

 

<DOI>

1.       doi.org/10.1016/j.ecss.2021.107472

2.       doi.org/10.1016/j.jmarsys.2022.103767

 

北部薩南海域で大発生するケイ藻の群体。数mmにもなる巨大な群体で、定置網などの漁網に被害がおよぶこともあります。

北部薩南海域で大発生する群体ケイ藻を拡大した顕微鏡画像。小さな細胞が集まって大きな群体となります。間隔があいていることに気づきますが、この間にはケイ藻の細胞から滲出したゼラチン質の物質があります。このため、全体的にブヨブヨしています。

群体珪藻の電子顕微鏡画像。表面には小さな孔が並んでいることが分かります。珪藻は、この孔の配置・配列によって種を識別することがあります。

この共同研究で海洋観測資料や生物標本を一生懸命集めていたころの乗船者・船舶職員の方々です。ご退職なさった職員のかたや、卒業・修了して社会で活躍している方々もいて懐かしいです。