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チョロ助を追いかけろ

子育て奮闘記とHQとCCさくらな日々


翌日。何時もより早めに登校したさくら。『暫く仕事で学校に行けない』と言っていた小狼の姿も気配も校内にはもちろんない。
朝一番で後輩の様子を見に下級生の教室を覗くと、始業チャイムがなる前のひと時を友人達と過ごす賑やかな空気が漂っていた。

「最近、あいつらテンション高くないか?」
「確かに…」
「始めは気にならなかったけど、皆に伝染したみたいにさ……」
「あそこまで来るとうるせぇな」
扉の近くで話す下級生の男子達の声だった。

「ねぇ、それってどういうこと?詳しく教えてくれない?」
男子達に向かってさくらが声を掛けた。校内の男子誰もが憧れるあの《木之本先輩》のキャンディボイスが間近で聞こえ、下級生の男子達は皆頬を染めた。
「き、木之本先輩…///」
可愛らしい声だけど、その表情は少し切羽詰まった様にも見えて、男子達は顔を見合わす。そして一人が話し始めたーーー。

先週、一人の女子がハイテンションで登校してきた。なんでもバレエの発表会が成功し、体調も絶好調と興奮気味に話をしていた。そして日を増すごとにそんなハイテンションの女子が増えてきたというのだ。
「ーーーで、気になるのは…夕方になると、匂いを探しているんです…」男子の話がそこで途切れ「なっ」と仲間と頷き合った。

「匂い?」さくらが首を傾げて尋ねた。
「部活の後に購買でココア買って飲んでたんですよ。そしたらあそこで騒いでる女子の数名が近づいて来て『私の探している甘い匂いじゃない』とか言って、立ち去ってったんですよ…。気持ち悪りぃ」
「ああ…なんか異様だったよな?」またしても頷き合う男子達。
「異様……。」さくらは呟く。
「あ、でも夕方に見たあの感じってのは、今はないんです。……夕方だけっぽい」
「そういや、あの変なのって夕方にしか見ないな」もう一人もそう言って頷いた。
「えっと…その様子がおかしいのは夕方だけで、それ以外は普段通りなの?」
「はい…。と言っても、前よりテンションが高いんですけどね、一日中…」
男子達はテンション高めで話している女子達に視線を送る。さくらも彼女達を見つめた。

聞こえてきた予鈴にハッとなり、さくらは時計を見た。
「そっか…部活の後に彼女達とお話ししてみるね!教えてくれてありがとう」
さくらはにっこり笑ってその場を後にした。
そんな超絶可愛い《木之本先輩》の後ろ姿をうっとりと眺める下級生男子達。そういえば先輩は何の用があってここへ来たのだろう。と疑問に思うのは一時間目の授業が始まってからだった。

ーーーバレエの発表会って…部活の後輩の娘のことだよね?匂いってなんだろう。あのエッセンスも甘い匂いがしてたけど……。
自分の教室に向かいながら、さくらはその匂いを思い出そうとしてみた。
(正直……小狼くんに飲ませてもらったのと………)
「匂い似てたんだよね……/////」
ボソッと呟いたさくらは、その時の状況を思い出して耳まで真っ赤になっていた。恥ずかしくなって両手で頬を押さえて小走りするさくらを、すれ違う生徒が振り向いて見ていたことなど、本人は気付かないでいた。






そして放課後。部活開始時はテンションは高いものの、それ以外は特に気になることもなく部活に励む後輩たち。むしろ絶好調とばかりに、普段上手くいかないフォーメーションも軽くこなしている様に見えた。
ハイテンションが影響しているのかな?とそっと様子を見ながらさくらが思っていると、
「今日は良い感じでキマったから…。この辺で練習は終わりにしましょう」
顧問の先生の号令によって、部活は何時もより少し早めの終了となった。

さて、どうやって話しかけよう。さくらが後輩を見るとあの日露店にいた三人は、他の下級生を近付けさせれないほどのハイテンションで話し込んでいる。
その中の一人、さくらに《エッセンス》をくれた後輩が近づいて来た。

「先輩!あれ使ってみました?」
「あ、あれね…うん。使ったよ(と言っても…解毒剤飲んじゃったんだけど)」
さくらは顔を少し引き攣らせた。そんなさくらの表情などお構いなしに、他の二人もそれに加わる。
「どうでしたぁ?体が楽になりませんでした?」
「え、えっと……ぽかぽかした…かな」
「解ります!!凄いんですよ、私なんてぇーーー」
「そうそう!!この子、先輩に譲っちゃったからって私に残りを分けてくれ~って。きゃはは」
凄いハイテンションで話し始めた後輩。その様子に困惑を隠しきれないさくら。

(何だろう、ただ楽しくて話をしているのと…ちょっと違う…何この違和感ーーー)
そこまで考えるとさくらはハッとなり確信した。

ーーーこの子達、焦点があってない!

