父の日なので、昔書いたものを引っ張り出してみた。
 「月刊ビミー」という新聞様の日本酒月刊誌の欄外コラムに掲載されたもので、ですます調だけ改筆した。


 うちのおやじが久し振りに東京にやって来た。
おふくろが出歩けない為、なかなか機会を作るのが難しいのだが、今回は兄貴夫婦の家を拠点に数日滞在した。
 聞くと東京に着いたその足で、ひとり地図片手に行きたいところは行ってきたとのことだ。その行動力は昔から少しも変わらない。
 僕は土日も仕事が入っていたので、帰る前日の月曜は一緒に過ごそうということになった。観光気分で、今流行りの「東京タワー」に行き、「僕とおとん」でもやるかと持ち掛けたが、おやじは全く興味を示さず、浅草に行こうという話になった。
 昼頃待ち合わせをして、浜松町から水上バスで浅草へ。船上で限定のビールを呑みながら、次々と迫り来る橋を眺める。ひとつの菓子袋をふたりでつついていると、あっという間に浅草が見えて来た。
 上陸し、仲見世をぶらりとすると、渋るおやじを連れて人力車に乗り込む。通る時にいつも横目で眺めていたので、僕としては丁度良い機会だった。観光気分全開で楽しんだ。
 その後、おやじにも美味しい日本酒を堪能して貰うべく、大森の馴染みのお店に行った。日本酒好きが集うお店で、料理も素材からこだわっている。
 外は寒かったので、最初から燗酒で始めた。割合好みがはっきりしているおやじだが、元来の勉強熱心さも手伝い、ふたりでいろいろ呑み比べてみた。
 大満足で蒲田へ。翌日の羽田に近ければ良いと、電話帳で調べた安宿へと向かう。
 荷物を置き、もう1杯呑もうと商店街から外れた焼鳥屋に入り、焼き鳥・やっこをつまみにビールで仕切り直す。そう言えば僕は小さい頃からおやじとこんなことばかりしてきた。
「東京も面白いな。今度は短い期間でも、ふらっと来るわ」そう言って、おやじは笑った。
 その夜、どれくらいぶりだろうか。おやじとふたりっきりで、ひとつの部屋で眠った。