「混ぜる前に上澄みだけ貰っていい?」
にごり酒をそんな風に頼むお客さんも中にはいる。
そして、このお客さんはとても気のよいかた。「スパークリング(活性にごり)だから、今日中になくした方がいいでしょ。おれ、じゃんじゃん呑むよ」と(にごり酒が苦手なので)上澄みを呑んでくれる。
つまり…どんどん…濃くなっていく…
それはさておき、
相手のことを優先して行動していると、自分が我慢していることが判らなくなる時がある。
その相手がとても大事な人だから、相手が病んで辛い我儘が頻繁になっても、自分のせいだと思ってしまう場合もある。
大事な相手の食べたいものを優先して、自身の為に選ぶのを放棄するようになる。
そして、どうにもならないと気付いた時に、感情が決壊する。
過日、僕の大切な若い友人が泣きじゃくる姿を間近に、僕ともうひとりの友人は、少しずつ、ひとつずつ、話を聞いていた。
誰もわるくはないんだ。
そんな時は…
ピザだ!
僕はピザ屋に走る。
先ずジェノベーゼが決まる。
もう1枚を悩んでいると、友人が泣きながら、パイナップル…と呟く。
「皆は好きじゃないと思うから、年寄りになってからひとりで1枚食べるのが夢なんです」
そうか、夢があるっていうのは大事なことだ。それが生き甲斐になる。
だがしかし、今やって貰う。
とは言え、1切れくらいは食べてみたい。まさか僕の人生でパイナップルピザを食べる日が訪れるとは思いも寄らなかった。
そして、これがとても美味い。甘さもフルーツ感もピザに必要ないと思っている僕にもとても美味い。
友人も静かにピザを喜び、悩み話は佳境に入っていく。大事ゆえに、いろんな意味での距離感が必要なのだろう。
落ち着いてきたところで、泣き疲れた友人が、自身で半分ほど食べたパイナップルピザの箱を指差して呟く。
「あの…もう1切れ食べていいですか?」
もちろん!
全部キミの分だ!