高田明典(『難解な本を読む技術』(光文社新書2009.5)は「棚見」の目的を、「自分の頭の中に『知識の容器』を作ること」(38頁)であると言う。続いて「棚見の効用」を次のように述べる。
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知識の容器とは、たとえるならば弁当箱のようなものです。これからそこにいろいろな知識を入れていくことになるわけですが、そのためには、まずしっかりとした入れ物を作っておく必要があります。この「入れ物=弁当箱」は、すごく大きなものだったり、逆にすごく小さいものだったりもします。たとえば「哲学」という名前の弁当箱を作ろうとすれば、それはものすごく大きなものになりますし、その中には仕切り板で小分けされた区分がたくさん存在しています。想定する分野が広い範囲にわたる場合には、そのための入れ物を作るのにも結構時間がかかります。棚見をすることによって、自分が作ろうとしている弁当箱の名前や、大きさや、大まかな仕切りの構造などが次第にわかるはずです。/ここで言う「弁当箱」のような知識の入れ物を作らずに、本を読み始め知識を得ようとするのは、とても無謀であり、また、非効率的な作業となる可能性があります。自分が知りたいと考えているものが、どの分野の範囲に含まれているものなのかを予め知っておけば、無駄な本を読まなくてすみます。(38頁)
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高田の言う通りである。僕は学部の1、2年生の頃の「棚見」のお陰で、中古・中世の和歌文学と中古の物語・日記文学の研究史に関しては概略把握することでき、その後の勉強に大いに役立ったのである。高田は「棚見」の手順を「①ある分野の棚を、横から順に眺めていく/②気になるものがあれば、手にとり、目次を眺める/③さらに気になるものがあれば、パラパラとページをめくり、本文を眺めてもよい、ただし、この段階で本を購入することは勧められない。/④いったん全部のタイトルを見たら、もう一度最初からタイトルを見直していく」の如く纏めている。吉永賢一さんが東大家庭教師が教える頭が良くなる読書法』(中経出版 2009.8)の第2章「5 書店をグルグル散歩して本を選ぶ」で挙げる8つの方法の中の、「棚の中に入っているものを、背表紙のタイトルだけを見て手にとる」「パッと手にとって目次だけを見て戻すというのを繰り返す」に通じるものがある。もちろん、高田や吉永さんは大学の附属図書館ではなく、大型書店を想定して述べているのだが(大型書店がない伊勢・松阪・津の各市に住んでいる諸君は四日市まで出掛けてみてほしい)、大学の附属図書館の場合も同じと考えてよい。