黒蜥蜴 (松竹版) |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー

影絵

a persons


ご存じ、江戸川乱歩原作の
明智探偵シリーズを三島由紀夫が脚色。
原作とはひと味もふた味も違った、
女賊・黒蜥蜴と明智探偵の恋ごころを描く。
とにかく美しい、美輪明宏さん。
この人が演じる“黒蜥蜴”を撮りたい一心の映画ですから、
美輪さんのオーラを拝めればそれでいいわけです、が、
しかし・・・。

メジャーな作品ですが、一応
『三島由紀夫映画祭』チラシよりコメントを抜粋。

1968年、三島由紀夫に切望され、丸山明宏(当時の美輪さん)が演じた舞台『黒蜥蜴』は大絶賛をはくした。舞台を観た深作欣二監督が丸山明宏主演ならということで実現したのが二度目の映画化の本作。三島戯曲の華麗さを限りなく生かして作られているだけけでなく、劇中には三島由紀夫本人も“人間剥製”に扮し、ボディービルで鍛えた肉体を披露する。87分。カラー作品。1969年作品。

色が悪い。半世紀前の映画だからではなく、
色彩バランスが駄目、画面が濁って見えた。
せっかくの“高価な美術”が安っぽく映り、
プライド高き女性・黒蜥蜴の輝きだけが突出し、
全体を通して色に寒さを感じた。
私の好みじゃないだけかもしれないけれど、
ようするに私は この監督の映画を観て
色にハッとしたことは一度もない。
華麗に“美”をコレクトする女盗賊にしては、
ちょっと雰囲気がB級過ぎないか⋯?
美輪明宏さんの気高さが抜きん出てるだけに、
そのギャップが痛々しい。

大人の愛を描いているのに、
思いっきり笑った場面が何ケ所もあったけど、
これは「笑いを狙った場面」でOKなんだと思う。
たぶん、舞台の『黒蜥蜴』でも、
客席の笑いを誘って“乗っていく場面”だと想像。
中でも三島由紀夫が人間剥製を演じている場面では、
死んでいるはずの“三島剥製”が
プルプルプルプル震えて、目まで剥いたりなんかして、
今にも倒れそうだったから、これは明らかに
爆笑を狙ってる確信犯やんね。
あと、ユルユルの犯罪トリック、
足元ミエミエの逃亡劇は突っ込んではダメ、
作り話だからと流さなければ、気になるけど⋯。

木村功の明智探偵は、私の目には適役だった。
異端の探偵というには木村功は
爽やかすぎるかもしれないが、
黒蜥蜴のような夜が似合う女性が惹かれるのは
あんなふうに一見すると毒のない人だと思う。
追われるものと追うもの、
追っているつもりが
いつのまにやら追われて、
入れ違い すれ違うふたつの心。

黒蜥蜴と明智探偵の台詞が
美しくて やるせなくて ひたすら いい、
ふたりの有名な 台詞をここに記して、
『黒蜥蜴』讃辞としましょうか。


黒蜥蜴
  この部屋に広がる黒い闇のように
  あいつの影が私を包む
  あいつが私を捕らえようとすれば
明智
  あいつは逃げていく 夜の遠くへ
  しかし汽車の赤い末灯のように
黒蜥蜴
  あいつの光がいつまでも目に残る
  追われているつもりで追っているのか
明智
  追っているつもりで追われているのか
黒蜥蜴
  そんなことは私にはわからない
  でも夜の忠実な獣たちは
  人間の匂いをよく知っている
明智
  人間達は 獣の匂いを知っている
黒蜥蜴
  人間どもが泊まった夜を踏み消した焚き火の跡、
  あの靴跡が私の中に
明智
  いつまでも残るのは不思議なことだ
黒蜥蜴
  法律が私の恋文になり
明智
  牢屋が私の贈り物になる
明智・黒蜥蜴
  そして最後に勝つのは・・・こっちさ!



キネカ大森「三島由紀夫 映画祭 2006」にて~

★★★★☆☆☆ 7点満点で4点
異端の愛、極限の恋、このテーマには
どうやら“私ならこう創る”という
核心のようなものがあるらしく、
それは もちろん映画ではないにしても、
そのせいで本作は愉快ではあるけれど、
痛快ではなく、全体的に物足りない。もしも、
三島戯曲『黒蜥蜴』を3度目の映画化が出来るなら、
外国の、それもハリウッド以外の監督でお願いしたい。

京マチ子さんで映画化された1962年の、
『黒蜥蜴』(大映版)と見比べてみたかったけど、
たぶん私とは合わなさそうな予感がしてパス。






三島 由紀夫 決定版 三島由紀夫全集〈23〉戯曲(3)『黒蜥蜴』選