炎上 |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー

燃え

be in flames


KATAWA DOMORI CHINBA TSUNBO
メディアから消えた言葉たち。
私も子どもの頃は 軽く使っていたけれど、
それらが深く人を傷つける言葉だと気付いてから、
口にするのに抵抗を覚えるようになった。
けど、60代後半の私の両親となるとまた違って、
今も平然と悪びれることなく使う。
「ほれ、あの人 KATAWA やで!」
あまりに あっけらかんと使うので、
それはそれで いいのかなぁと思ったりもするが、
内心ドキッとする。もう少しデリケートに話してよ、
なんて思うけど、これも安っぽい同情にも思えるし、
「メディアから消えた言葉たち」には
いつも ややこしい気持にさせられる。

実際、今のところ私は右膝を怪我して以来
ズルズルと足を引きずって歩いてる。
つまり CHINBA だし、KATAWA。
「なんや、あんた KATAWA やん!」
と、何の悪びれもなく私の両親から言われたら?
もう ちょっとデリケートに⋯どころではない、
恨む! こちらは劣等感とストレスの固まりなんだし。
特に人の洪水が押し寄せる駅構内を歩いていると、
ヨチヨチ歩きの私などは唖然としてしまい、
その横を人波がドドッと追い越していく。
「私って世間の邪魔になっているんじゃ⋯」
心のどこかで 私は ひがんでる。
いつか治る怪我とはいえ、それでも、
医者がいうより回復が遅くて、ちょっと不安だし、
鬱蒼としたものが生まれる。焦る・・・でも、
家にいて好きな絵を描いたり、仕事をしていると
そんな憂鬱は飛んでいく。私には救いがある。
救われるが、市川崑監督の『炎上』に出てくる
吃音の青年の孤独は痛いほど分かる。
しかも身体のコンプレックスに加え、
夢や大志を抱いた青年期のジレンマは、
私にも覚えがある。いや、いぜんとして今も
そこから抜け出ていない、
そんな気配も無きにしもあらず⋯。

【映画について】三島文学の映画化において最高の成果を示した傑作中の傑作。しかしその製作課程では“金閣寺”という名称が使えなかったり市川雷蔵出演への会社からの猛反対など、さまざまな障害があった。が、吃音の修行僧という難役に惚れ込み、驟閣(しゅうかく)寺=金閣寺の絶対美と堕落した僧徒のはざまで苦悩する青年の内面を見事に演じ斬った雷蔵。クライマックスの炎上シーンをはじめ、宮川一夫のキャメラも特筆される。 ~『三島由紀夫映画祭2006』パンフレットより抜粋 99分 モノクロ 1958年作品。

安部公房の物語には、
突如として非現実な場所が作られる。
砂の家だったり、異次元的な精神科医だったり、
それらはカフカに類似していると
多くの人が思うだろうし、私も思った。
ならば、三島由紀夫の物語はカミュかもしれない。
太陽がまぶしかったから人を殺めたように、
青年は驟閣寺が美しいから火を放った。

この映画の前に観た『剣』と同じで、
『炎上』の青年もニート予備軍。というか、
どっぷりニートだ。大人社会に馴染めない。
憧れの驟閣寺を使って、お金を稼ぎたくない。
美しいものだけを追い求めるなんて身体に毒なのに⋯。
生きるため、食べるため、そして、
美を保存するためには銭がいる、銭が。
銭の花を咲かせるためには、手間ヒマかけて、
他人の歩調や世間の流行りに合わせたり、
やりたくないこともやらねばならぬ
「お米を買うために、家賃払うために、
 信念を曲げて絵を描いてしまった⋯
 こんな自分はいやだ、ああー
 針葉樹のように真直ぐ生きたい」
これは昔の私、割り切れない。『炎上』の青年も同じ。

自分が許せない。だから他人も許せない。
友人も、親も、世間も、常識も許せない。
で、自分の中にある理想だけがドンドン膨れて、
裏切らない物質しか見えなくなる。
『炎上』の青年にとっては驟閣寺がそれ、
かつての私にとってはなんだ、坂本龍馬か?
どちらも命がないから裏切らない、
でもホントは裏切るんだけど、
あまりに自分の中で美化し過ぎると
現実とのギャップや風化に気付いたとき、
もう変化を止めたい、自分だけのものにしたい!
つまり年は取りたくない、老いたくない
って、幼稚な甘えですな。で、焼く、青年は寺を。
焼いて気付く、寺を焼いたと同時に、
自分自身も焼いて、無きものにしたのだと。

身体の障害からくる劣等感も怖いけど、
心の病が一番怖い。過ちを許せないのはしんどい。
年を重ねる、皺が増えるって楽やねんけどなぁ、
今の私は不条理に がんじがらめになり、
逃げられなくなることもない。
世の中に存在する人や物を切り取って、
自分の偶像にすることもなくなった。
偶像ではなく理想像、これを自分の手で作るのが今は楽しい。
「お米を買うために、家賃払うために、
 信念を広げて絵を描いた
 こんな自分のために、ああー
 好きな絵を描いてみよう」

これはこれで針葉樹のように まっすぐなのだ。


キネカ大森「三島由紀夫 映画祭 2006」にて観賞~

★★★★★☆☆ 7点満点で5点
タイトルがいい。市川雷蔵の演技と在り方の良さ、
これに尽きる。これが私の『炎上』のすべて。

実際の金閣寺の事件をモチーフにしているためか
金閣寺を言葉で使えなかったのは イタイ。
「シュウカクジ」では荘厳なイメージは得られない。
また、青年が神聖視する寺の美しさが
映像から伝わってこなかった。といって、
現存のピッカピカの金閣寺は成金的で
私は好きではないけれど。

三島由紀夫の原作小説は
もっと官能に傾斜してると思われる。
なぜなら、劣等感の固まりの主人公は三島由紀夫自身、
「女への固執」がもっと露だと⋯。
映画でも魔物扱いされてるけど生ぬるい。
でも青春の炎上だから、あれはあれで素晴らしい。

仲代達矢の鬼気発する KATAWA の演技。
このとき25歳かぁ・・・。29歳で『切腹』は なるほど。





●『剣』を観た私の感想


角川エンタテインメント DVD『炎上』


三島 由紀夫 炎上原作本『金閣寺』