さくらん |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー


『金魚ひとひら』



私は金魚が苦手。

3歳になるかならないかの頃、
一人で留守番していた時、
水槽で気持ちよさそうに泳いでる赤い金魚が目に付いて、
どうして水に浮かんでいるのか不思議で、
ひょいと救い上げ、ぴくぴく動いている胴体を、
チョキンとハサミで切ってしまった。
中から内臓が出て来た。
ウニョウニョウニョー!
気持ち悪い!!! 金魚を見ると、
もう2度と動かなくなっていた。
死んだ…
私が殺した…
青ざめていると、母が帰宅し、
死んでしまった金魚を見て、
私の頬をパン!と叩いた。
「なんてことするの! かわいそうに!
 残酷な…!!!!」
母が大事にしていた金魚だった。泣いていた母。

あれ以来、私は金魚を見ると、
幼い頃の“惨劇”を思い出してしまう。
自分の中の無邪気さと、
泣いていた母の震えていた唇を。
あの時、私は母の中の女を初めて知ったのだ。

金魚は苦手。
でも裏腹な想いがそこにはある。
実は金魚は描いてみたいモチーフのひとつ。
金魚の赤い色は艶かしい。
それは ついすくい取ってしまいたくなる色香。
魔性に似た魅惑か、と思う。

写真家・蜷川実花さんの初監督作品『さくらん』。
映像に幾度も現れる水槽の中の金魚は
女の魔性を放っていた。
好きな映画。



★★★★★☆☆ 7点満点で5点
観てからもうずいぶんになるので、
とんと感慨はうすれてしまったが、
元々好きだった蜷川実花さんの写真世界が、
そのまんま横滑りしたような鮮やかな映像美。
言い換えると、写真でもよかったんだけど、
色彩の美しさ、際どさ、強烈さを活かすべく、
架空の吉原を舞台にしたのが正解。

蜷川実花さんと『マリー・アントワネット』の
ソフィア・コッポラ監督、
この両者はセレブな2世ということで似てると思う。
生まれてからずっと、
庶民には縁遠いアートという格式の高いものが
手近なところにあったのだろうな。
だから『さくらん』は今時のカリスマチックな女性作家の
コラボレーション作品でアート性が強い。
娯楽ではなく、作家の感性がほとばしる。が、印象は、
美術系の仲良し女子短大生による学園祭作品という感じ。
「女」ではなく、「女の子」に終始しているのが物足りない。

といいつつ、私はこの映画に、
自分でも信じられないほど感動してしまった。きっとそれは
蜷川実花さんの色彩によるとところが強い。

私は絵描きではあるけれど、
絵は達者ではなく、長けているのは色彩感覚。だから、
『さくらん』の色に泣く。
他の人には伝わらない表現でも、
色だけで充分、私には通じてしまう。

土屋アンナちゃんは やっぱり良い。良いけど、
菅野美穂さんの脱皮っぶりが出色。
音楽の椎名林檎さんの音楽と蜷川実花さんの映像は、
もうひとつ合ってない。
カツカレーの上にペペロンチーノを乗せてしまったような…。

~3月7日 新宿ジョイシネマにて鑑賞~



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