幸福の日記 | 春風亭小朝オフィシャルブログ Powered by Ameba

幸福の日記

師匠、おはようございま~すニコニコ



よおニコニコパー



本日も独演会にお出かけになる前になにかお話をお願いしたいッスにひひ



欲しがるね~君はニコニコよっしゃ、一本書くかぁ




作品名 幸福の日記




知世は今年の春からアパレルメーカーに勤めるようになったOLです



天気のいい日曜日、久しぶりに表参道の通りを歩いていると、白髪で、あごヒゲが30センチくらいのびたお爺さんが地べたに座ってなにかを売っていました



立て札には、幸福の日記と書いてあります



知世は高一の夏から日記をつけているのですが、オレンジの表紙の真ん中に可愛い字で、幸福の日記と書いてあるのを見て思わず欲しくなりました



すいません、これを一冊下さい



ありがとうお嬢さん。断っておくが、この日記は慣れるまでとても書きにくいかもしれないよ。それから最低でも3ヶ月使ってくれないと困るんだ、いいねと言って優しく微笑みました



知世は、はいと返事をしたものの、お爺さんの言っている意味がよくわかりませんでした


このところ職場で嫌なことがつづいていた知世は、夜、寝る前にそのことを書こうと日記帳を広げました



ところが何度と書こうとしても日記帳は白いままなのです



はじめ万年筆のインクが出ないのかと思いましたが、そうではありません


仕方なくボールペンや鉛筆にしてみましたが、やはりうまく書くことができません



知世は、おかしな日記帳を買っちゃったなぁと後悔しましたが、その時、あのお爺さんの言葉を思い出したのです



慣れるまでとても書きにくいかもしれないよ



仕方なく万年筆をもって、ボンヤリと今日いち日を振り返っていたら、素敵なアロマオイルの専門店を見つけたことや、そのお店がとてもいい香りに包まれていたこと、そして店員さんの親切な接客に気持ちが和んだことを思いだしました



そこでその幸せな気持ちを日記に書きはじめると、今度はスラスラ書けるのです



あらっと思って、今週あった嫌なことを書こうとすると、日記帳は相変わらず白いまま



知世はあることに気がつきました



ひょっとして、この日記帳は楽しいことしか書けないのかもしれない



そう思い、今日、食べたスイーツや、街で見かけた素敵な服のことを頭に浮かべながら万年筆を走らせてみました。すると次々に素敵なワードが浮かんできます



その勢いで、今度は気の合わない同僚のことを書こうとしましたが、そうすると白い日記帳に逆もどり



やはり知世の思った通りでした



そこで彼女は、今週幸せを感じた一瞬をひとつひとつ思い出して書き並べてみました



そして日記を書き終えてからベッドにはいってみると、いつもは眠りの浅い知世が、その夜は珍しく熟睡できたのです



へぇ、この日記帳面白い



それから毎日、日記をつけるのが楽しみになりました


やがてひと月がたち、日記を読み返してみると、そこには楽しいことがたくさん綴られています



ちょうどその頃、知世のなかで小さいな変化がおこりはじめていたのです



気がつくと、いつの間にか楽しいことを探している自分に気がつきました



それに、前よりも人の親切に敏感になった気がします


やがて3ヶ月が過ぎ、新しい日記帳を買おうと表参道に行ってみましたが、そこにお爺さんの姿はありませんでした



そのかわり、お爺さんが座っていたビニールシートの上には、日記帳をお買い上げになった皆様へと書かれた紙が置いてありました


手にとって読んでみると、それにはこう書いてあったのです



3ヶ月間、日記帳を使ってくれてありがとう。皆さんにはもうこの日記帳は必要ありません。これからは大学ノートでもレポート用紙でも、お好きなものに、その日楽しかったことをお書き下さい



ただし、その表紙に、幸福の日記と書くことだけはお忘れにならないように


=KOASA得意げ