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チョロ助を追いかけろ

子育て奮闘記とHQとCCさくらな日々


呼ばれた気がした。小狼は嫌な胸騒ぎがして足を早める。片手で携帯の電源を入れ、メールを問い合わせしても新規メールなしの表示。

日が沈み辺りは家路を急ぐ人の足も昼間より早く感じる。街灯と行き交う車のヘッドライト。人の死角となる場所を上手く使い、風の魔法を利用して移動し辿り着いた場所を見渡した。
「ここで……何かあったのか?」
ペンギン公園の遊歩道。小狼は意識を研ぎ澄まし辺りを伺う。魔法を使ったわけではないが、微かに残るさくらの気配。ここで魔法を使おうと一瞬でも思った、その時高まった魔力の気配が残っている。
それともう一つ気になるもの。これも微かだが、甘い残り香を感じるのだ。

―――どこだ……どこにいる。さくら………。

小狼はほうっと息を吐き瞳を閉じ意識を高めた。さくらの気配を、声を探す。
人がいなくなり静まり返った公園、木々の葉が擦れる音、街のざわめきーー。

―――小狼くん…………。

「見つけたっ!」
さくらの声、気配を感じる方を鋭い目で見つめた。その声は人の歩く速度よりも早く動いている。
「車?車に乗っているのか!?」
小狼が呟いた時だった。

ブオーンッ!!!

バイクの音。そちらに視線を送ると、バイクを公園に横付けして桃矢がフルフェイスヘルメットを脱いでいるのが見えた。
「さくらが帰ってこねぇ。今日は夕食当番なのに遅すぎる。嫌な予感がして…お前知らないか?小狼っ!」
桃矢はさくらの帰りが遅いことを心配して、心当たりを回っていた様だ。

力を月(ユエ)に渡しても、兄妹だから?こういう感は残っているんだな。と感心しつつ、こんな時さくらの傍にいてやれなかった自分を桃矢はどう思うか。自分の不甲斐なさが悔しい。

この状況を話さなければ。小狼が桃矢を見ると、
「……後ろ乗れ。お前はアイツんとこ行くつもりなんだろ?俺にはお前をその場所まで連れて行くことしか出来ねぇ」
そう言って桃矢は、タンデムシートに括り付けていた半帽タイプのヘルメットを小狼に向かって投げた。
小狼はそれを被るとタンデムシートに跨がる。
「埠頭へ」
小狼の言葉に桃矢は頷きスロットルを回す。バイクは大きな音と共に走り出した。






どのくらい揺られていただろう。寝たふりをしていたさくらには車がどの様な道を通ってここまで来たのかは解らない。しかし車のエンジンが切れると、気を失う様に眠っていた女の子達がふらりと上体を起こした。
ハッとなりさくらも状態を起こすが、目に映った女の子達は、目は虚ろなままで誰一人言葉を発しない。どう見ても操られている様だった。
スライドドアが開くとさくらは俯いたまま車を降りた。後に続く様に次々に降りてくる女の子達。そこでまた新たな匂いにさくらは気が付いた。今まで車に充満していた甘い匂いから解放されたから?いや違う。今まで何度か嗅いだことのある匂いだ。
(………海?これ、海の匂いだ!)
夜の暗さの中に肌に纏わりつく湿った風は潮の香。海が近いのだ。

全員車から降りたのを確認すると、男が歩き出す。すると女の子達はふらふらと男の後を付いて歩いて行く。それはまるで《ハーメルンの笛吹き》の子供達みたいだ。そんな事を思いながらさくらもそれに付いて行く。
そっと辺りを見渡すと、暗くてよく解らないが大きな倉庫が幾つも並んでいるのが見えた。やけに静かだ。それは大通りからかなり離れているということ。
魔法を使うチャンスかもしれない。と思うと同時に相手の力が解らない分下手に動けない。今は自分だけではなく、後輩と他校の生徒達もいる。さくらは心の中で必死に小狼を呼び続けた。

男が倉庫の大きな鉄製の扉を開けた。中から咽せ返る程の甘い匂いが漂ってくる。男は気に留めることなくそこへ入って行き、操られた女の子達も次々にそれに続く。さくらも続いて扉の中に入る。
そこは薄暗く、非常灯だけが怪しく光る空間。しかし、それだけではなかった。暗さに目が慣れてきてぼんやりと見え始めた光景に、さくらは息を呑む。
そこには床に横たわる複数の人影。年齢もさくらと同じくらいの女の子達だ。

―――こんなにたくさんの人が、操られているってこと!?

二十人はいるだろうか。全員眠らされていて動く気配もない。それを横目で見つつ男に誘導され奥に進み、横たわる人が途切れたところで後輩達が順にその場で床に横になり始める。さくらもそれに合わせて横に伏せた。

今回はこれくらいか?
奥から足音と共に聞こえた声は聞いたことのない外国の言葉。さくらは息を潜め様子を伺った。すると、ここまでさくら達を連れて来た男も同じ言葉で話し始めた。
もう失敗は許されないからな…。これでも少ない方だ。それでも日本人は高く売れる…特に若い女は―――」

静まり返った倉庫にはたとえ小さな声でも、それが暗さも重なり不気味に響く。話の内容は理解できないが、男達が仲間だということはさくらにも解った。
(どうしよう…。小狼くんのお仕事と関係してるんだよね?)
魔法でどうにか出来ることなのか、今それをしてしまって良いのだろうか。さくらは制服の上から胸元の《星の鍵》を握りしめた。

しかし、どうして京都では失敗したんだ?《日本人》しかも《京都の若い娘》となればもっと値がついただろうに
京都には不思議な力を持つ一族がいたんだ。それで手を引いた
一族?日本にもそんなのがいるのか…。せっかく航路を香港から台湾経由にしたのに、これでは意味がない
全くだ。何のなめに香港を避けたと思っている…。で、ここは大丈夫なんだろうな?
ああ。京都の奴らは動いている気配はない。後は…

どうするつもりだ?香港を避ければ、どうにかなると思ったのか?

男達の会話を遮るように、暗い倉庫に冷酷無比なハスキーボイスが響いた。
(この声…小狼くんっ!!?)さくらは微かに顔を上げ気配のする方を見た。
だ、誰だっ!?」倉庫に響く声の主を探して男達が慌てて辺りを見回す。
お前たちが香港を避けた理由の一つであるモノが『日本を配下に治めた』と言えば…解るだろう?

男達が息を呑むのが解る。しかし声の主がどこにいるのかまだ解っていない様子で、辺りを見回し続けている。
その足元でさくらは息をつく。いつもと違う小狼の声、それにこんな状態だというのに。今こうして自分の居場所を見つけ出し、やって来てくれたことに、さくらは嬉しさに心が満たされる。
男達に気付かれないよう、そっと息を吐き気を引き締める。いつでも小狼の力になれるよう《星の鍵》を握る手に力を込めた。

ま、まさか!?なぜ、李家が日本に…
落ちつけ。いくら奴でもこの倉庫に充満しているこの香りを吸い続ければ…
男達は小さな声で囁きつ続けた。互いに背中が付く様にして立ち、様子を伺っている。
その時、ふわりと空気が動いた気がした。

俺に、この匂いは通用しない…
男達のすぐ傍で囁かれた声に男達はゴクリと喉を鳴らし、背筋に冷たいものを感じずにはいられなかった。












続く









◆◇◆◇…
斜体字は何処かの外国語…です。





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