※オリキャラ出てます。
クリスマスだけど甘さはちっともありません。ご注意を。
さくらは、もこもこのマフラーにもこもこのコートを着込んで振り返る。
「それじゃ、小狼くん。また明日ね?」
カラカラとアルミサッシを開けさくらがもう一度振り返る。そこには機嫌の悪そうな小狼の顔があった。
「…遅い時間に用事があるならまず電話しろって言っているだろ?それに………」
腕を組んだ小狼がはぁとため息混じりに言う。
「えへへ。でも、突然来るのってサプライズみたいで嬉しいでしょ?」
にっこり笑うさくらを見ると、その機嫌の悪さも少しは和らぐ。しかしだ。
確かに嬉しい。でもそれよりこんな夜遅くに女の子一人夜道を…。いや、コイツは違うのだ。
「いくら夜遅くで人目がないからと言っても空を飛んでくるなんて…ん?そもそもこんな時間に出歩くとか……。どちらも良くないだろうっ!送って行く!歩いて帰るぞ。魔法を簡単に使うとか良くないからなっ!」
途中、独り言のようになったが、小狼が説教を始めた。このやりとりも何度めのことか。
「で、でも!!私うんと高くを飛んできたから誰かに見られることもない!と思うし…靴履いてこなかったんだよっ!小狼くんもお仕事の続き、報告書頑張ってね?じゃねぇ~」
「あっ!!?お、おいっ!!!!」
さくらは逃げるように、《翔(フライ)》を発動させると、背中で真っ白な翼を羽ばたかせぐんぐん星の瞬く夜空高く登って行く。そして肉眼では確認できないほど上がるとくるりと旋回して自宅の方へと飛んでいく。
小狼はそのさくらの気配を感じながら、フッと優しく笑って見送ったのだった。
数日後のこと。
さくらは父藤隆に頼まれごとで近くの総合病院に来ていた。なんでもお隣に住む老夫婦の奥さんが、階段から転倒して骨折し入院しているのだ。ご主人も見舞いに行きたいのは山々だが、息子さんの会社が休みの日に車で見舞いに行くことしかできないのである。そこで、さくらが着替えを持ってお見舞いに来ているのだ。
「お婆さんお元気そうで良かったよ」
病院の中庭のベンチで一息入れながら膝上に載せた鞄に話しかけるさくら。中にはケルベロスがいる。たまにはどこかに連れて行けと言われて、病院だからと迷ったが最近一緒に出掛けていないと感じて連れてきた。
さすがのケルベロスも病院だけあって、静かにしていてくれた。先ほど売店で買ったパックの牛乳に器用にストローを刺すとチューっと飲んでケルベロスが言う。
「せやなぁ…。お隣のおばちゃんはさくらに良ぉしてくれてるから、入院聞いてびっくりやったしな……」
「本当だよ……」
さくらも手にしたイチゴミルクを飲んでほぉっと一息つく。
「うわ……。やっぱり天使さんだ…………」
パジャマ姿の男の子がさくらの目の前に立ってキラキラした目でこちらを見ていた。格好からして入院中なのは間違いない。
「天使…さん?」
さくらは首を傾げて呟く。『天使さん』とはなんだろう。
「僕ね、あのお部屋に入院してるんだけど…。お外見てたら天使さんに似ているお姉ちゃんがいたから出てきたんだ!!」
男の子が後ろの入院病棟の上の方を指差して言った。その指差す角度からして5階あたりだろうか。
「天使さん…って私のこと?」
「うん!!僕知ってるよ?本当は翼があっていつもはお空飛んでるよね?今日は飛ばないの?」
「えっ!翼!?」
「いつも夜にうんと高くのお空飛んでるでしょ?」
と男の子は空を指し、右から左へと指を動かした。
さくらはハッとする。その指の軌道は自分の家から小狼の家へと向かう方向と一致したのだ。
「…………。」
「僕ね、ずっと入院してて、電気が消えても寝れない日があるんだ。そんな時はお父さんにもらった双眼鏡でお星様見てるの。そうしたら、天使さんを見たんだ!それも一回だけじゃないんだよ?でも誰も信じてくれなくて……」
間違いなかった。それは《翔》のカードで飛んでいる自分のことだ。血の気が引いた。あの高さまで飛べば誰にも見られていないと思っていた。まさか双眼鏡で、しかも何度も見られていたなんて。
どうやって説明しよう。見間違いとは言えない。この少年は何度も見ているのだから。
