イケムラレイコ うつりゆくもの |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー

◆ cinemazoo-ポスター
イケムラレイコ展覧会ポスター
「うつりゆくもの」
近鉄京都駅にて


うつりゆくもの。
「うつる」とは写る、映る、遷る、移る、
はたしてどのコトバをいうんだろう。

「うつりゆくもの」と題した展覧会のポスターを
京都駅で見かけたのが事の始まりでした。
「観たいっ!でも三重県! とおぃ!」
しかしながら、そのポスターは、
しっかり「来なさいよ~」と呼んでいたから、
帰宅後、三重県立美術館のサイトにアクセスしてみると、
イケムラさんは三重県は津市の生まれとあり、
長く海外で活動なさっている作家が、
初めて故郷での大きな回顧展をなさるのだ、そう思ったら
がぜん行きたくなってしまった。それは、
たぶん、私が実家で正月を過ごした直後のことで、
自分のアイデンティティにふれたからだ。

にしても、やることたくさんだ、うーん。
で、Twitterで気になる展覧会があると つぶやいてみた…
その時点でなんだか行く気満々になっていて、
しかも「私も行きたい」という友もいた!
じゃあ旅は道連れ、もう行くしかないと、
三重県は津まで観に行って参りました。

しかしながら…
道連れ予定の友が直前に行けなくなってしまった、
ので、友の分もしっかり楽しんで来ようと、
ちょびっと力んで津入りしたのでございます。
それと、三重県立美術館はいいと噂に聞いていたので、
訪問そのものが楽しみでありました。

はてさて、近鉄「津」駅で下車。
伊勢以外は知らない、
初めての土地、三重県は津。
駅の外に出ると雨がポツポツ降っておりましたが
「あいにくの雨」という形容は旅先ではやめておこう、
これは恵みの雨だ、明るいココロで、
小さな傘をさし歩く事15分。と、見えてきました、

◆ cinemazoo-案内板
三重県立美術館の案内が。
閑静な住宅街通りを左に折れると、
おだやかな丘にその建物はありました。

◆ cinemazoo-入口
ドーンと展覧会の看板が。
これはイケムラさんの近作ですね。


近代建築の美術館は
2003年にリニューアルされたとのことで、
まだ真新しく、そして明るい。
設計を担当したのは三重県の設計事務所で
館内の様子がこちらで詳しく紹介されています。

各展示室は小振りなスペース。
全体的に可愛らしい印象の美術館です。
美術館というと「緊張するしトイレ近いわ~」
という話をよく聞きますが、
そこでは敷居の高さは感じにくく、
プチ・ミュージアムという言葉がしっくりきます。

庭にはお外用のアートが所々にコロンとしていて、
「アート世界」に居るんだなと思わせてくれる。
( ぼそっ…奈良県立美術館もガンバレ! )
中庭も、アウトドア・エキシビションになっていて、
雨天のこの日は、館内から中庭を見ると…
  ↓
◆ cinemazoo-自然のアート
誰かの落書きが曇りガラスを流れ、
自然のいたずらアートができていました。

ようやく、ここからイケムラさんの展覧会のこと。
ほんとに素晴らしかった~。
【おしまい】

これで〆るとカッコイイ、のですが
ちょっとくどくど書いてしまいます…

◆ cinemazoo-図録より
イケムラレイコさん制作風景
~展覧会図録より~


イケムラさんは20代前半に生地・津を離れ、
スペインで絵を学ばれた後、
スイスを経て、現在はドイツでご活躍。
近作「横たわる少女」シリーズが有名かつ人気で、
私もそれらが目当てでありました。

今回の展覧会は回顧展ですので、
イケムラさんの足跡を辿っての鑑賞です。
展示室は10室ありました。

最初に入った展示室には、
初期のドローイングを壁いっぱいに展示。
キャプションは一切なしというシンプルさ。
「想像してください」と言われているのかしらん。
この展示室のネーミングが素敵で『魚と猫の神話』。
パステルやコンテで描いたラフなものが中心で
一方の壁にはドローイング作品のビデオ投影があり、
伸びやかな表現を前にしばし見とれました。

初期のドローイングはスペイン時代のもので、
私にはそこに「生」と「性」「命」
そして「女という性」を感じました。

展示室を進んで行くにつれ、
お馴染みの「少女」が登場。
キャンバス地をいかした薄い塗りのペインティング。
これ、生で観なければ分からない質感ですね。
発色が美しく、かつ簡素。
うん。イケムラ作品は強い。また、太い。
芯の通った人だ、そう思えたのは、
意外にも作品が大きくなかったから。
美術館で展示することを想定してないのでしょうね。
ゴールを想定せず、無心で描くとでもいいましょうか、
太さをそこいらに覚えましたね、精神面での、ね。
海外在住のイケムラさんですが、
作品からは、そこはかとなく東洋が感じられるのは
そういった潔さからだと思ったり。

ところで、お客様は少なかった。
会期終盤だったというのに雨のせいでしょうか。
私は人の少ない美術館が好きですけども~
作品の前で座禅するような静けさがいいんですね。
ただ、美術館の経営は大丈夫なんだろうか、
心配しつつ、展覧会を観て歩く。
ある展示室にはテラコッタ彫像がズラリと並び、
ある展示室では『山水』などの最新作が。
後半の『やみのへや』では、
テラコッタが闇の中で横たわり、
文字のインスタレーションが壁にありました。
この人は詩人でもあるんだ。そうして、
詩人はイケムラさんの絵に詩を綴るでしょう。

