300字の男と女 | 春風亭小朝オフィシャルブログ Powered by Ameba

300字の男と女

<マジシャン>


俺はマジシャン。妻の幸恵とはショッピングモールで知り合った


日曜日、一階の広場で客集めのパフォーマンスをしていたら、三回公演をすべて最前列で見ていたのが彼女だった


結婚してしばらくしてから女ができて、俺は家を出た


今は、その女とは別れて安いホテルを転々としている



ある日、テレビの人捜し特番を観ていたら、突然、幸恵が現れた



カメラに向かって泣きながら呼びかけている



あなたはマジシャンでしょ。姿を消したあとはもう一度現れなきゃだめ



これが、あなたが消えてから生まれた子供よ



画面には赤ん坊が大写しになっていた



俺はマジシャン。種を仕込んだことを忘れていた…




<バーテンダー>


俺はバーテンダー。お客の気分に合わせてカクテルをつくる



ある晩、俺好みの人妻が目の前に座った



お願い、現実を忘れたいの。なにかいい夢を見られるようなカクテルを頂戴


どうぞ



美味しいビックリマークこれは


ベリーニといって、桃のジュースをシャンパンで割ったものです



そう、とても気にいったわ。このカクテルも、そして、あなたも



俺たちはその晩に結ばれた



そして半年後、彼女を苦しめていた夫が亡くなり遺産を手に入れた



あなたの作ってくれたカクテルを飲んでからよ、運がよくなったのは



たしかにそうかもしれない。あの晩、注いだシャンパンはヴーヴクリコ



ヴーヴとはフランス語で未亡人をさす




<観音様>


私の名前はローズ葵。職業はストリッパーです



花魁の格好でステージに立ち、音楽に合わせて一枚ずつ脱いでいくのが私の仕事



葵ちゃん、例のお爺さん今日もきてるよ。舞台係の人に言われて客席を覗いてみると



一番前に、いつものお爺ちゃんが座っています



私が目の前で脚を開くと、ありがたそうに頭をさげて、必ずパンパンと手を叩きます



そして楽屋へもどると、観音様へと書かれたポチ袋に入った五百円玉が、ご祝儀として届くのです



気がついたら私、週に一度お爺ちゃんの顔を見るのが楽しみになっていました



そんなお爺ちゃんの姿が見えなくなって半年、楽屋にお孫さんと名乗る人が訪ねてきました



お爺ちゃんは一週間前に亡くなったそうです



病床の祖父に頼まれて、これをお届けにあがりました。生前は本当にお世話になりました


そう言って差し出されてたポチ袋には、生きる力を与えてくれてありがとう、と書いてあります



数日後、今までお爺ちゃんからもらったご祝儀で、私の名前に因んだバラとかすみ草の花束を買ってお墓参りに行きました



私もプロです。ご祝儀を先にいただいて、そのまま帰るわけにはいきません



まわりに誰もいないのを確認して、着物の裾をまくり、お爺ちゃんにあそこを見せてあげました



するとその時、たしかにお墓の中からパンパンと手をうつ音が聞こえたのです



お爺ちゃんの名前は、山路留造さん


隠居する前は、ある神社の宮司だったそうです


=KOASA得意げ