ゾクッとする話 | 春風亭小朝オフィシャルブログ Powered by Ameba

ゾクッとする話

大正6年の夏は、異常に暑かったそうでございます



八月になってからというもの、すっかり食欲をなくしていた龍之介は、とりあえず何かを口に入れなければと、氷を浮かべた揖保の糸を食しておりました



揖保の糸かぁ、そうつぶやいた龍之介の脳裏に突然ひとつのストーリーが浮かんだのでございます



東京帝国大学で抜群の成績を誇った龍之介は、常日頃から勉強の大切さ、教養のない者の悲しさを憂いておりました



そんな龍之介が考えた筋書きとは、このようなものでございます



ある日、地獄を覗き込んでいらしたお釈迦様がひとりの罪人に目を留めます



罪人の名はカンダタ


この男は、たちの悪い泥棒でしたが、一度だけ踏み潰しかけた蜘蛛の命を助けたことがございました



おうそうだ。あの男が助けるに値する人間かどうか試してみよう



お釈迦様は一本の蜘蛛の糸をカンダタの目の前に降ろされたのです



男は空を見上げ、ありがてぇとつぶやくと



さっそくその糸をのぼり始めました


この先には必ず極楽があるにちげぇねぇ。喜んでのぼっている途中にふと下を見ると、大勢の罪人たちが後に続いております


もしも途中で糸が切れたら、地獄に逆戻りだと慌てたカンダタは



おぅ、てめぇたち。この糸は俺様のものだ。みんな戻れビックリマーク手を離しやがれ!!と怒鳴ったのです



途端に、極楽の門につないであった蜘蛛の糸がスルスルとほどけてカンダタは地獄へ落ちていきました



その様子を御覧になっていたお釈迦様は大層悲しそうな顔をなさって



カンダタよ、どうして慌てるのじゃ。お前は蜘蛛の糸の力を知らぬのか。そもそもお前がのぼってこられることがなぜ不思議だと思わぬ。蜘蛛の糸をまとめると鋼鉄よりも強く、ナイロンよりも伸縮性があることを知らなかったようじゃな。日頃の勉強を怠っている者に決して幸運は訪れぬ



そうおっしゃると、短冊を取り出してこうしたためました



蜘蛛の糸、うまくのぼれずスッパイだ~



それを読みあげた途端、極楽のあちらこちらから拍手がおこり



お釈迦様は蓮の葉で作った座布団を十枚頂いて御満悦だったそうでございます


=KOASAガーン