視線だけを鞄に移せば、ケルベロスも困惑した表情で様子を伺っているのが解った。少年の角度からはケルベロスは見えていない。それだけでも助かった。
「でもね。もう誰にも言わないんだ。約束するよ!きっと今だって翼を隠しているんでしょ?人には見られちゃいけないんだもん!ねぇ?天使さんなら神様に会えるでしょう?僕のお願い訊いてくれる?」
少年は疑うことなく真っ直ぐにさくらを見ている。
「……お願い?」
さくらはそんな少年をただじっと見ることしかできない。首を傾げると少年はにっこりと笑った。
「うん。僕…サンタさんに会いたいんだ…」
「それで『会わせてやる』と言ったのか?」
小狼の声はいつもより低く響いた。無理もない。普段から心配していた事が現実となったのだ。たとえ相手が小さな少年だったとしても。
「なんとかしてみるって…」
さくらがシュンとしながら言う。
「はぁ」と小狼のため息が漏れた。
「さくらちゃんの優しさですわ…」
知世が優しい笑顔で言う。それは嬉しい言葉だか事情が事情だ。
三人は知世の自室で顔を突き合わせ、この問題をどうすべきか話しているのだ。学校の帰りにそのままお邪魔していることもあってケルベロスはいない。それもあって静かな時間が流れる。
「夜こっそり病室に入り込んで、その子から記憶を消してしまうのは、なんだかイヤだなって思ったの…」
それを提案される前にさくらが言った。きっと小狼がそんな事を言いそうだと思ったからだ。
「なぜだ?そうした方が簡単に事が済むのに…」
「うん。そうなんだけど…。もともとは私がいけなかったわけだし……」
その言葉に小狼は特になにも言わずさくらを見た。丁度さくらも視線を上げたところだった。二人の視線が合い、そしてまた沈黙が流れた。
さくらはなんと言っていいのか解らない。でも無理やり記憶を消してしまうのだけは避けたかった。
「では…こんなのはどうでしょう?」
にっこりと微笑んで言う知世を見て、小狼とさくらは首を傾げるのであった。
「とてもお似合いですわ……」
「そ、そうかな……」
さくらは頬を染め、その白いドレス姿を見て知世はうっとりする。ところどころファーであしらったふわふわでモコモコなそのドレスはとても暖かそうなのに、まるで雪の妖精ようだ。そんなさくらを見て薄っすら頬を染める小狼はサンタの格好をしていた。
「李くんも、とてもお似合いです」
「髭のないサンタなんて、ただの見習いみたいやなぁ」ケルベロスがニヤリとする。
「お前こそ、得体のしれない生き物になってるぞ」
「な、なんやてぇ!!!!!!」
そう言うケルベロスは元の姿になっていて、赤くて丸い飾りを鼻に付け、頭には立派な角を付けている。そしてソリに繋がれていた。
「もう!ケロちゃん!!今日は終わるまで喋っちゃダメって約束だからねっ!」
「なんで、ワイは喋ったらあかんのやっ!」
「お話しするトナカイなんておかしいでしょっ!!!!」
そうは言ったものの。そもそもトナカイに翼などないのだが。
「ひぃ~!!その差別発言っ!ワイが話をするのがおかしいんかっ!」
「そんなこと言ってないでしょっ!!もう約束破ったら、ケーキ無しだからっ!」
その一言でケルベロスがピタッと口を閉ざした。食べ物がかかっているとなると何もできない。
それを見てさくらはホッと一息ついて、改めて小狼を見た。
(……格好イイよぉ………)
いつも思うが何を着ても様になってしまうのは、彼の持つ素材の良さなのだろう。
「小狼くん。私はソリには何もしなくて良いんだよね?」
少しはにかみながらさくらが言う。
「ああ…。ソリの底に札を付けてあるから、ケルベロスが引っ張ればそのまま浮くようになっている」
そう言う小狼もどこかはにかんんでいる様に見えた。
小狼とさくらはソリを見る。綺麗に飾られ、プレゼントがたくさん入っているような袋が積まれていた。今自分達が身に付けている衣装も、このソリの装飾も全てが知世のお手製であって作戦なのだ。
今日はクリスマス、サンタがやってくるという日。どうせならサンタに会わせてあげようというのが知世の話だった。
