笠岡市でのお試し暮らし体験記⑨では、

⑧で書いた倉敷市美観地区でのことについてもう少し書いておきたいと思います。



倉敷美観地区には「くらしき川舟流し」やアイビースクエア以外にも、

観光の名所として『大原美術館』があります。

今回時間がなくて私は行けなかったのですが、ここには日本の美術作家たちのみならず、

世界の美術作家たちの作品が展示されており、その歴史も長く、

あと10年ほどで創立100周年を迎えるといった美術館です。

現在、新しい施設『新児島館』(仮)を建設途中で、

建設途中のためか無料で公開されていたためちらっと立ち寄ってみました。



そこには「特別展示」として、

ヤノベケンジによる≪サン・シスター(リバース)≫という作品が展示されていました。




私はこのあたり疎く…申し訳ないことに全然知らなかったのですが、

この作品は東日本大震災がテーマとなっている作品と知りました。

引用します。

 

≪サン・シスター≫は、≪サン・チャイルド≫の姉のような存在として、

東日本大震災による被害や苦難の日々を乗り越えることを願い、

希望ある未来の姿として、2014年に制作しました。

サン・シスター≫は、座りながら目を閉じて深く瞑想し、

立ち上がりながら手を広げて目を開く動作を繰り返し、再生の夢と希望の訪れを象徴的に表しています。

(略)

ヤノベの表現は、輝かしい未来を夢見させる一方で、その制御を誤れば、

大きな災厄をもたらしかねぬ科学技術の力の両義性を主題としてきた。

それだけに、東日本大震災によって引き起こされた原子力発電所のメルトダウン事故は、

彼の鋭敏な感性と想像の力が作り上げてきた作品の世界観を、

現実が大きく追い越してゆく壮絶な出来事であったのだ。

その苦悩の中から、ヤノベは、ただただ力強く未来を目指す≪サン・チャイルド≫を制作した。

 



このブログでも繰り返し書いているように、私はこれまで(今も)東日本大震災の支援に携わってきました。

正直言うと、東日本大震災を扱う多くの作品に対して、懐疑的な見方をしてきました。

「希望」などという言葉を簡単に使うのがはばかられる現実。

「苦悩」などという言葉では言い表せないなんともつかみようのない感覚。

一方で、「希望」や「苦悩」などという言葉だけで括れるものではない日常もあり、

それで括られることに抱く抵抗感などなど…。

現場にはそうしたものが入り混じっており、

「作品」はどうしても切り取られた側面が強調されることから、難しさを感じていたのです。

今回、こちらの作品を見ても、正直その感覚自体は変わりません。

ただ、おそらく私が今年度お試し移住をしてみようと思わなければ出会えなかった地域や人々の営みがあり、

そこに東日本大震災への「祈り」があるということを知れたのは、

何か私の感覚に変化を与えてくれたように思います。

 

東温市でのお試し暮らし体験記で書いたかと思いますが、

「初めて岩手の人に会った」

「自分の人生の中で、震災を経験した人と会うことになるとは思わなかった」

と、そんな風に言われる経験があり、

同じ日本であっても見えている世界があまりに違う現実があることを感じています。

不思議なことに、私自身も西日本でお試し暮らしをさせてもらっていて、

たまに耳にする東北の地名を聞いても、場所はよくわかるし関心はもちろん持つのに、

どこか遠いところの話のように聞こえる瞬間を確かに経験しています。

その中で出会う、東日本大震災。

これがどんな風に私の中に変化を与え、収まっていくのかはわかりません。

それでも、東北にいたら見えなかった東日本大震災、

そして私自身が見えてくるのかもしれないということを感じています。

同時に、変わらない・変えたくない自分自身の感覚にも気付かせてもらっているように思います。

新天地・多拠点生活といった未来を考えながら、

自分の過去や現在を大切にしていきたいという風に思うのでした。