『今日の芸術』 岡本太郎 |  ◆ R I N G O * H A N

 ◆ R I N G O * H A N

歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー


sunshine


『肉体の悪魔』の感想にも書いたけど、
岡本太郎の著書『今日の芸術』を再読した。

バッグの中に入れて、待ち時間や電車の中で、
少しずつ読み進んだので、
二ヵ月か、三ヵ月もの期間、
さまざまな場所で私は岡本太郎の言葉にふれ、
芸術というよりも“今日の私”を想うことになった。
これ、50年も前に書かれた本ですが、
芸術が好きな方は必見の一冊・・・
という触れ込みはナンセンス。
明らかに こう、です!
あらゆる、全ての方に読んでほしい一冊。
なぜなら、岡本太郎は著書でこう断言しているから。

全ての人が芸術に参加できるんですよ!

『今日の芸術』は とても分かりやすい言葉づかいで、
読む人の頭の中にグイグイ侵入してくる。
侵入という言葉を使うと
乱暴なイメージがあるかもしれないが、
岡本太郎のメッセージはとても易しく、また、
多くの人に向け語られている“芸術というものの正体”は
とても優しいモノだと納得することができる。

岡本太郎は具体的な例や出来事を掲げて、
「芸術とはこうですよ」
「ほら、貴方も芸術に参加してるじゃありませんか!」
と、今日(こんにち)の芸術が
特権階級の人間の特別なモノではなく、
“目にする”ことや感動することで すでに
「あなたは表現者である」と断言している。
それは美術館で芸術を観賞するだけにとどまらず、
ヒット曲を口ずさんだり、写真を撮るなどの行為も差す。

「高い入場料を払って美術館に入ったら、
 子どもが描いた落描きのようなものが展示してあった。
 あんなんでいいのなら、私にも描ける。
 芸術って分からない」

岡本太郎は「よくこんな質問を受ける」と記しているが、
私自身も同じで、ホントに同じことをよくきかれる。
たとえば、私のカエルの絵などは、
「このカエルいいですね、でも
 こういうと失礼ですが私にも描けそうですね」
と、申し訳なさそうに言われてしまうのだけれど、
だからこそ、いい。失礼じゃない。
誰にでも描ける絵だからいいんです。
芸術とは男女の区別なく、職業にも関係なく、
生まれた場所にも、年齢にも、ちろん国籍にも限定されず、
ありとあらゆる人間が簡単に参加できる楽しいものだ。
「込み入った技術」や「伝統芸」の伝承ではなく、
「私にも貴方にも描けるのが芸術」。

昔、芸術は身分の高い人、つまり
権力者にのみ与えられた特別な術だった。
が、私たちの先人らが命がけで、
芸術は誰にでも楽しめるものにしてくれた、
だから、芸術は技術を競うのではなく、
『感動』を分かち合い、楽しむものだ、
岡本太郎は分かりやすく種明かししてくれる。

が、『今日の芸術』が書かれた1954年には、
この本はかなりのセンセーションを巻き起こした、
そう きいている、たいへんなバッシングもあったろう、
けれど、私が初めてこの本を読んだ20年前には
前衛芸術やアナーキーや、路上アートといった、
刺激的な表現が溢れていたため、実のところ、
さして大きな感激は得なかった。けれど、
あれから時代は うねり、ネットだ、CGだ、
となってくると、
岡本太郎の熱い想いがヒシヒシ伝わってくる。
それは私自身も道なき道を歩き、
自分の世界を開拓してきたという実感があり、
20年前よりも ずっと感覚が解放されているせいだ、
『岡本太郎』が胸に染みるのは。

「良いものは時代を越えて感動をくれる」
だから私は、岡本太郎の『今日の芸術』の感想を、
こんな有り触れた言葉で簡単に まとめたくない。
というのも『今日の芸術』の中には、
現代の日本には沿わないんじゃないか
という考え方も確実にあるからだ。さらに今の私には
「このメッセージは当てはまらないだろう」とか
「これは違うだろう」
そんな想いもいくつかあって、一冊丸ごとの共感はない。
でも、そんなふうに私が反面的な思惑を抱くのは、
岡本太郎が50年前に理想とした“今日の芸術”から、
だんだんだんだん、
現代の美意識が遠ざかっている
こんな不安感からやってくるんだろうか⋯?

私の不安感。岡本太郎が描いた理想とのギャップ。
それは 自分とは どう違うのか、何が不安なのか?
まだ今は 書けない、説明できない、よく分からない。

『今日の芸術』を読んで芽生えた疑問。
まだ自分の胸で渦巻く混沌を整理できずにいる、
それについては またいつか書くことにしよう。







 今日の芸術はうまくあってはならない
 きれいであってはならない
 この岡本太郎のことばのつづきは『肉体の悪魔』の感想にあります。

 ●Amazon/ 岡本太郎:作『今日の芸術』

◆5*SEASONが参加する「ブルーボトル展」開催中!
会場/東京・代官山アートラッシュ・ギャラリー
TEL 03-3370-6786
●企画展の詳しいお知らせはこちら