モンパルナスの灯 |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー

影

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画家・モディリアーニの半生を描いた映画
『モンパルナスの灯』を観た。
推薦人の言葉どおり良かった。名作。

私はモディリアーニの絵が、
それほど好きではないけれど、
画面に はびこる けだるい気配と
補色を大胆に配置した色の組み合わせは好きだ。
それに極端に長い首と白目のない瞳はデザイン的で、
近頃 流行りの広いリビングでも、
インテリアとしても似合うだろうから、
モディリアーニが好きだという人は多いだろう。
が、この画家も生前は日の目を見ることはなく、
現在評価されている作品は当時、
非難と中傷の的だった。
このことは美術の授業でも習うから
ご存じの人も多いはず。

20世紀の始め頃はモディリアーニだけでなく、
エコ-ルド・パリと呼ばれる印象派の画家たちは皆、
画壇から つま弾きにされ苦労を背負った。
これは当時の芸術が
まだまだ「きれいなもの」が評価され、
「真に美しいもの」は嫌悪されたせい。
つまり人間の本質にグイグイ迫る、
反骨精神のかたまりは 叩かれた。
同じことが、実は日常でも よくある。
それは「あなたには こんなところがあるよね!」
と軽い調子で指摘されたのに、「そんなことないっ!」
と、ムキになって否定する人がいる、それって
たいてい指摘されたことが大当たり、直球ド真中、
だから怒りだしてしまうのだ。
こういう私も、ムキになって否定した経験がある、
だから過去の印象派の画家たちが
あまりに斬新に世の中を切り取ったものだから
世間が無意識のうちに否定した、
その気持も分からなくもない。

今となっては人気のモディリアーニや巨匠・セザンヌも、
そして当然といってしまうと失礼だけど
“理解されなかった帝王”のゴッホも
生前は貧困に あえいだことでは有名だ。
けれど、映画『モンパルナスの灯』では、
モディリアーニに“一角千金のチャンス”と
有名作家になれるかもしれない商談が転がり込む。

作品を商品に、という資産家からの誘い。
これはコマーシャルや商業デザインや、
イラストレーションという地位が確立している今日では、
商品へのプリントもキャリア向上の
選択肢として成立するけれど、モディリアーニの時代は、
瓶や箱などの使い捨てのパッケージに
自分の渾身の作を、それもニセモノを多量に作り、
金儲けの道具にするなど、
無礼極まりない“誘惑”だったはず。
さて、モディリアーニが選んだ選択は⋯?

私はモディリアーニとは違って、
イラストレーターという
職業としての絵描きから始まっている。が、
最近は、商品の宣伝のために描くのではなく、
感動や後々まで伝えたいことを
一枚に留めたいと思うようになった。
だから、モディリアーニの誇り高きプライドは
痛いほどに分かる。 けど、
映画で描かれているようなチョイスは、
21世紀を駆け抜ける私は絶対にしない。
幸いにも時代は変わり、世の中も懐が深くなった。

というか作家は皆、お金と理想の間で揺れるものだ、
崖に立ち、深淵に沈み、悩みに悩む。
そんなギリギリのところにいる画家の内面を
分かりやすく、ドラマチックに脚色したのが
映画『モンパルナスの灯』。そう思うと
同じ絵描きとして私は、ちょっと映画のネタとして
一番尊いものを もてあそばれた気がして、
ほんの少し胸がチクッと痛んでしまう。


★★★★☆☆☆ 7点満点で4点
モディリアーニが生前、売れなかったのは事実だけれど、
この映画はあくまでフィクション。

白黒のコントラストが美しく、
奥様役の女優さんも凛として美しい。
この前に観た『肉体の悪魔』
蒼い若者だったジェラール・フィリップから
年輪のせいかしらん、奥行きと悲哀が滲み出ていて、
ダメ男・モディリアーニの影の部分を熱演。
が、画家の苦しみだけでなく、
描く喜びに満ちている場面も入れるべきだった。
これはエド・ハリス主演監督の『ポロック』でも感じたことで、
画家になりきろうとするのではなく、
自らの感性を解放する、あるいは“自分”の中の童心を見せる、
それだけで充分、誰もが芸術家になれる。

~池袋・新文芸坐にて観賞~


◆ T シ ャ ツ 展 開 催 中
7/3(Mon) まで 東京・代官山アートラッシュにて
TEL 03-3370-6786 ●詳しいお知らせはこちら



●映画『肉体の悪魔』の感想

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