かもめ食堂 |  ◆ R I N G O * H A N

 ◆ R I N G O * H A N

歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー

かもめ

KAMOME+ONIGIRI


自分の親が亡くなったときより、
自分を慕ってくれた“太った猫”が死んだ時の方が泣けた。
私は太ったものが好きなのだ。


映画『かもめ食堂』のイントロ部分で語られる、
主人公・サチエのモノローグ。
映画の舞台であるフィンランドの首都・ヘルシンキで、
「かもめ食堂」という食堂を営んでいるサチエの
日本での記憶が 唯一、表れている部分で、
ここを耳にしたとき私はサチエという女性が
「一回転した人なんだ」と感じた。

一回転。それは ゆめ抱き、希望に萌えた人が、
挫折や苦境も経験したのだろう、という想像で、
料理でたとえるとフレンチやイタリアン、
中華、エスニックを通ったあと、
「やっぱり日本食ね」と
オニギリを頬張り、味噌汁をすするのと似てる。

サチエの食堂はなかなか流行らない。
が、流行らないからといって、
サチエは猛烈に食堂をアピールしたり、改造したりなどの、
涙ぐましい努力はほとんどしない。
あくまで、ゆっくりと自然に、空気の趣くまま…だ。
「自分の信じた道をまっすぐに行けば、大丈夫」
そんな彼女の姿勢の良さが この映画の屋台骨となっていて、
彼女を観る者は背筋がのびるだろう。
サチエは だから、けっして慌てない。なぜなら、
一回転した者の強さを供えているから。

なので、彼女の元へやってくる2人の日本人女性も、
額に汗を流し必死になってヘルシンキで滞在するわけでなく、
あくまでも無理せず 力まず、
一日一日の食事を きちんと取って、健全に生きている。
それは なんという爽やかさ、清々しさだろう。
外国で暮らす3人の日本女性が、
なんだか和服姿の慎ましい淑女に見えた。うらやましい。

映画から なんとなく皮膚感覚で感じたことだけど、
どうやらヘルシンキと日本の習慣は似ているらしい。
たとえば、よそ者に対する用心深さという点。
日本人女性がひとりで切り盛りする「かもめ食堂」を
地元の人たちはガラス越しに好奇の視線を送りつづけ、
なかなか近づこうとしない。
その象徴的なのが年配の女性三人連れ。
彼女たちは、食堂のオープン一ヵ月を過ぎて ようやく、
「かもめ食堂」入店を果たすのだが、そのきっかけとなったのは、
サチエが焼いたシナモンロールだった。
フィンランドに伝わる素朴なお菓子が焼ける香り、
これに誘われて、物見気分から踏み出せなかった
年配女性たちの緊張が溶ける。

こんなふうに ほんの少し、自分の理想の中に
相手方の気持を組み入れるというのは大事なんだナ。
やはり純然たる和食は異国の民には、
奇異だろう、無気味だろう、野蛮な食べ物に映るだろう。
といってもサチエの作る料理は ひと皿に
生姜焼きなどのメインと野菜を盛り付けた「洋食」だし、
お箸も右側に縦置き。いわゆる「大衆食堂」なわけで、
でも箸置きを使っているところが、
折り目正しい サチエの人柄が伺える。

私自身、人見知りというのは ほとんどしない性格で、
初対面の人でも気さくに話せる。だから、
他人は私のことをフレンドリーな人だと思いがちで、
事実そうなのだけど、本当の私は なかなか本音は見せないし、
信じられる人でなければ弱音だって吐かない。
しかも、敬語を使うのがは苦でなく好きだし、
「謙虚な日本語」が だんだん影うすくなる昨今が、
じつに寂しく 残念でならない。
だから、映画の中の、サチエたちが
それと気付かずに形成しているコミュニティが
とても うらやましく、綺麗に見えた。彼女たちは、
お互いを「さん付け」で呼び合い、敬語を使う。
海外という未知の土地で、ようやく、
日本人は日本人らしくいられるのかと、
「かもめ食堂」で働く三人を健気に見た。

映画を観ていて思い出した情景をひとつ。
ガラス越しに私を見る目。不審な目、戸惑いの目。
それは青山のギャラリー「maya」で
私の個展を行ったときのこと。

通りに面したギャラリーと、道行く人たちを隔てるもの、
それは大きなガラス窓。
見知らぬ通行人たちはガラス越しに こちらを見る、
「ここは何? なにをしてる? 展覧会って?」
壁に掛かった私の絵を、けげん、不思議そうに見る。
「通りという日常の中」に作られた
「展覧会という非日常」は
フィンランドの中の日本食堂と なんら変わらない。
そんなこんなで私は、映画『かもめ食堂』に出てくる
サチエたち三人の姿には まことまことに共感した。

しかも私も一回転した身の上。
今 二回転目の途中。
遠方まで視界良好だと断言したい。


◆ カ エ ル 展 開 催 中
5*SEASONも参加しています
6/19(Mon) まで 東京・代官山アートラッシュにて
TEL 03-3370-6786 ●詳しいお知らせはこちら

★★★★★★☆ 7点満点で6点
多くの女性にオススメしたい一本。
女性客で連日大入り満員! と きいていたので、
よもや女性客の盛り上げで大ヒットした『アメリ』のように
この映画を実際に観たなら、楽しいんだけど
後半で冷めてしまうのを危惧していたけれど、
本作は エンターテイメントしてないのがよかった、
行間を想像する小説のように集中できる。

原作、監督、脚本、俳優と、
主要なスタッフ&キャストのほとんどが女性で、
それが「根性物」にならず、ゆるーりとしてて良い。
その映画に共感している女性が多いというのは、
女性は もう気付いているといくことですね、
真の豊かさとは何なのか、ということ。
充実とは競って勝つことではないし
他者を圧倒させることでもない、と。
やはり、女性は現実を見るのが早いなぁ。
いよいよ、わが国も女性総理大臣が誕生するべき?

この映画は いわゆるサクセス物ではなく、
今 世間でいわれるところの、
スローフードという食回帰の流れで作ってあるけれど、
それだけではない、自然の流れに身をまかすこと、
本来の姿に立ち返ることの大事さを思い出させてくれる。

この作品には恋愛映画の要素はまったくないのに、
ハッピーエンドの恋人同士を観た気分を味わえる。
映画の影響で、私は また京都や奈良に帰りたくなった。
というのもヘルシンキは港町なのに、
近隣には森が横たわっていることを知って、
森林に囲まれた土地というのは
人間に必要な潤いをくれることを
今一度知ったから。

あ、パンフレットがおすすめ。
すごくカワイイ。スーツケースのシルエット。





●かもめ食堂サイト
●ギャラリーハウス [maya] で行った5*SEASONの展「YOU」