受取人不明 |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー

赤バス


泥だらけになって、こらえきれずに涙した。
その向こうに見えたもの、それがこれ。


「生きるのって つらいな」
あたしが 思わず口にしたら、
「ほんまやなぁ‥‥生きるって つらいなぁ」
と向かいから返ってきた。
新宿の、とある薄暗いお店で女が ふたり、
あたしと同席していたのは、年に一度必ず京都から東京へ、
こっちの様子を うかがいにやってくる高校時代の同級生。
彼女は けして暗い性格ではなく、むしろ朗らかな人だけれど、
彼女にとって、きちんきちんと必ず やってくる、
“明日”という日を考えることは、
とても気が重いことなのだと あたしには見えた。

ギドク監督の『受取人不明』を観ながらあたしは、
「生きるのがつらい」という言葉と、
先の友だちのことを何度も何度も何度も思い浮かべてた。
たぶんそれは、映画の舞台である韓国の田舎町が、
あたしの育った京都の丹波・亀岡の風景に似ていたせい。
低い山がグルリと周囲を取り巻き、
田畑が山裾まで延々と続く単調な風景を
子どもの時代の あたしは、ひどく憎んだ。
特に洗練された京都市内から越したばかりの頃など、
田舎ゆえの狭い人間関係と
周囲の山々が五感に与える閉息感に滅入ったのだ。
加えて血生臭い。鶏の首を顔色ひとつ変えずにカマで落とし、
鮮血がしたたり落ちる肉を“すき焼き”にして食べる野蛮さ。
いわば、そこには「生きることの真実」があったわけで、
それまで、まったく知らされずに生きていたお嬢さんには、
全てを受け入れるには相当の時間が必要だった。
当時の衝撃は『となりのトトロ』や
『アルプスの少女ハイジ』などで描かれる
ほのぼのとした引っ越しとは、まったく違って、
当時6歳の幼子でさえも、初めて知った事実にストレスを感じ、
何度 山の向こうへ脱走しようかと思ったことか。
大人になって思えば あのとき あたしは、
「生きるのがつらかった」のだ。

それでも、やがて あたしは故郷を受け入れ、愛した。
それは きっと平和ゆえ、だ。
幸いなことに、時代に愛された土地だったこと、そして
やがて日本は高度成長期に突入しようとしていた。

たとえば もしも。

もしも 故郷に、軍と名のつく人間が駐在し、
基地という呼ばれる職場があったなら、あたしは、
「生きるって つらいね」
とかなんとか言いながら酒を呑みかわす、
そんな脳天気さは持ち合わせず、今に至ったかもしれないし、
もしかしたら、誰かを憎むことで自分を制し、
“今日を生きる”ことで ホトホト精一杯だったかもしれない。

ギドク監督の『受取人不明』はそんな映画だった。
結論からすると、観てよかった。
多くの映画好きがギドク監督へ傾倒していくのに納得。

物語の背景は1970年代。米軍基地がある田舎町。
この町から遥か遠くの国・アメリカで育ち、
町の軍へ配属された青年にとって、
基地の周りを囲む山並は窮屈以外の何ものでもなく、
同時に その町で暮らす地元の人間たちも皆、
何かしら 戦争の傷跡をかかえている。
映画に出てくる人間は こんなふうに、
「生きるのがつらい人」ばかり。だから、こういう
「つらさ」に出会ったことがない“お嬢さん”には、
おそらく この映画が受け入れられず、
嫌悪だけが残るように思う、
ちょうど6歳の幼子の あたしのように。
それに、あまりに美しい映像が、
さらなる嫌悪感を あおるので、
流行りの『韓流メロドラマ』に慣れている人は
大火傷をするかも、覚悟して観なければ。

新宿で開催中の『韓流シネマ・フェスティバル』にて観賞。
一日一回最終上映のみの館内は8割の入り。客層は男女半々。
きわどい事件やシーンが次々と流れていく中、
ときおり笑いがもれる。が、不謹慎なことではなく、
ギドク監督が仕掛けた意図的なユーモアだ。
究極に追い詰められた人間は、もう“笑い”でしかなくなる、
これも生きていくうえの、隠れた真実。
おそらく、映画に出てくる米軍人と韓国人の間に生まれた
ハーフの少年はギドク監督の分身ではないだろうか。
ギドク監督はハーフではないとは思うけれど。

少年を雇っているのが、
相方のでこが入れ込んでいるチョ・ジェヒョンことヒョン吉。
彼の役柄は「犬買い」で、母親の恋人でもある。
貧しい家から飼い犬を買い入れては縄で締め、
血だらけになって刃でさばき、肉を店に売る。
少年はこの仕事が嫌で嫌で仕方がないが、
黒人とのハーフを雇ってくれる職場はあろうはずもない。

ヒョン吉は、たぶんギドク監督の盟友でしょう。
きわどい人物を体臭も匂わせそうな勢いで、
鬼才ぶりを発揮。あくまで脇に徹してるのがいい。
あたしは あんまり好きやないけどな。

ほな、主役は誰かというと、
ハーフの少年でもなく、母親でも少女でも、
少年の親友でもない。では、いったい?

