ブロークン・フラワーズ |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー

くるま

The Flower's car

私は女だし、私の預かり知らぬところで、
私の2世が誕生していて、その事実がある日突然、
何者かによって知らされる⋯という
人生最大のビックリ箱をあけるなんてことはない。
だから、ここで「もしも私が男だったら⋯」という
例え話をして、『ブロークン・フラワーズ』の
ビル・マーレーの境遇を察するのは
あまりに絵空事が過ぎるので避けようと思う。
ただ、こんなシチュエーションを想像してみたい、
ある日突然、私のもとへ“昔のひと”が
ピンクの花束を抱えてやってきて、
あろうことか こんな質問をするのだ

「オレの子どもを生んだ覚えはあるかぃ?」

「へっ?」

私は子どもを生んだ経験がないので、
「生んでいない」とキッパリ答えるのは違いなく、
“もう終わった昔のひと”が“進行している今の私”に
堂々と踏み込んできたことに対しても
けして いい気持はしないだろう。
街で偶然 すれ違うとか、
予め仕組まれたクラス会などの再会なら話は別だが、
計画的に花束持参でやってこられてはフェアじゃない。
しかもピンクの花が さらなるムカツキをくれそうだ。
ただし“昔のひと”が憎めない人へと消化していたなら、
突然の来訪でも過去を懐かしむ時間が持てるかも⋯。
憎めない人。映画『ブロークン・フラワーズ』で
ブル・マーレーが演じる“元・女ったらし”は
そんな得なキャラクターで私の同情をかった。

【あらすじ】19歳になる息子の存在を知った中年男が、まだ見ぬ息子とその母親を探し当てるための旅に出るロードムービー。監督は『コーヒー&シガレッツ』のジム・ジャームッシュ。主人公のダメ男を『ロスト・イン・トランスレーション』のビル・マーレイが哀愁とちゃめっ気たっぷりに好演する。淡々とした中にも、とぼけたユーモアと切なさを盛り込んだ絶妙な語り口がポイント。カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した話題作。(FLiX)

ではでは、こんな例え話。
もしも私が誰かの子どもを内緒で生んで、
りっぱに その子が成人したなら、
ちょっと“昔のひと”に告げたくなるだろうか、
真実と、その人が味わえなかった別の人生を⋯?
いや、それは ちょっと意地悪な実験。
それもピンクのレターセットに赤文字で、
差出人の名も書かずに送るだなんて、
単なる悪戯にとられてもしょうがない。

昔の恋に出会うための旅かぁ。
ロマンチックだけど、
チクチク突き刺さるイバラの路になるのは
目に見えている。なのに、ビル・マーレーは旅立つ。
旅に出たわけは、ゆめが停滞したからだろう。
旅の先々では
いいことありそうな予感も予兆もあったというのに、
けっきょく何もない、期待で膨らんだワクワク感が
音をたててしぼんでいく・・・
が、小さな傷を癒してくれるのは過去の恋ではなく、
現在の自分、新しい自分、これからの出会い。
男は、また自分の家に戻っていった。

あたしもいつか、
“過去”に手紙を書くことがあるんだろうか、
あったとしても、ピンクのレターセットは選ばない、
おそらく真っ白で、そして
文字は白インク・・・を使ったとしたら、そのとき、
人生は滞っているんだろうか、それとも⋯?



★★★★★☆☆ 7点満点で5点
気取って頑張っている都会人の憂鬱。
音楽が すごくいい。音楽の使われ方もいい。
ジャ-ムッシュの映像は ここではない遥かを、
あの世とこの世の境目をスタイリッシュに彷徨う。
ある意味、これは ミュージカルかも。
ゆるりゆるりと 波のように寄せては返す音楽劇、
都市の生活を ある程度楽しんでいる人にオススメ。
サントラほしー。エチオピア風ジャズをBGMに
ワインなんか呑んでみたい。

前作の『コーヒー&シガレッツ』では
モノクロのクールな映像と“ことば遊び”が愉快で、
すっぽりと私の好みに落ち着いてくれた。だから、
今回は色彩で落胆するかもしれないと心配したが、
ファニーで鮮やかな色調は夢心地で好きだ。

初老のビル・マーレイの「ハの字眉」と
映像の真ん中に ぽつんと置かれる不安感、
これが笑いと郷愁を誘う。
つくづく、この人って“戸惑い”が似合うなぁ。
思えば、ソフィア・コップラの
『ロスト・イン・トランスレーション』でも
同じ情景のビル・マ-レーを観た。
異邦人を演じさせたら世界一にちがいない。

残念なのは過去の女性たちに、
もう少し幸せでいてほしかったこと。






◆ カ エ ル 展 開 催 中
5*SEASONも参加しています
6/19(Mon) まで 東京・代官山アートラッシュにて
TEL 03-3370-6786 ●詳しいお知らせはこちら


●『コーヒー&シガレッツ』の私の感想

●『ブロークン・フラワーズ』公式サイト




ビル・マーレーも出演 DVD『コーヒー&シガレッツ』
一時期サントラがヘビー・ローテーションでした。5*のお気に入り作。


ビル・マーレー出演 DVD『ロスト・イン・トランスレーション』
東京という異国に愛された孤独な男の恋物語。切ないラスト。