「受注の激減等を理由にする整理解雇」―メイコー事件
甲府地裁平成21年5月21日決定(労働判例985号5頁)
コラムといっても、紹介がほとんどでつ(^^)w
【事実関係】
・X(男性)は、精密機械器具の製造・販売及び修理等を目的とする甲会社(メイコー)に、平成15年10月20日ごろ、期間の定めなく雇用された者(正社員)であり、Y(女性)は、平成9年16日ごろ同じく甲会社に期間の定めなく雇用された者である。
・甲会社らは、本件解雇予告通知前である平成20年10月26日に「翌年1月は22名、2月は29名、3月は31名の余剰人員が生ずる」と予測した。そして、甲会社は、上記の経緯の中で、平成20年12月4日に緊急取締役会を開催し、「収入源に対応した支出低減対策として役員報酬の減額…管理職手当の削減…を、当月から向こう2年間をめどに実行すること」とした。
・甲会社は、平成20年11月11日付けで、X・Yを含む甲会社の従業員合計23名に対して、甲会社の就業規則18条2項(会社は従業員が「勤務成績又は作業能率が不良で、就業に適しないと認めたとき」は解雇する旨の規定)、及び同条3項(会社は「やむを得ない業務上の都合によるとき」は従業員を解雇する旨の規定)に基づいて、それぞれ解雇する旨の予約通知(本件予告通知)をした。その後、甲会社は、平成20年12月10日に、X・Yを含む本件解雇通知をした従業員に対して、解雇の意思表示(本件解雇)をした。
・甲会社が就業規則の規定によりX・Yらに対して行った解雇の意思表示の解雇理由は、基本的には以下のようなものであった。
①甲会社は「昨今の経済不況の影響を受け物流が激減、今後改善のめども立たず操業維持が困難となった」(実際に、甲会社の代表者は、平成21年1月22日に、受注減少による操業維持困難を理由として、緊急操業対策(休業の実施)を提案していた)
②Xについての解雇理由は「勤務成績・作業能率が上がらず、その後も改善が見られなかった」というもので、Yの解雇理由は上記の「その後も」が抜けているものだった。
・そこで、XとYは、①「勤務態度や成績について甲会社からの具体的指摘はなく、Xらは本件解雇予告通知以前に注意や処分を受けたことはなかった」、②「甲会社は、Xらに対し、本件解雇通告前に、解雇を行う正当な理由を説明せず、整理解雇の必要性等について被解雇者の納得を得る努力を怠った」と主張して、甲会社を債務者として、甲府地裁に「地位保全等仮処分命令申立」の訴訟を提起した。
さて、同判決の結果や如何に!?
【判決】―甲会社の負け
「X・Yの解雇は無効」
「甲会社は、解雇以降の賃金相当分および一審判決言渡しに至るまでの
賃金相当分を支払え」
【判旨】
・本件解雇は人員削減のためのいわゆる整理解雇であり、整理解雇は普通解雇の一種である。そして、使用者による解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効である(労働契約法16条)が、その判断については…
使用者の
①人員削減の必要性(整理解雇の必要性)
②解雇回避努力
③被解雇者の人選の合理性
解雇手続の相当性その他諸般の事情を総合考慮して行うものと解すべきである。
・①について
→甲会社の経営環境は、遅くとも本件解雇予告時点において、以前に比べて非常に厳しいものであったと容易に評価できる。そして、以後の受注が増加する見通しもなかったこと、同年10月26日時点において、以後甲会社ら全体で余剰人員が多数生じることが想定されたことも考え合わせると、甲会社らにおいて、人員削減を行うやむを得ない業務上の都合(就業規則18条3項)があると判断したことは一応の根拠があるといえ、人員削減の必要性が存在したと認められる。
→整理解雇の必要性自体は、経営状況、人員予測等の企業経営の客観的な状況から判断されるべきものであること等から、本件解雇時における一定程度の人員削減の業務上の都合は否定されないというべきである。
→○会社側
・②について
→甲会社は、本件解雇の意思表示前、Xらの解雇を回避すべき努力をほとんど何も行っておらず、Yが認めるように、解雇回避努力は十分であったとはいえない。
→×会社側
・③について
(1)基準の合理性
→甲会社は、本件解雇にかかる被解雇者の人選に際し、勤務態度・勤務成績が不良な者、50歳以上の女性などを基準としたと主張しているが、上記基準は就業規則18条2項において、勤務成績又は作業能率が不良で就業に適しないことが解雇理由として定められていることから、基準としては一応合理的であるといえる。
→○会社側
(2)基準適用の合理性
→Xは勤務態度・勤務成績が不良であったと一応認めるには足りない。
→Yの成績は、賞与査定において、相対的に不良であったといえる。しかし、甲会社は、Yについて、各賞与の査定後、就業に適しないとして直ちに普通解雇を行ったわけではなく、継続して雇用していたことから、上記勤務成績の不良の程度がきわめて重大なものであったとは解されない。
→×会社側
・結論
「本件解雇時点において、甲会社に人員削減の必要が存在したことが認められるものの、この必要性は一定程度にとどまる。そして、同必要性の程度に鑑み、解雇回避のための相応の努力が必要であったと解すべきところ、甲会社の努力が十分であったとはいえず、被解雇者としての人選も合理的であったとはいえない」
→「したがって、その余の事情を考慮するまでもなく、Xの解雇は無効である」
→「Yの被解雇者としての人選については、一定程度の勤務態度等の不良がうかがえるが、就業規則に基づき、直ちに解雇を行うまでに重大なものではなかった。それゆえ、甲会社は、Yを解雇するにあたっては、事前に同人に対し、その選定過程や検討経過等の十分な説明を行うことが必要であったと解すべきであるが、人選の経緯について詳細な説明を行っていない。結局、Yの場合は解雇回避努力や手続の相当性が相応の重要性を持つことが必要であるにも関わらず、いずれも十分に満たされたとはいえない。Yの解雇は無効である」
【判決を読んで…】
いかがだったでしょうか?、率直に言って、きっと読者の中には「整理解雇なのに判例厳しすぎだろ」「民間企業の解雇って、法律的にはこんなに厳しいの」っていう人がいらっしゃったと思います。
そうなのです!、実は民間企業であっても、解雇はしっかりとしたプロセスを踏まなければ、簡単に無効と判断されるものなのです。
そう言えば、NHKドラマで「君たちに明日はない」というドラマが放送されていましたが(垣根涼介原作)、民間企業の中では、解雇に際して、解雇専門の委託会社を雇ったり、弁護士や法曹実務に詳しい法務担当者が担当するケースが多いと思います。
今回のケースで言えば、Yさんの整理解雇については、乱暴な言い方をすれば「やり方が下手」だったがゆえに「無効」となってしまったわけです。
実は民間労働者だってまったく守られてない訳では無くて、「闘おうと思えば闘える」という状況にあることは知っておいて、損はしない知識です。