始発で大阪から帰って来る。
新富士駅周辺になると朝の富士山のシャッターチャンスらしく、真ん中、通路側に座った乗客がドアや喫煙ルームで写真を撮っていた。
もちろん、オレも。
写真を撮った後、席に戻ろうとすると
賑やかなグループの話し声が耳に入って来る。
男2女2
男性陣は短く刈り込んだ金髪、Tシャツにストールを巻いていた。ジッパーが所々に付いたグレーのダメージジーンズにぐにゃぐにゃした茶色のブーツ。
強気の冬の装いである。
『でねぇ、レズの事はハート。ゲイの事はホシって言うんだよ』
と同性愛の隠語について女性陣にレクチャーしていた。
『へぇ。そう言うのやっぱり見た瞬間にわかるの?じゃぁ、この人は?この人は?』
とゲイ疑惑のある有名人の名前を次々に言う。
それに対して、あの人はホシ。この日ともホシと選別していた。
『じゃ、この写真見て。私のお兄ちゃん。彼女ずっといないみたいなんだけど……』
女性はスマートフォンの画像を見せているようだ。
金髪の目が光るっ!
『お兄さんは……男の中の男っ!』
えぇー!
写真見てぇ!
どんな奴なんだろ?
『ふぅん。じゃ、私の彼氏は?』
と別の女性が彼氏の画像を見せる。
『彼氏さんは……男の中の男!』
しばらくゲイではなさそうな有名人の名前の質問が続き、その度に
柔道の主審が言う
『一本っ!』
の様なキレのある
『男の中の男っ!』
が続いていた。
ゲイの表現はユニークだ。
ノンケの事を男の中の男と言う。
響きも面白いし誰も傷つかない。
ナックルはチラリと隣に座っている進撃の巨人に出て来そうな親父に向かって、男の中の男っ!と小さく呟いた。