そして今まさにそれを実行に移そうと、打ち合わせ通りにソリに乗る小狼サンタ。するとさくらは《翔》のカードで自分に翼を。そして自分と小狼、ケルベロスからソリまで覆うように《幻(イリュージョン)》のカードを発動させた。
「ケロちゃんは私の後に付いて来てね」
「ホンマに上手くいくんかぁ?」
ふわ~とケルベロスが大きなあくびをしながら言う。無理もない、いつもはもう寝ている時間なのだ。
「もう!しゃべらないのっ!《幻》で隠してるから、男の子以外の人が空を見上げてもいつもの夜空にしか見えないはずだよ?」
「そのようですわね…。残念ながら私にも見えなくなってしまいましたわ…」
いつの間に手にしていたのか、最新のビデオカメラを持った知世が残念そうにあちこちにカメラを向けながら言う。
「ご、ごめんね、知世ちゃん…」
「そろそろ時間だ」
小狼がポケットから懐中時計を取り出し言う。時刻は間もなく夜11時だ。
「うん!じゃあ知世ちゃん、行ってくるね?」
「お気をつけて…」
手を振る知世を見下ろしながら、ぐんぐん空に昇って行くさくらと、それに続くケルベロス。ソリも難なくふわりと浮き上がって空を飛んだ。
しばらく行くと、病院が見えてきた。消灯時間の過ぎた病院は部屋の明かりはほとんど消え、カーテンも閉まり外を見る人影もない。
さくらはそっと少年の部屋の窓を覗き込む。こじんまりした部屋にベッドが一つ。良かったひとり部屋だ。ベッドの枕元の小さな照明が点いているのが確認できる。さくらは窓を小さくノックした。
すると布団を蹴飛ばす勢いで少年がベッドから飛び起きると、窓の側に駆け寄り勢いよく開けた。
「待ってたよ!天使さんっ!!!」
「シィ~!!もうみんなが寝ている時間だから…ね?」
少年は瞳を輝かせ顔を紅潮させながらコクコクと頷く。いつも双眼鏡で見ていたあの天使が目の前で翼を羽ばたかせているのだ。ここは5階。こんな高さの窓越しに話をしていることが夢のようだ。
「お約束のサンタさんを連れてきたよ」
そう言ってさくらが手招きすると、翼を持つトナカイ(ケルベロス)がソリを引き、そこに乗る髭のないサンタ(小狼)が窓のすぐそこにやって来た。
少年はパチクリを瞬きをすると、ボソッと呟いた。
「イメージと違う……」
言わんこっちゃない…。と思ったのはケルベロス。どう見たっておかしいやろ?こんな若造サンタなんて…。と。
しかし小狼が当たり前のように言う。
「お前のイメージしていたサンタは《グランサンタ》と言って、サンタの王様のことだろう。サンタは一人じゃない。考えてもみろ、この広い世界にサンタ一人じゃプレゼントは一晩で配り切れないだろ?」
何とそれらしい説得力のある言葉。
「そ、そっか……じゃぁお兄さん…お兄さんサンタはグランサンタの孫?」
少年は小狼の言葉を信じているようだった。ヒヤヒヤ見ていたさくらは内心ホッとする。
「孫じゃない《サンタ》だ。サンタはたくさんいるからな。今年は俺がこの地域担当なんだ」
「へぇ。凄い!!そんなサンタ事情を知ってる子供ってきっと僕だけだねっ!!」
少年は嬉しそうにいった。
「で、お前の欲しい物はなんだ?俺に会いたいとこの天使に願ったのだろう?」
「モノというか…」
少年はもじもじと俯いた。
「『病気を治したい』?それが願いか?」
少年は驚き顔を上げると目を見開く。それはさくらも同じだった。どうしてそんなこと小狼が知っているのだろう。
「サンタさんはなんでも知ってるんだね……。お父さんとお母さんにプレゼントをしたいんだ。…僕が病気を治して元気でいるところを見せてあげたい」
「なるほど…しかしそれは難しい。すまないが、サンタは病気を治すことは出来ない」
「そうだろうと思ってた。だから、僕の願いは《勇気》が欲しい。手術すれば元気になれるんだって…でも勇気がなくて……」
もう直ぐ手術の日が迫ったいた。それも一度キャンセルして延期しての日程だった。
少年は俯き声もだんだん小さくなっていく。きっとこれだって、願うものじゃない。
そんな少年の思いを解っているように、小狼がゆっくりと口を開く。
