久保田早紀『サウダーデ』 |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー


時間旅行が心の傷を
何故かしら埋めてゆく不思議な道

~久保田早紀 作詞『異邦人』より~


見知らぬ異国へひとり旅に出た時、
ああ、遠いところにやって来たなぁ、
私って東洋の果てに生まれた異邦人なんだ、
すごく切なくなって、ふいに、
久保田早紀さんの歌『異邦人』が口を付いて出る
♪~ちょっとふり向いてみただけの異邦人~♪
なんて口ずさむのは、私だけの特異体質だろうか。
ともかく異国の文化に放り出されたときの、
あの なんとも言えない哀愁、でも
寂しいのに 居心地は良い。
あれは寂しいだけじゃなく、
異国の地で日本と同じ習慣や
情景を見たときにも湧き出る感慨でもあって、
なかでも元気に走り去る子どもの姿を見た時、
どこでも同じだなぁと、
体の内側が茜色に染まって、胸がジーンとなる。
たぶん、ポルトガルのファドに宿るといわれている
サウダーデという感情も
私が異国で噛みしめた愁(ウレイ)と似てるんだろな。

久保田早紀が歌う『異邦人』が、
大ヒットしたのは1980年頃、
振り返ると もう四半世紀前のこと、こわい~
こわいけど当時から大好きな歌だった。
それにしても、あの歌詞はいったい、
どこの国の情景を歌ったのだろう、
四半世紀もの間、ずっと疑問だったけれど、
それが ようやく解決! 異邦人の街は
ポルトガル。
解決の糸口になったのはサウダーデだった。

今月、『サウダーデ』という作品展を行うため、
サウダーデのことをもっと知りたいと思い、
ネットサーフィン(これって死語やわぁ)してみたら、
久保田早紀さんが『サウダーデ』という
アルバムを四半世紀前に出されているのを発見。
これは! と さっそくアマゾンさんへ注文。
届いてすぐ聴いてみると、一曲目が『異邦人』。
おおっ しかもポルトガル録音。
それに なんと、ギターを弾いているのは、
アントニオ・シャイーニョ!
「マリオネット」のギタリスト湯浅さんの師匠やんか。
へーすごいなぁ。このアルバムが発売された時代に
ポルトガル録音、それもファドアレンジだなんて、
斬新というか、異端というか、早熟というか。
当時は海外録音というと、ロンドンかロスだったし、
ファドを取り入れるポップ・アイドルなんて
さぞや「変わってる」と思われたろう。
彼女が“久保田早紀”として
歌手活動されたのが短いのは、
アーティスト思考が強すぎたせいかな。
あの頃は、アイドル全盛だったから。

この『サウダーデ』というアルバムは、
CDが発明される前の、
アナログ・レコードで作られていて
構成は その持ち味を生かしたものになってる。
A面とB面、全10曲が裏表に分かれていて、
A面が聴き終わったら、
ひっくりかえしてB面を聴く、
このときのAとBの“間”が大事なんよねぇ。
なぜかというと『サウダーデ』の
前半5曲がポルトガル録音で、
どれもアコースティックなファド・アレンジ。
一方の後半はガラッ☆と変わって、
当時日本の主流だった歌謡曲スタイル。
フル・オーケストラで バンバンバン~♪ と派手で、
このギャップは すごい。CDだとノンストップで一気だし、
AからBに移るときの、あまりの落差に
なんじゃ! と慌ててしまう。
できたらレコードで聴いてみたかったなぁ。

といっても、いいアルバムです、これ。
特に前半のポルトガル・アレンジが。
アルバムのイントロ部分は、
ポルトガルギターのソロで始まり、
次に女の人がポルトガル語で何かを語る。
何を言ってるんだか分からんけど
「フニャフニャ ○×○□★◎~ サウダーデ!」
と言ってるから切ない胸の内を言ってるんでしょう。
アルバム・タイトルと同名の
『サウダーデ』という曲も収録されてるけど、
これがオーケストラ&バンドによるアレンジで、
あまりの歌謡曲にビビッてしまうけど、
旅から日本に帰ってきた 久保田早紀さんが、
異国の故郷ポルトガルを想うという主旨の曲だから、
バックの演奏に慣れてくると なかなか綺麗。

久保田早紀さんがポルトガルに魅せられたのは、
偶然 お店で手にしたという
ファドの女王アマリア・ロドリゲスの
レコード、もしくはテープだそう。すごーい、
久保田早紀さんが『異邦人』を作詞作曲されたのは、
まだ彼女は学生か、二十歳そこそこのはず、
その若さでファドに感化され、
好きな国はポルトガルで
尊敬する歌手はアマリア・ロドリゲスかぁ。
私ときたら久保田さんの曲『異邦人』に魅せられ
ようやく四半世紀後の今年になって
サウダーデを描こうとしてるんだから、
この晩成スタイルには恐れ入る、我ながら。

若き日の久保田早紀さんは
名曲『異邦人』がこの世に誕生する前に
ポルトガルの地を踏んでいらっしゃるのではと
私は想像するけど、もしかしたら違うかも。
憧れの異郷ポルトガルを想像するだけで
歌に残されたのかもしれない。ちょうど今の私が
行ったことのないポルトガルの
サウダーデという魂を絵にしようとしているように。
なんか、ゴッホやルソ-ら印象派の画家たちが
浮世絵に魅せられ、日本に楽園を想ったのと
似てるなぁ、なんてのは、
自分を過信するにもほどがある、か...。






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