再読だったが、全く覚えていなかった。
遺品を収蔵する博物館があり、その学芸員の吉田が、遺産相続の場に現れて、彼が選んだ品を引き取る。それは、個人の人生にまつわる物語にふさわしい品で、金銭的価値には関わりがない。
田舎にすむ、資産家の老女の遺品になったのは、かつて隣人だった貧乏家庭の子だった男と結んだ契約書。学費を出すのと引き換えに、彼は資産家を川に突き落として殺した。
大きな病院を一代で築き上げた病院長の遺品に納められたのは、若い頃画家を目指していて、断念した彼が、孫娘に触発されて描いたデッサンだった。
売れっ子イラストレーターの遺品として選ばれたのは、若い頃はライバルだったが、今は無名に近いイラストレーターとの手紙。売れっ子になりながらもネガティブな心理学的精神だったのをいいことに、半ば強制的に仕事を譲れと脅した手紙。
若くしてなくなった女子高生が残したのは、彼女の余命が短いと知りながら付き合い、その経験を本にして有名になった同級生の男が書いた本。そこにはもと校閲者だった彼女が書き込んだ文字があり、母親もなくなったため、二人の思いがつまった本だった。
田舎の駄菓子屋の老女が残したものは、彼女が殺された原因となった殺人事件当時の生活がうかがえる住所録だった。
交通事故死した少年が残したものは事故の原因となったビニール傘。そこには亡き祖父が描いた金魚の絵があり、まるで空を泳いでいるかのように見える方法を教えられていた。母に捨てられた、その傘が見えたと思い、道路に飛び出し事故に遭った。
もと世界的な女優が、隠居後になくなり、高校生時代の思いでの楽器トランペットが遺品として選ばれた。華々しい女優人生より、彼女には高校の吹奏楽部時代の方が何より大切なものだった。
資産家であり音楽家としても才媛だった老女は、世話代込みで十億円の飼い猫を残した。飼うことを条件に、その猫を相続した女性が才媛の遺体が安置された密室内で殺された。刑事に見せかけて、事件を見事に解決したのは、なんと学芸員の吉田だった。そして選ばれた遺品は、二人の女性が知り合ったきっかけになったカルチャーセンターで作ったフェルトの猫だった。