「《勇気》は人から与えられるものじゃない。《勇気》は自分自身で得るものだ。今のお前のように」
「え………」少年は顔を上げる。
「お前は気付いたろう?『願うものじゃない』と。《勇気》とは気付きそれを実行に移すこと。今より一歩前に進む、変化する自分を恐れないこと。それが《勇気》だ」小狼は少年をじっと見つめ続ける。
「一歩踏み出してみないか?」
「一歩…踏み出す?」
「例えば…人と違うことをしてみるのも勇気の一つ。空を飛んでみるとか?」
ここまで来たなら、この少年とさくら知世の想いにとことん付き合ってやろうと思った。普通だったら体験出来ないことをさせてやろうと、悪戯心まで湧いてきた。
小狼は窓越しに手を差し出す。首を傾げながら少年が恐る恐るその手を掴むと、小狼はソリに引き上げ隣に座らせた。
「手術は3日後だろ?その体力作りってことで…プレゼント配りを手伝ってくれ」
「へ!?ほ、本当になんでも知ってるんだね。そ、それに今、僕宙に浮いてるの!?」
ソリから下を見れば見慣れたはずの中庭がいつもより真下に見える。少年は慌てて小狼みしがみ付いた。
「大丈夫だ。このソリは落やしない」
そう言われても、こんなこと非現実すぎる。少年は小狼にしがみついたまま顔だけをもう一度下に向けた。
これはやっぱり夢じゃない。天使に会ったことも、サンタが会いに来てくれたことも…そして、今ソリに乗って浮いていることも。
ーーー《勇気》とは今より一歩前に進むこと………
「わかった。僕お手伝いするよ!!」
こうして少年とプレゼントを配ることになった、さくらと小狼サンタにケルベロス。
「こんなん、話にはなかったやろっ!?」
「シィーー!!静かにっ!!あの子へのプレゼントなんだから!」
という前の方での声は少年には聞こえていない。さくらが先導するように空を飛ぶソリの後ろにあるプレゼントの袋から、一斉にプレゼントが飛び出し眼下に見える家々に降り注ぐ。そしてプレゼントは屋根をすり抜け家の中に入っていった。
それを見て驚く少年と、顔だけを振り向かせウィンクするさくらに小狼がフッと笑う。
さくらが《幻》のカードで見せているのだが、プレゼントを配っているように少年には見えているのだ。
「すごいっ!!こんな風にプレゼントって配っているんだね!!」
「ああ、そうだ。でもこの事は……」
「うん!!絶対に誰にも言わないよっ!約束するっ!!!!」
少年は瞳をキラキラさせて、雪のように舞うプレゼントを空高くから眺めるのであった。
しばらく空の散歩を楽しんで病院へ戻ってくると、小狼は少年をそっと病室に降ろしてやった。
「僕、手術を受けて元気になるよっ!お父さんとお母さん、それからサンタさん達に元気になった僕を見せてあげる!!それが僕からのクリスマスプレゼントだからねっ!この事は絶対に誰にも言わないから!約束するよっ!!」
迷いのない顔で力強く言った少年に小狼は「ああ」と頷いた。
「頑張ってね!私たちも遠くから応援してるから!」
そして手を振るさくらは翼を羽ばたかせる。ふわりとソリと共に空高く舞い上がり、旋回して病院を後にした。
大道寺家の大きな庭で知世が空を見上げているのが見えた。さくらと小狼を乗せたソリ、ケルベロスがその庭に舞い降りる。《幻》の魔法を解くと知世の前にその姿が現れた。
「お帰りなさいませ、さくらちゃん」
「ただいまっ!知世ちゃんの作戦成功したよっ!!」
「それはよかったですわ……」
「ああ~、疲れたわ~。なんでこんなんワイがやらなあかんのやっ!」
「ケロちゃん!お疲れ様でしたわ!特製ケーキをご用意してありますの!ささっ、こちらに…」
「ホンマかぁ!!?いや、さすが!知世!!いくらでも食べられるで~!」
「ほほほほほ……」
知世の部屋に続く大きな窓が開け放たれている。その窓から屋敷の中に入っていくケルベロス。その後ろに続く知世がそっと振り返り二人に手を振った。
それを合図に、さくらと小狼はふわりと空に舞い上がる。さくらは翼を使い、小狼は魔力で風を操って、寝静まった町を駆け抜けた。
普段魔法を使うな。と小狼いうけれど、今宵は魔力が飛び交う夜。こんな日くらいはいいでしょう?
