愛の矢車菊 |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー


the lip's tree


私はへそ曲がりだ。たとえば
映画館で映画を観ているとき、
心のどこかで映画を否定してる。
総合芸術だなんて呼ばれている映画を
傲慢だと突き放したくなる。だけど、
それは映画に限ったことではなく、
TVやドラマも含めてのこと。

“ある生”を劇的に盛り上げ、
娯楽として呈する映画やドラマ。
私の右脳のスミッコは それを危険視する。
CGという際限ない表現が可能になった今、
自然の息吹きに似た“じれったさ”がない作品は
映画だけでなく、音楽でも絵画でも建築でも
なんともいえない寂しさを感じてしまうのだ。

こんな私は淡々としたドキュメントが好きだ。

先日観た『愛の矢車菊』という
ドキュメント作品には、
気持の根底を揺さぶられ涙し、感動した。
ドキュメントではなく“風”というのがミソ。
あくまでも“風”であって
脚本が しっかり用意されているフィクションだ。
なのにドキュメントにしか見えない。見えないのに、
しっかりネタが仕込んであって
きっちり感動を狙っていることも伝わってくる。
それでも限りなく「日常の記録」だった。

この作品は先月まで開催されていた、
『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2006』
『New Horizon』と二本立てで観た。あの日に観た二本は共に
旅の映画だったが、持ち味は両極端で、
まず その組み合わせがユニークだった。

後で観たのが『愛の矢車菊』で
監督は樋渡麻美子さん。映画が始まる前に舞台上で
こうコメントされていた。
「私の映画は癖があるので、
 戸惑われる方も多いと思います、でも、
 面白いです。楽しんでください。」
おっ、自信家だなァ~なんて、私はニヤニヤ。
実際に映画が始まってみると ご本人が仰った通り、
こりゃオモシロイ! と唸るほかなかったわけで⋯。

この“ドキュメント風映画”の底辺に流れるものは
女性特有の「気分の切り替えの早さ」で、
私は そこに共感した。ただし女流作家特有の、なんて
およそ時代錯誤な言葉は使いたくはない、けれど、
それは あまりに女性の視線であって、
同様に女である私は この人のオリジナリティに
左胸を突かれ、強い刺激を受けた。

この作品、世の中の多くのヘソ曲がりたちに、
是非とも観てほしいのだけど、
残念ながら短編映画を
劇場で観られるチャンスは少ない。
タイトルがインパクト有り過ぎるぐらいなので、
いつかタイトルを目にしたときは、
ちょっと誘われてみて、『愛の矢車菊』に。

物語を下記に したためておこう。


主人公は孤高を愛する女性。
樋渡監督自身が演じる。
デジタル/ビデオ作品。45分。

「私」には「彼」がいるが
ある日、なんとなく別れを告げた。
「彼」の戸惑いと、
覚めた「私」の心情が うつろう。

「私」には、もうひとり別に
「年下の彼」がいて、目下のところ、
そちらの方に気がいっている。

が、「年下の彼」にも「私」以外に、
母親ほど年の離れた「彼女」がいる。
「私」は「年下の彼」に
「私だけと付き合ってほしい」と頼む。

なぜか、三角関係の三人で会うことに。

三人で会って以来、
何故か「私」は、年上の「彼女」と
時々食事するようになり、
いつしか妙に親しくなっていく。

「彼女」の過去が「私」に語られる。

「彼女」には別れた旦那との間に息子がいて、
長い間会っていないという。
やがて「私」と「彼女」は「息子」に会うため、
「女ふたり旅」に出る。が、
息子は よその街に移っていて会えない。

ある日、「私」は
「彼女」の「息子」に会うべく
ひとり旅に出た。

「息子」は鬱病が原因で
ある街で静かに暮らしていた。
生活は質素で物欲もない「息子」。
「私」は「息子」にきいた。
「母親」に会いたいか、と。
「会いたい」という「息子」。

旅が終り「ただいま」と「私」は帰宅する。
ドアを開け、おかえりと迎えてくれた人、
それは「わが息子」。




★★★★★★☆ 7点満点で6点
「風景だけで魅せられる映画を作りたい」
という樋渡監督のゆめをきいて納得。
この映画のテーマは「自然」だと感じたから。

登場する人物は皆、
プロの俳優ではなく監督のお知り合いとか。
いい人物に囲まれてますね、監督。
皆、自然で演技をしてるふうにはみえなかった。
イラン映画、特にキアロスタミ監督の世界を彷佛。

唇がつなぐ心の連鎖。
唇が震え、言葉が もつれ、心が からみ合う。
空気が振動し、互いの気持を揺らす。

「唇の記録映像」だと思った。

『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2006』
短編映画部門で奨励賞受賞。樋渡監督のお話。
「映画を観て頂く機会があまりないので、
映画祭で観て頂けて嬉しい。
このお金でまた映画が作れる。嬉しい。」

映画を観たあと、ホール入口で
樋渡監督とバッタリ会ったので、ちょっと立ち話。
「好きなリアリズムです、次回作も楽しみです」
と伝えたのは よかったけど、英語のタイトルが
何故「Blue bottle」なのか、きくのを忘れた。
こちとら本物の「Blue bottle」に魅せられていたので⋯。

また御会いできますように。







●『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2006』サイト
●「Blue bottle」に魅せられて