おくりびと |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー

◆ cinemazoo-大樹でそっと
大樹の中でそっと眠れたら…


「けーちゃん、墓買ぉたから」
今年の夏に実家へ帰った日、
やおら母が重大告白をした。
ぽかんとして私は言葉が出ず
ただ母の顔色をうかがっていると
「私とお父さんの墓や。いずれ死んだら、
 ふたりとも そこに入れてくれたらええから」
そうか、この人はもう死後のことを考えてるんだ…
「分かった、そうするわ、
 でも長生きしてや、まだまだやで」
言葉少なに場を繕うと、
「あたりまえや。
 きよしくんのコンサート、もっと見たいし」
「氷川きよしが生きがいかいっ!」
母が突っ込みどころを こしらえてくれたので、
どうにか安堵したものの、
頭の中ではハテナマークが飛び交っていた。

えっと。両親が共にいなくなったら、
喪主って誰になるの?
葬式費用って、いくらぐらい…?
親戚は誰と誰を呼べばいいのかな。
え~~未婚の私が死んだら、
私の墓はどうなるのかな?
特定の宗教がない私はどんなふうになるの?

分からないことだらけで、うつむいていた。
それでも、昔は夫婦喧嘩が絶えなかった両親なのに、
「仲良く眠りたい」と今は願ってる、
その変化がひたすら嬉しくて、
両親の買ったという、おそらく ささやかな墓が、
やけに健気に感じられ、
氷川きよしファンのミーハーな母が
おかしいほど神々しく思えたけど、
その一方で、こんなことも考えてたりなんかして。
死者を送るという儀式は
つまり残された側に決定権が移るってことで…
「お金。貯めておかんと」
現実的になっていた。その心情を母が察したのか、
「葬式代も貯めてあるから」
毅然と吐き出された言葉に苦笑いしてしまった。

映画『おくりびと』を観たとき、
あの日の「墓、買ぉたから」という母のことばが、
しきりに頭の中をよぎった。
両親が買ったという小さな墓、
それこそは両親の尊厳なのかもしれない…、
いつのまにやら破裂してしまった涙腺。
そうして、映画に登場するふたりの納棺師の、
美しくも官能的な所作に見惚れ、
「この人たちに両親をおくてもらいたい」と思ったのだ。

この映画はものすごくハリウッド的で、
ドラマチックで、大味で。
でも、納棺師というマイナー職業に誇りをもつ人たちの、
その凛とした姿勢と、“おくる儀式”がひたすら優雅で、
椅子に座って観ているのが申し訳なく、
地べたに正座したいほどだった。

墓の守人を託された娘として、
観るべき映画だったと思う。


★★★★★☆☆ 7点満点で5点
予想外に笑えた~。 葬式という
未体験ゾーンに立ち入った人間の右往左往が可笑しい。

ズブの素人が一人前の納棺師になる段階を、
もうちょっと描いてほしかった。
モックン演じる主人公がいかに素質があったとしても
段階を端折りすぎのような。

「けがわらしい仕事」なのかどうか。
オーケストラ奏者から納棺師へ転身した夫を、
はたして妻は受け入れられるのか?
見せ場が巧く、サラッと流しているところに好感。

「誰でもいいから刺したかった」
あってはならない理由で、尊い命が奪われるという、
無惨な事件が次々に起こった今年。
事件の報道を前に私たちは
もっと泣いてもいいんじゃないか、
赤の他人のために涙をいっぱいためて
見送ってあげてもいいんじゃないか、
どこかで現代人は麻痺しているんじゃないか。
泣きじゃくって映画を観ながら思った。

2か月以上前に観た映画なのに、想いが今もなお残ってる。
2008/10/1 新宿ジョイシネマにて鑑賞


●『おくりびと』公式サイト

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