という様にさくらが微笑めば、小狼も苦笑から優しい笑みへと表情を変えるのだった。
二人が空を翔ける様にやってきたのは町外れの小高い丘にある小さな教会の屋根の上。クリスマスミサがとっくに終わった静かな教会は、ロウソクの炎が辺りを照らし幻想的に庭のツリーを照らしていた。
「どうしてあの子の病気のこと知ってたの?」
「お前から話を聞いてちょっと調べた。…うち(李家)にとっては容易な事だ」
「そっか……」
小狼は少年ことを少し調べた。病気で手術が必要なこと、それは手術さえすれば確実に治る病気だという事も。因みに、李家に掛かれば、カルテの内容まで解ってしまうのだ。どの様に情報を入手するのか…は、詳しくは言えない。
赤い屋根に並んで腰掛ける二人に、夜風が吹き抜けた。冷たい風は知世の作ってくれた暖かなお洋服でも自然と身を縮めてしまう。両手で自分を抱きしめる様にしたさくらの肩を、赤いサンタ服で包む様に小狼が抱き寄せた。
その距離にさくらは頬を染め鼓動を早めた。そっと上目遣いで見上げると直ぐ傍に小狼の顔。琥珀色の瞳に自分が映っていた。小狼の頬も染まったのが解る。
「ふふふ」と笑うさくら。小狼も照れくさいのだろう。
「この方が…暖かいだろ?…お、お互いに……」
寒そうにしているさくらを温めてやりたいと咄嗟に動いた身体。なんて大胆な事をしてしまったのか。やった後に一気に体温が上がり鼓動が早くなるのは小狼も同じだった。
「えっとね…小狼くんにクリスマスプレゼント作ったの。クッキー……これだけでごめんなさい」
おずおずと差し出されたそれ。いつの間に取り出したのだろう。
今回は、この一大イベントが気になって、プレゼントを準備するにも考えがまとまらなかったさくら。クッキーを作るので精一杯だった。
「そんなこと言ったら、俺は何も用意できなかった…すまない」
さくらはその言葉に首を振った。小狼は昨日までずっと仕事をしていた。忙しいのは知っている。
そんなさくらの頭をポンポンと小狼が撫でながら続ける。
「俺はさくらと過ごせるだけで十分。仕事も入らずこんなにゆっくりとクリスマスを感じる事はそうないからな。ま、サンタにもなったし、本当充実したクリスマスだった思う」
自分の姿を見回して小狼は笑ってみせた。
確かに。こんな風にクリスマスの時間を堪能できて、一風変わったクリスマスも悪くない。仕事のことを考えることなく、クリスマスを過ごせた。二人きりになれたのはやっとだけれど。
気がつけばとっくに日付は25日に変わっていた。
「MerryXmas!小狼くんっ!」
「MerryXmas!さくら…」
コツンと二人は額をくっ付けた。ただでさえ近いその距離は鼻先もくっ付いた。思った以上に互いの鼻先が冷たく、二人してクスクス笑う。
「俺からのプレゼント受け取ってくれるか?」
その近い距離で言われた言葉に返事をする間もなく、唇が重なった。
『プレゼント』と言われたそれはいつもよりとっても甘く深いキス。さくらも瞳を閉じて受け止め答える。
ケーキもディナーもないけれど、この幸せなクリスマスは誰にも真似できない。
今日という神聖な日、神聖な場所の屋根の上。
二人はいつもより甘くて深いキスで互いの気持ちを分け合うのだった。
END
◆◇◆◇後書き的な◇◆◇◆
ほえ~。ギリギリ間に合ったよぉ~T^T
体調不良だったり、時間が作れなかったりともうハロウィンの続いてクリスマスまで日が過ぎてしまうところだった。
せっかくの日にあまり甘くないのだけど…。すみません。
うちの小狼くんはいつもお仕事で忙しいので、今回はお仕事が入っちゃったりしない様にしましたが、やっぱり何かしらやってるってね。
お付き合いありがとうございました。