僕が「書いたら持って来て」式の指導法を好まぬことは、生徒たちにかなり広まっているはずなのだが、未だに書いて持って来るのがいる。以下は、ある生徒の志望理由書の初めの部分である。
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私が貴校の経営学部・経営学科を志望し、経営者になろうと思ったのは、音楽のコンサートに行ったのがきっかけです。その日に感じた生の音や全身で感じた振動、会場を圧倒するほどの臨場感。それを初めて聴いた時、鳥肌が立ち、自然に涙が出て、まるで魔法にかけられて夢の世界にいるようでした。その感動が忘れられず、自分もそんな感動を人々に与えたいと思うようになりました。そして、もう1つ感じたことがあり、それはコンサート会場で1人1人が自分の役割を的確にこなし、1つの歯車となってコンサートを全員の力で動かしているような団結力です。これを見て私は、コンサートで歌っている演奏者、それを見ている観客、音響や照明。コンサート会場、それら1つではコンサートが成り立たず、全てが揃った時、初めてコンサートとして成り立つことが会社の経営に似ているのではないかと思い、経営というものに興味を持ちました。そして、経営者について詳しく調べていくうちに、会社を動かし、社会を動かし、さらには世界を動かすほどの経営者に魅力を感じ、コンサートで見たチームワークを持った集団をつくり、人々に感動を与えるような音楽を発信したいと思うようになりました。
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何が言いたいのかよくわからない文章である。この調子で1200字も続くのであるが、僕が大学教授なら間違いなく、最初の数行を読んだ時点で不合格である。これこそ昨日言った、「自分ひとりに属する知識や個人的な体験」を書くことに終始している志望理由書の見本である。あれほど「まだ書かなくてもいい」って言ったのに……。