2018年 3月11日

よかよか学院の旗揚げイベントがありました。

そのときに読んだ

自分の母親のことを書いた詩です。

 

 

『あなたの声が』

 

玄関のドアを開けると

カタカタというミシンの音とともに「おかえり」という母親の声が聞こえる。

ズボンの裾をあげたりスカートの丈を変えたり

 

ミシンは、それがまるで母親自身の手のように身につける相手に合わせて服のカタチを変えていく。

ぼくは、ミシンの脇に座りその表情を覗く。

 

夕べから続く

父親とのケンカの愚痴を言うときもあれば、

さばさばとぼくの学校の様子を尋ねることもある。

 

「ケチな仕事だ」とぼやくことも

オーナーのことをののしることもある。

 

ぼくはいつも

そのちょっとした表情の変化を見逃さず、

母親のニーズに合わせてしゃべることもあった。

 

ときどき、それがとってもぎこちなく

コトバが、自分とは違うところからでてくる感覚に

寒気を覚えるんだけれど

ぼくは母親が好きだった。

 

ぼくが世界で1番、母親を理解していると信じていた。

 

小学校6年生。

ぼくは自分が母親から離れていく感覚を強く強く感じた。

 

それは、ぼくがぼくであるためには

当然のことだったんだけれど、

 

当時は、罪悪感でいっぱいだった。

お母さんの嫌いな男 お母さんの嫌いな大人

 

そして、お母さんの気持ちをじつは

ちっとも理解できなかったまったく別の自分。

 

今まで触れなかった電車のつり革にふれられるように。

家の壁に向かって投げるボールに初速がつくように

ぼくは少しずつ、ぼくになっていった。

 

それが受け入れられなくって

ぼくは自分の髪の毛をかきむしった。

 

ぼくの右側頭部には十円はげが出来ていた。

ストレス性胃炎と診断され

習い事をサボっては習い事の場所と真反対のスーパーで万引きした。

 

ぼくがぼくになっていくことがとてつもなく怖かった。

 

ぼくがぼくになることは

死ぬことと同じのように感じた。

 

そんなある日、

何かの拍子に母親がこんなことを言った。

 

「アンタは何か、とんでもないことをする人になるよ」

「そうかな?」

「そう、きっとそうよ だからそれでいいのよ」

止めたミシンごしに見せたに柔らかいまなざしに。

 

ぼくはなぜか、救われたような気がしたのでした。

 

その言葉を、その声をぼくは自分を心から憎むとき思い出し、

かかげた目標が漠然としすぎて

くじけそうになるときに反芻し。

 

何とも言えない激しいものを自分の中にもてあましたときは自ら口にしたものでした。

 

あなたの声が、ぼくの背中に手をかけてくれました。

やがて、ぼくはぼくになることを選びました。

 

かわいい奥さんと出会い2人の子どもがいて

ここにいる仲間とあり方でがっこうをつくるという船に乗りました。

結局、ぼくは、ぼくでした。

 

 

そして、ぼくがぼくであることを知らせてくれたのは

皮肉にもそこから離れたくないとしがみついていた母親からの言葉でした。

 

世の中に、うまくいっていない母子はきっと星の数以上にあるでしょう。

 

でも、どんな母親もその子を絶望から救う一言を必ず口にしているんです。

 

それは、10000の「ダメ」のあとかもしれない。

感情にまかせた叱責の後かも知れない。

残念ながら、今は、まったく子どもに届いていないのかも知れない。

 

でも、ふとしたときにそれは子どもの頭をよぎり、

子どもの人生の本来あるべき場所へと差し戻す。

 

それは、あなただから言える一言なんです。

そしてあなただから言えた一言なんです。

 

子どもに「言葉」というプレゼントを贈れる唯一の存在。

お母さんという世界中で最も尊い仕事をした

あなたへのご褒美です。

 

あなたが10000回いったダメのあとに

たった一言いった「それでいい」が

あなたのお子さんの人生をどこまでも

自由に、無限に広げていくのです。

 

お母さんとなった皆さん。

お母さんのような母性をたたえたみなさん。

もし、今、何かに迷って

前に足を踏み出すことさえ苦しく感じているのだとしたら

あなたにかけられたお母さんの言葉を思い出してください。

 

母親を憎んでいる人は

そんな言葉があったかもしれない、といった仮説でもいいです。

 

そして、もし、今、この瞬間に何かの言葉があなたの胸に

よぎったのならば

それは、あなたが人生という道に迷ったとき

暗がりを照らしてくれる言葉です。

 

そして、その言葉を

是非、大切なお子さんに、パートナーに友に

伝えてみてください。

 

それはあなたの人生における進水式。

あなたという船が内海から大海へと

大きな舵を切った瞬間です。おめでとう。あなたがお母さんという役割を選んでくれたことを

ぼくは心から喜んでいます。

 

2019年4月29日

いよいよ日本人の価値観が大きく変わっていく今、

 

ぼくたちが大切にするのは

自分が自分のままでいい、という魂の声。

 

そして自分のままでいる旅は

お母さんとのときには面倒な体験から始まるということ。

 

それでいいんです。