ガンの末期で背中の痛みに苦しむおじいさんは治らないまでも痛みが和らぎ、家にかえって畳の上で死にたいと家人に訴えていた。
ある日、おばあさんの知り合いで信仰心の厚い女性がお見舞いにきた。彼女は日ごろ愛誦している「般若心経」の経本で傷む背中をなでさすった。おじいさんは目をつぶって『楽になってきた、ありがとう』と繰り返しつぶやいた。その晩は不思議と痛みもなくぐっすり休んだ。痛みが治まってきたので医者に家に帰りたいと懇願した。程なく許可がでて外泊した。久々の家は身も心も穏やかにした。
帰る日の朝、寝床で『ワァッ』と一声発しておじいさんは亡くなった。安らかな死に方だった。しかし、両目を開けたままで閉じさせることが出来なかった。
お通夜で先日の婦人がおじいさんを見てかわいそうに思い「般若心経」の経本を取り出して目元をなでた。そうすると、不思議にも目を閉じた。
家人は痛みをとり、目を閉じさせたお経本をいただき、おじいさんの佛前に置いた。そして、仏知恵の結晶であるお経の功徳力に感嘆した。