主役は赤いバス。
少年はアメリカへ帰国した父を待ち続けている母親とふたり、
道端に停められた真っ赤なバスに住んでいる。
この赤いバスが、リアルな映画の中にあって、
夢を与えてくれるファンタジーの世界をかもしだし、
今にも現実から“別の場所”へ走り出していけそうな、
希望の象徴のようにも感じられた。


話はかわって。

映画館で『韓流ニュース』というものを見つけ目を通す。
「ギドク式青春ドラマ」というくだりでピクッ!
青春などという淡くて甘酸っぱい色を含んだ単語では
この映画の群像劇には まったく合わない。
色でいうなら黒か紺だろうか。けど、
黒春は いくらなんでも えぐいし「紺春」かな。

そういえば少し前、『受取人不明』を観る前に、
どういう映画なのかとネットで下調べした時、
(むごたらしい場面が ないかどうか調べ、そして観た、
 観た結果、一応ないということに。あくまでも一応)
【ギドク監督は天才というより天然だ】
というどなたかの記事に出会ったが、
本作を観た今、天然という表現には首を かしげてしまう。
なぜなら近頃、人を差す場合の天然は“天然ボケ”とか、
バラエティー番組で人気のタレントのような
“不思議ちゃん”を差すことが多いので。
ギドク監督は“不思議ちゃん”ではないし、
考えもなしに行き当たりばったりで作り始め、
感性を軸に映画を完成するというタイプではないと思う。
かなり正確に全体を構築し、
詳細を決定後に行動してると あたしは思うのだけど‥‥?
かといって、天才という言葉で安易に片付けるのも違う、
あたしの感では、ギドク監督は偉大なる努力家だと思う。
努力の天才。辛抱の天才。

ついでに、何の雑誌だったか忘れたけど、
ギドク監督のことを【韓国の北野たけし】と例えていて、
これも違うように思った。
北野ファンを映画館へ取り込もうという作戦かもしれないが、
ギドク作品は本作で まだ二作目のあたしが偉そうに言うと、
映画学校などへ通うことなく、
独学で映画を学んだというプロフィールは似てるとしても
北野監督こそ天然で情緒的、ギドク監督のは
ビシッと建築的だと思うけども‥‥?

余談ついでに、天才というか、天才肌ということでは、
『花様年華』のカーウァイ監督の方が それにふさわしいかも。
台本無しで映画を作るという話も耳にしたことがあるし、
彼の「思い付く感性」に合わない役者さんは大変だろうなぁ。
相方のでこが カーウァイ監督と相性悪いのも、
たぶん このあたりではないだろうか。
でこは「思い付き」でコトを進めるタイプではないもん、
インスタントラーメンの水も
計量カップを使って量るぐらいやもんね~。

映画を観ているとき、この“泣き屋”の あたしが
大泣きすることはなかった。あまりにリアルで、
泣く余裕もなかったわけで。
でも唯一、 涙が流れた場面があって、
それは赤いバスの中で少年が号泣したとき ツツーッ。

ところが、映画館を出て しばらくのこと
とにかく泣けて泣けて困ってしまった。
ハーゲンダッツでアイスクリーム食べてる時、
(スタンプためてるねん、がんばるどー!)
とつぜん胸の奥底から込み上げてくるものがあって、
カウンターで嗚咽、店員 びっくり!
映画の中では ずっと停まっていた赤いバス、
あのとき、あたしの頭の中で爆走し、
好きなマカデミアナッツのアイスクリームが、
めっちゃくちゃ塩辛かった。

★★★★★★☆ 7点満点で6点
この前に観た『コーヒー&シガレッツ』とは180度違う世界!
究極に差がある2本を立続けに観た事実が笑える。
どちらの作品も素晴らしく、間違いなく印象に残るけど、
ギドク監督のDVDは持ちたくない。苦しいもん。
それとやっぱり、女性の撮り方が「男の撮り方」。
禁断のカギを握ってるのは、女性そのもの、
そう言う考えの持ち主なのか。
ある意味、あたしは納得するけど、
女性の反感をかう場合もあるやろねぇ。

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相方へ吠えるスペース! 本日分
観れ観れ観れ!ってうるさいから観たったがなー!
あ~あたしって相方思いの ほんまに ええ子やわぁ。
これで、また あたしの株があがる~。こぶ、困っちゃう♪
はよ、800円くでー!

こだわるようやけど、せめてチケット、
前売りについては100円でも安く出来ひんかったんやろか。
2ヶ月も『韓フェス』をやってて、
経費が かさむのは分かるけど、どーも腹の虫がおさまらん。
あ、もしも当日券が出ないということやったら悔しいし、
出かける前に劇場に電話したら、
『受取人不明』は余裕で当日券買えます、ってことやった。
やっぱマイナー作品で人気ないねんな。
同じ日の他の作品は 前売りで完売って言ってたもん。
大阪でカットされるのはしょうがないわ。やーい!

●ギドク監督の『悪い男』に惚れている
コマ犬の相方・でこのブログ

↑これの暴力シーンは あたしにはキツイかぃ???