191206(金)夜

はな金だ。 ← ふっ、古ッ!!

17時に神田神保町(東京)で仕事が終わる。目指すは熊野前。今日は先輩が送別がてら自慢の店で天ぷらをご馳走してくれるという。

待ち合わせは19時で少し間がある。田端から熊野前まで歩いたがまだ50分もある。外は寒い。うーん。

そこら辺をうろつく。いつも草野球の送り向かいで車で通る道。勝手を知らないわけではない。

「今日はたっぷり出てくるからお腹を空にしてきてね」と釘を刺されている。飲みすぎも行けない。食べすぎも行けない。はてどうしたものか?

何となく第六感が働く。

あっ、ありやした。何となくよさげな店。

ライトで見えないが店名は「かわかみ」。実に年季が入ってそうである。

ここで焼き鳥を少々と熱燗で本でも読んでるかな?

 

しかしそこはいかにも下町の荒川区。人のぬくもりのある天国が広がっていた。

「酒場放浪記」の吉田類さんも来てい7たらしい。

付け出しのマグロの煮つけ。手作りでしょうがが利いており実にうまい。熱燗が進む。

皮とつくね。

たれはいかにも東京という濃口しょうゆを芯にした辛口。七味唐辛子をかけるとことのほか味が引き立つ。

つくねは身が締まっており実にうまい。

店主と女将さんとカウンター越しに会話が進む。

酒が残っている。つまみがなくなった。困った。かさばるものは食えない。で、野菜だったらよかろうとしし唐にした。

「チェーン店ばかりでこういうコミュニケーションの取れる店が減りましたねえ」

「こういう店潰しちゃだめよねえ」と隣で飲んでるおばさん。

「ここ年季は言ってますねえ。何年ですか?」

聞くと屋台で二十年、店を構えてから三十年。道理で年輪が入ってるはずだ。

「焼き鳥なんてねえ。表焼いて裏焼いたら終わりでっさぁー」

「そんなことあるわけないじゃないですか」

そのうち板橋から一人でここに通っているというおばちゃんも参加。見も知らぬ初対面が四人で仲良くたわいもない話。現代社会が失った何かがそこにあるように思えた。

 

「橋の向こうで草野球やってるんです。橋渡ったところのお好み焼き屋、焼き肉屋はよく行くんです。今度ここに来ようかな。荒川の橋は三百メートルくらいですかねえ」

どちらの店もご存じだった。

そのうち板橋のおばさんは帰っていった。帰りにお土産を買い、店には大きなゆずを二つプレゼントされていた。

その時の店の人とおばさんの笑顔。この美しき光景がまぶしかった。

 

「おっとっとっと。いけねえ。遅刻しちゃう。今日は待ち合わせの合間。ゴメンね。またゆっくり来ますね」

と慌てて店を出る。なんだか言葉まで江戸時代の岡っ引きの子分になったような気分になるのは、ここ古い下町情緒あふれる荒川区が醸し出す雰囲気がそうさせるのだろうか?

 

締めて1600円。とても心地よい酒だった。

 

外がやけに寒い。

コートを忘れたことに気づく。普段気ないのでいつもこうなってしまう。

戻った店の前。

娘さんかな? 戸を開けて出てきた。コートを忘れた私を追いかけようとしてくれたみたいだ。

「ははは。やっちゃいました。また来ましたよ」

これでバカはこうしてまた印象を残してしまったようだ。

 

熊野前。

荒川区の古き良き昭和がまだ残っている。私の地元西側山の手ではどんどん失われていく何かが確かに残っているような気がした。