ふーん、やっぱそうなのかと改めて思ったのは、
イケムラさんの表現スタイルが
住む場所によって変わっていったこと。
スペイン→スイス→ドイツと、
お国が変わると作風も変わっていく。
私だって、京都→東京→奈良と、
拠点が変わるごとに絵が変わってるんだよねぇ。

最後の展示室は図書室。
イケムラさんの書籍が整然と置いてありました。
商業の臭いは一切なく、ここでも強さが。

イケムラレイコさん、
日本を離れて40年余り…かぁ。
20代始めに日本を発たれてるから、
現在は60代かな…いやぁ、
パワフルだな、漢だな、とか思いながら、
一息すべく階下のフランス料理店へ。


◆ cinemazoo-レストラン
ランチタイムが終わっていたので、
シェフおすすめデザートプレートを所望。
飲み物が付いて1050円也。
( ぼそっ…奈良県立美術館もガンバレ! )

展覧会にちなんだ『イケムラ特別ランチ』は
お店の人によると早々に売り切れだったとか。


ごちそうさま☆ 満足でした!
デザートプレートを平らげた後は、
紅茶をチビチビ飲みつつ、
展覧会の図録にざっと目を落とし
イケムラ作品のことやイケムラさん自身に
ぼんやりと想いを馳せる。
と、鮮やかに蘇って来たものが、それは
イケムラ作品の中の写真群であります。

写真はどれもピンボケのモノクロームです。
目を閉じた人物写真がほとんどで
顔の部分がボケボケ。手ブレ写真で
「今がさっきになるところ」を写してる。
そう、「写」だ、うつろい、だ。
イケムラさんは「とどまらない様子」を
絵や彫像で捉えようとしているんじゃないか、
変容を表現しようとしているんじゃないか。
絵も彫像も静止しているけれど、
その先にある余白を表現している人ではないかと。
だから、展覧会の『うつりゆくもの』は
「遷る」「移る」「写る」「映る」
どの字も当てはまるし、どれも該当しないとも言える。
はぁ~詩人だなぁ。

紅茶を飲み干した後、私に至りましては
ふいに伊勢湾が見たくなってしまった。
イケムラさんが見て育ったという津の海を。

◆ cinemazoo-伊勢湾

雨の伊勢湾。
美術館から歩いて40分はかかったか。
これを酔狂と人は呼ぶのでしょう。


開眼沿いを小高く舗装されたアスファルトの散歩道が
Uの字状に続く中、傘をさし、ゆるりと歩いてた。すると
「海 見に来たんか?
 雨で残念やなぁ。
 晴れてたら空港も名古屋のビルも見えるのにな。
 ほれ、2つの背の高いビルが…」
犬の散歩に来ていた地元のおばちゃんが
酔狂人の私を気遣うように話しかけてきた。
「本当に。晴れていたら海の水も青いでしょうね」
私はそう応えたけれど、
心では雨の伊勢湾を見られて良かったと思ってた。

20代前半で故郷の津を飛び立ったイケムラさん。
雨降る海は、晴れの日以上に、
海の向こうの よその国を想ったのではないでしょうか。
この小さな湾岸ときたら、台風ともなれば、
荒れ狂い、そら恐ろしい様相だろうて。
好奇心が強い、そういうワクワクした感じではなく、
なんとも、ハガネの強き意志を持って、
イケムラさんは海の向こうへ渡られた気がする。

40年前、外国へ渡った一人の日本人は
当時の世界の主アメリカではなく、
芸術の都のパリでもなく、スペインを選んだ。
当時としては珍しいケースではなかろうか、
その理由は展覧会の図録にあったっけな。

「私、王道が苦手なんですね」

フランス料理店で
ざっと斜め読みしたイケムラさんのインタビューに、
こんなにも強い言葉を見付けた。
いささかショックだった。
強過ぎる、精神が。
かっこ良過ぎるやんか、たくましいやんか。
型にハマラナイ、群れに背を向ける。媚びない。
20代でそれかい!
この日、雨が落ちる伊勢湾の波々から、
「毅然と生きよ」と喝を入れられました、私。


というわけで海を後に、
毅然として行動することに。



◆ cinemazoo-寿司

毅然と、松坂牛の にぎり寿司を食しました。
夜、ひとりで外食するのは苦手なのですが、
この日ばかりはがんばったでっ!
ああ、うまかった~ん。

小さい。小さいな、私…

こんな私が肝っ玉据えて最後につぶやこう。

イケムラさんの描く「少女」は
ピクピク ピクピク うごめく。
静止している絵の中でピクピク、
塊でしかない像でさえも ピクピク。
自分の意志というか、むしろ、
何かに動かされているようにも見える。
もしかしたら、私があの日に観たものは
「少女」でも「生き物」でもなく、
イケムラ流の神話表現なのかもしれない。
21世紀の超神話とでも言おうかしらん。

(ぼそっ…晴れの日の伊勢湾も見たい…)


クローバー イケムラレイコ Side B
イケムラさんのことを知りたい方におすすめ

クローバーイケムラレイコ ~うつりゆくもの~ 三重県立美術館HP

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