9.11-8.15 日本心中 |  ◆ R I N G O * H A N

 ◆ R I N G O * H A N

歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー


『IN THE PLACE』


化学や数字で何事も証明できる
だなんて、人間の思い上がりも甚だしい。
人間が生息する地球という星も
未知なる宇宙のほんのひとコマに過ぎない。
人の知恵が行き届くなんて有り得ない。

化学も数字も、確かに目安や図りにはなる。
けれど、例えば化学で
人と人が巡り逢う“縁”という
無形の不思議を証明できるだろうか。
忘れたくても忘れられない情念を
方程式は解答してゼロにしてくれるだろうか。
また、愛し合う男女が語り合うときの、
あの なんともいえない甘さを
預金高は伝えてくれるだろうか。

化学や数字で証明できないものこそ、孤独の支えになる。
見えないものにこそ、喜びが有り
人はそれを得て、幸せという無形のものを抱く。

人は無形のものを有形にしようと、
音楽や絵画や文学や舞いを楽しみ、
人体には いかほどの 可能性が秘められているか、
スポーツは そんな感動を伝えるために生まれ、
「おいしかった」という、
日常の幸を伝えるため、食の文化は発展した。
そうして、無形を説くべく宗教が生まれ、
人々に宇宙という生命の神秘を伝えた。
これらは無形を表現する術。

地上で国と国の悲劇が連鎖するのは、
“無形の表現”を化学や数字に当てはめ、
私利私欲に利用する指導者が絶えないこと。
それもそのはず、見えないものは実にあやふやで不確かで
化学や数字という「見える魔術」に利用されやすい。

目に映るものは全て、
「肉眼では見えないもの」による「表現」で、
気が遠くなるほど奥が深い。それを
化学や数字で説明できるなんて思い上がりは
もうそろそろ葬りたいもの!!!

たとえば、モナリザという
有形の美を伝承するのは素晴らしいことだ、
けれど、モナリザを描いた画家の想念を伝えることを
人は おろそかにしていないだろうか。
目に見えないエネルギーを次世代へと伝えなければ、
あまりにも人の内面は脆く、
やがては滅亡につながる。ああ、恐ろしい。


映画サイトより抜粋
(略)映画の中では、元日本赤軍リーダー・重信房子を母に、パレスチナ解放闘争の闘士を父に持ち、数奇な運命を生き抜いてきた重信メイと、戦後日本の文化状況を鋭く批判し続けてきた美術批評家の針生一郎、それぞれの旅を主軸として、美術批評家の椹木野衣や思想家・鵜飼哲、哲学者・鶴見俊輔の各氏による対話や、韓国の抵抗詩人・金芝河の語りなどを通じ、私たち人類が進むべき道を探ってゆきます。
 また、藤田嗣治の戦争記録画『アッツ島玉砕』を取り憑かれたように模写する男(島倉二千六)の姿を通して、戦時中日本で多く描かれた「戦争記録画」が抱え持つ問題を、9.11以後の世界が抱える困難と重ね合わせ、それを、人間の魂が根源的に求める「自由」の問題として捉え直してゆきます。(略)
※詳細は下記映画サイトで。

★★★★★☆☆ 7点満点で5点
本作を観た夜は見事な満月だった。
この映画に相応しいオーラ。

戦争、テロ、憎悪、支配。9.11と8.15。
それでも太陽はのぼり、月は満ち欠けを繰り返す。
本作品は目に見えない縁や
道理では説明がつかない生命の神秘を
表現者がそれぞれの“旅”で見つめ直すもの。
舞うもの、詩を綴るもの、絵を描くもの、
批評するもの、各人が自己と国家と対峙し、
やがて、いくつかの旅はひとつの道に引き寄せられる。
この作品は各人の想念で綴られたもので、映像は静寂である。

オープニングの大野一雄さんの舞が、
この映画全体のテーマを物語る。
宇宙というオーラによって、人類は生かされている、と。
逃れたくとも逃れられない過酷な生、
何人にも平等に与えられた自由が ここにある。

美を創作するということは
宇宙の声をきくことだと、今さらながら思い知る。
見えない神秘を感じられない者は結果的に行き詰まる。

「命」と書いてメイと名付けられた重信房子さんのお嬢さん、
彼女と巡り逢われたときの
詩人・金芝河氏の清らかな感性に
希望は、考え方ひとつで得られるのだと救われる。
かならず和平の道は切り開けると彼はいう。

ラストがドラマチック。
ここで少し、違和感を覚えたが、
作品全体を通して、監督の和平への想念に感動した。
監督の大浦信行さんは、
かつて『天皇コラージュ』で話題になった美術家。
しかし、本作には『天皇コラージュ』ほどの過激性はない。
映画後のトークセッションで大浦さんが、
本作を分かりやすく解説されていたのが印象に残る、
きっと真摯に世を憂いておられるのだろう。
説明をきいて、私も「なるほど」と思ったこともあったので、
有り難いと思いつつも、本作は肌で感じるものだから、
観賞後の説明は少々 野暮な気もした。

好評のため、3/3からアンコール上映が決まったとか。
また観たい。次は重信メイさんがゲストのときがいいなー。

~'06年 ポレポレ東中野にて観賞~




映画を観た日の私のブログ記事

『9.11-8.15 日本心中』サイト



『ポレポレ東中野』サイト