191122(金)昼

「うぁー、今日とんかつだ!!」。学生時代男子寮では朝その日の一日のメニューを見て歓声が上がったものだ。

「今日はリッチだね」

「明日のからの反動が怖いね」

なんてしゃべりながら寮食を食べたものだった。

高校時代はとんかつは好きだがぜいたく品という気持ちはなかった。

この時から私の中でなにかが変わった。

寮食は決してうまいとは言えなかった。なんと一日三食で380円。大阪の立ち食いそばが200円ちょっとだった時代。とんでもない値段だった。栄養士さんがちゃんとカロリー計算し、今思えばちゃんとしたものを出してくれていた。厨房ではおばちゃんたちがボランティアのような給料で働いてくれていた。みんな学生の私たちの母親より年上の人たちばかりだった。

 

そのありがたみを食べて育った。だから誰も文句は言わなかった。 ←言ったら先輩に殴られた?

 

一度おばちゃんたちと交流会をやった。寮の座敷では大の学生がコロンコロンに転がされている。

「なんやぁー、○○さんだらしないなあ。男やのに……」。

聞くところによるとおばちゃんたちがお嫁に行った頃は結婚式のあと一週間から二週間は村中を飲み歩いたそうで一軒行くごとに新郎新婦ともども潰れるまで飲まされたとか? 恐ろしきや土佐。恐ろしきやいごっそう、はちきん、である。

鍛えが違う。手合い違い。子供上がりの学生が適うはずがない。

 

東京は神田神保町。かつてはとんかつ帝国が栄華を誇っていた。大衆とんかつ。六、七百円台でとんかつが食べられたものだ。

いもや、駿河、かの矢。私が勝手に大衆とんかつ御三家と呼んでいた。飛ぶ鳥を落とす勢いのチェーン店かつやが進出してきても追い出してしまったのだからこの御三家の実力はすごい。

厨房の中から伝わってくる気持ち。
「うちは高級とんかつじゃないけんねぇー。そんなに分厚いとんかつじゃないけど腹いっぱい食べてってねぇー」と。

やはりここでも私はとんかつではなく、人の優しい気持ちをいただいていたのかもしれない。

 

話が長くなりました。

今日はとんかつが食べたくなり神田小川町の六九へ。

ここはロック音楽をかけて690円でとんかつ定食を、という店だった。

個人店ではないがチェーン店でもない。半個人店と言ってもいいかな。出張販売で会社の近くに来るとんかつ弁当はなんと600円だ。

 

ロースかつ定食750円

数年前材料費高騰でシンボーたまらんかったやろうね。720円になった。今回の消費税増税で750円か。「六九よおまえもか!」と言いたいが仕方ないね。

ここはご飯とみそ汁食べ放題。

スキー場のペンションのようにおひつと大鍋が並べてあってセルフサービス。味噌汁はシジミが入るようになった。前はわかめだけだったような……。

すごいのは玉ねぎのフライが付いてくること。

これがうまい。でかい。そして串カツ感覚をも味合わせてくれる。

 

肉はまあまあと言ったところだが分厚いとんかつ不要論の私には最適かもしれない。この値段でよくやってくれている。かつての個人店の名残が少し残っているのがうれしい。

ソースは二種類。

しょうゆ系とソース系。そしてもう一つ、塩で食べるのもうまいって皆さん知ってはりました?

右から塩、しょうゆダレ、ソースと三種楽しめる。 ←おんちゃん遊んどるがな?

いやーこれが実に楽しい。うれしい。

 

カキフライもうまそうだが高嶺の花。1000円以上するのでこれは手が出ない。今年カキ高いですよね? 捕れないのかなあ?

女の子用だろうか? こんなメニューも。

 

店内はおっさん率80%やもんなあ。必死なんやろうねえ。

 

そっかー、オレとんかつが好きなのはもちろんのこと、とんかつを作ってくれている人の気持ちが好きだったんだ。そんな気がしてきた。

近頃カツカレー、かつ丼の方が何となくおトクのような気がしてそちらに走り気味だったが少し反省しなきゃならんかもね。

そんなことを考えながら店を出た。

11月下旬、こちらお江戸はもう冬の雨が降り始めていた。