小学四年のときに、心臓が悪かった母が死に、聡里の人生が変わった。花の世話が好きな母と楽しく暮らしていた生活がなくなる。六年生のときに、父は再婚して義母と暮らすようになり、地獄が始まる。母の思い出が残る家具などを売って義母は家の中を模様替えする。中学生になると、義母に赤ん坊が生まれ父親が転勤となる。義母が断ったために単身赴任。父がいなくなり、形見の狭い身の上になり、愛犬まで取り上げようとする。それだけは奪われたくないと、引きこもりになり、中学には行かなくなった。十五才になった聡里に祝いを持ってきた母方の祖母は、彼女を見てびっくり。直ちに彼女と愛犬を連れ帰り、父親に談判して、以後は祖母と暮らすことになる。八十にしてかくしゃくで元気な祖母との暮らしで変わる。勧められて、フリースクールにかよい、そこの先生の勧めで、大学に進学して、獣医を目指すことになる。

北海道中央にある大学に入り、祖母と共に寮に入るところから、話は始まる。

最初は人とまともに話せず、引っ込み思案な聡里が、勉学に励み、学友もでき、動物に対する意識も変わっていく様子を描いた作品。

卒業を待たずに、祖母は急死するが、父の誘いを断り、独立する。獣医となり農場の牛や馬の診察などをするようになり、学友の一人と結ばれるまでを描いている。

獣医師の仕事は甘くない。すべての家畜を生かすこともできない。悩みながらも、動物たちへの愛をもち続け、一人前の獣医となるまでを描いた作品。


高校生たちの青春記。

でも普通の高校生じゃない。家庭の事情で、バイトをしなくては生きていけない高校生たち。そんな彼らに、安らぎの時を与えたいという思いやりから、カラオケ店のオーナーは、一室を彼らのためにキープし、バイト終わりなどに来て、集まれる場所を提供。バイトクラブ。実は店長自身、昔そんな場所を近所の寺で行っていた書道教室で経験していた。

名門の私立校に合格直後に、父親が経営する運送会社が倒産して、バイトしないといけなくなった三四郎。彼は近所のバッティングセンターでバイトすることに。名門校だから、本来バイトは禁止だが、たまたま担任の便宜が受けられて、見逃してもらっている。

カラオケ店でバイトする夏夫は、母子家庭。父親はやくざの組長らしいが、まともに会ったことはない。

ファミリーレストランでバイトするみちかの両親は離婚していた。

由希美の両親も離婚していた。母親が立ち上げた化粧品会社に、父親は部下として働いていたが、浮気をして出ていった。彼女は三四郎とは隣同士の幼馴染み。今ではどちらも引っ越して、離れたが、連絡を取り合う恋人たち。

ガソリンスタンドで働く悟も母子家庭。幼い頃に父親は事故死。母親は息子を実家の祖父母に預けて、東京で水商売をしている。

昔、カラオケ店長が世話になったお寺の次男坊の広矢は、グラフィックデザイナーとして生計を立て、バイトクラブの援助もしている。

三四郎の担任の立花は、広夫の高校時代の恋人だった。

そんな高校生や彼らを見守る人々。彼らには見えない糸がつながっていた。親の世代には知り合いだったり、友人だった人々。

そんな緩い関係が流れていくだけかと思っていたら、夏生の父親であるやくざの組長が銃撃され、即死。対立する暴力団の抗争か?

世間にはしられていない親子関係だが、身を隠した方がいいと、夏夫と母親は手助けする仲間たち。結局無事に犯人も捕まり落ち着く。

卒業した者は就職したり進学したり、次第にバイトクラブには来なくなる。しかし、次にはまた新たな高校生が来るかもしれない。


東京、赤羽の団地裏の路上で発見された刺殺体。新米女性刑事の亜樹は、捜査本部で、警視庁の刑事、榎並とコンビを組むが、癖が強く、自分からは積極的になにもしないため、最初は腹が立った。馴染みの先輩刑事から、彼が監察から目をつけられていることを知らされ、あまり深入りしないで、捜査に専念しろと忠告される。

被害者の身元はすぐにわかったものの、彼の回りには特別トラブルもなく、容疑者が浮かばす、捜査は難航する。

その話と平行して、三十年前に四国の松山の大学で、マンドリンクラブにいた若者たちの話が始まり、最初は戸惑う。

夏の合宿の最中に、部員の一人の女子が崖から転落死し、きっかけとなった口論の相手だった部長は、卒業を待たずに退学し、以後消息不明となる。

そんな彼らが、廃部となり部室のある建物が取り壊されるので、残った備品などを始末するために、三十年ぶりに集まり、ついでにと事故現場を訪れる。

赤羽の被害者は埼玉出身の不動産業者で、その後都内に移り、手広く商売をして、かなりの資産家になっていた。彼のことを調べていた亜樹たちは、被害者が都内に移った頃にかなりの金を使ったと知り、その出所を調べていき、ある男に行き着く。発明好きの資産家が、長年行方不明になっているという。

その男が四国にも遺産家屋を所有していて、その近くには被害者が愛用していた香水の原料があったことがわかる。

その資産家はそこで殺されたのではないかと推量した亜樹たちは、松山へいき、マンドリンクラブの事故の話を漏れ聞いて、二つのエピソードが結び付く。

こうして被害者の過去の犯罪と、マンドリンクラブ員の事故死がむすびつく。

犯人はどうやら、三十年前に行方をくらました部長らしい。世捨て人同様の暮らしをしていて、三十年ぶりに友人の遺体に残っていた香りを思い出させる被害者と出会ったのが、きっかけになったらしい。


なかなかよかった。ただ、事件に比べて、マンドリンクラブのエピソードが詳しすぎる気もするが、あるいは、そちらの方が主となるエピソードなのかもしれないな。