「ね、ねぇ?その話もう少し詳しく聞きたいの…」
「もちろんですよっ!私達もまたあのお店のあったとこ通りたくて、寄り道して帰るところだったんです」
「さくら先輩って帰り道なんじゃないですか?」
「この前だって、あの店の前で会いましたものね!」

後輩の勢いに押され一緒に下校することとなった。さくらは千春達に別れを告げると、後輩とペンギン公園に向かって歩き出す。
その間も後輩達はハイテンションで話をしていた。さくらはその三人の一歩後を歩いて様子を伺っていた。話の内容は女の子が一般的に話す内容とそんなに変わったところはない。だたそこまでテンションが上がる内容でもない。
もし仮に、あの《エッセンス》を何度も口にしていたら、自分もここまでテンションが上がっていたのだろうか。

気が付けばペンギン公園も入口まで来ていた。確かあの日は公園内に入るとどこからともなく甘い匂いが漂って来て……そんなことを思っていると、
「見つけた…」
後輩の呟いた声に、さくらは辺りを見回す。
ーーー本当だ!あの時の甘い匂い!!
すると後輩達がその匂いに誘われる様に歩き出した。
「ま、待って……」
さくらはそれを慌てて追いかける。先ほどまでハイテンションで話していた三人は、黙ってただ匂いを求める様にしてフラフラと歩く。

「ど、どうしよう……」さくらは慌てて携帯を取り出し履歴からそのまま発信を押した。携帯の履歴の一番上は小狼の番号だ。
三人を追いかけながら携帯を耳に当てていると『電源が入っていません』というメッセージが聞こえてきた。
(お仕事中だから、電源切ってるんだ。メールを……)
そう思うが、三人を追いかけながらメールを打つことは容易ではない。さくらが携帯から視線を上げると、一台のワンボックスカーが停まっているのが見えた。すぐ傍に見覚えのある人物とあの時と同じ甘い匂い。

それに気付いた時、三人は車までたどり着いていた。さくらが慌てて携帯を仕舞い三人に駆け寄ると、見覚えのある人物…露店の店主と目が合った。
「君は《エッセンス》を使わなかったのかい?」店主はさくらを舐める様にして見て言った。
「い、いえ……。一度だけ使いました…」さくらはその視線に怯える様にしてやっと発した。
疑う様にさくらを見続ける店主。小狼に解毒剤を飲まされたが、嘘を言っているわけではない。こうしている間にも三人は車に乗り込んでしまった。固唾を飲むさくらの喉がコクリと小さく鳴った。
「まぁこういう娘もたまにいるからな……しかし、置いて行くのは惜しい。こいつは上玉だ…」店主が何やら呟いているがさくらには聞こえなかった。

そこへ、さくら達とは違う制服の女子高生二人組もやって来て、当たり前の様に車に乗り込む。その瞬間の少女達の表情をみてさくらは目を見開いた。
(この子達……、操られてるのっ!?)
さくらが見た少女達の表情は、焦点が合わない虚ろな表情。意識が無い様にも見えたのだ。さくらが視線だけをそっと車内に移すと後輩達は既に座席で眠っていた。

「お嬢さん、これを……」店主が紙コップを差し出した。湯気の漂う暖かい紅茶の様だ。ただあの甘い香りもする。さくらが戸惑っていると、店主がニヤリと不気味に笑う。
「一度飲んだ時、美味しかったでしょう?」
「はい…。」
「身体が暖まって……気持ちが良くなったでしょう?」
ーーーこれを断っちゃったら…あの子達だけ何処かへ連れて行かれちゃうの?

さくらはチラリと辺りを見た。この車の前だけ異様な感じがするが、周りにいる人達は特に気が付いていない。しかし、人が多すぎてこれでは魔法が使えない。

さくらは意を決した様にほうっと小さく息を吐く。
ーーー小狼くん………。
そしてコップを受け取った。
「いただきます……」
さくらはふうふうと息を吹きかけて一口飲む。その様子を見て不適に笑う店主。口に広がった紅茶の香りと甘い匂い。昨日は身体がほあほあ暖かくなって、気持ちも浮き足立った感じがした。けれど……。
(あ、あれ…?昨日と違う…。あっ!!そうか…小狼くんのお薬……)

「さ、車に乗りなさい……」店主の言葉にハッとなるさくら。
店主はさり気なくさくらからコップを受け取ると、そのまま車へと誘導する。さくらは薬が効いたふりをして車に乗り込んだ。三列目に乗る後輩をチラリと見て、そして自分は他校の生徒の隣の二列目。

「目が覚める頃には、お友達も起きているから…おやすみ」
店主は運転席に乗り込むと、ルームミラー越しにチラリとさくらを見た。さくらはゆっくりと瞳を閉じて寝た様にみせた。すると車が揺れ発進したのが解る。しかし、さくらは心の中で一心不乱に小狼の名を呼び続け、膝の上に置いた手はギュッと力強く握りしめていた。









続く








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