ジャパンモビリティショー2023 総括
ここでは今回のモビリティショーについて、主に文字で私の思ったことをお伝えしようと思います。
いつにも増して長文ですので、長い文章に耐えられる方だけお読みください。
全体として
全体としては案外良いショーだったと思っています。
と言うのも、私は身障者招待日に加えて一般公開日にも行ったのですが、見飽きることが無かった。これは入場者であるお客を飽きさせない工夫がきちんとされていたと言うことです。
と、まずは褒めておきます。
この後ネガなコメントが続きますが、今後に期待してのことなのでご容赦いただきたいと思います。
参加社
苦肉の策かもしれませんが、一般に喧伝された参加社数に「クルマメーカー」とは一切表現されなかったんですよね。それで総数475社とか。
そりゃあ輸入車は3つだけとか大っぴらに言えないですよねー
でもモーターショーじゃなくてモビリティショーなんだからと。そうですよね、門戸を拡げたのだから、参加社が増えるのはある意味順当です。自動車(輸入車)メーカーの参加が減った以上に他が増えたのだから、狙い通りと強弁することさえ可能です。
しかし新規出展したブースのイメージはと言うと、とにかく展示慣れしてなかったのは評価と印象を下げてますね。
列が出来るのわかってるだろ?って言う体験型展示なのに、そういうブースに限って場所が狭かったりするし、整理要員が誰も居ないから通路にぶわっと人の塊ができるし、割り込み疑惑も起きるし。
予約制のところも多かったのですが、予約のやり方や空き状況が全く分からないところが多かったので、そもそも予約する気にならなかったです。
もし次回もこのようにモビリティとしての総合ショーにして参加社の範囲を拡げるのなら、展示する会社への教育も考えた方が良いのでは。
新規取り組み
Tokyo Future Tour
今回の新規展示の目玉は(一般的には)「Tokyo Future Tour」だったかと思いますが、正直イマイチでした。
何がイマイチと思わせたか。以下列挙します。かなり辛辣ですが、鳴り物入りで誂えた新エリアなのですから、その期待に応えてくれないと。
- 最初に見せられるテーマ映像(ショートストーリー)が安っぽい。最近のCGアニメを見慣れた目には、そこらへんのデスクトップPCで学生が習作で造るレベルに映ります。
- 唐突すぎる「ゴジラ-1.0」の乱入。それ自体で失笑してしまう上に、酷いことにゴジラがほとんど認識できない。登場時間も一瞬で、単に登場させただけ感が満載。
- 没入感を持たせたいためのアイマックス(三面使用)なのだろうけど、自分視点としてはパースが合わないので没入できないし、途中でドローン視点に切り替わるのでさらに没入しきれないうちに終了する。
- 色合いやデザインが二次元アニメでしかもパステル調。リアルな未来観を伝えたいのなら、まるで本物と思わせるようなものでないと。
- 音響がプア。ただステレオ音源(疑似サラウンド程度)を垂れ流してるだけで、最近のアトラクションでは当然の、上下方向も含めた3D音響になっていない。
空飛ぶクルマ
いくつかのブースに分散して展示されていました。
自動車エリア(自社エリア)でワールドプレミアでお披露目したかったスバルはまあ仕方ないとしても、他のものが1か所に集められていなかったのは何故なのか、よくわかりません。スタートアップ(ベンチャー)企業の規模とかで他と分けたのであれば、今回の趣旨やお客の視点を見失っているように思います。
ただ、次回は改善されて「空飛ぶクルマゾーン」が作られる気がします。シミュレータでの空飛ぶクルマ操縦体験なども盛り込まれそうですし、各社の実機が並べて比較できるようになるでしょう。集客力は確実にあると思うので。
でもまだまだです。
乗り込むことができるもの、いくつか乗ってみましたが、あれで空を飛ぶことを考えると不安しかない・・・
先日、日産アリアの手放し運転を高速道路で体験してちょっと不安とスリルを感じましたが、その比じゃなさそうです。
次のステップはまず確実に飛べること、だと思うのですが、これを不安なく飛ばす(乗客が不安なく乗る)ために必要な「何か」がまだ足りない気がします。
例えば、コミュニケーションが取れる人型ロボットが操縦してる風に座ってるだけでも、とりあえず不安感のレベルが下がりそうな気がします。
思い起こせば映画「トータルリコール」の無人タクシーには不細工だけどおしゃべりな”ロボット運転手”が乗っていた。もしやあれは正解のひとつなのかな?
(画像はネットからお借りしました)
災害対応
無人車やドローンを活用すると災害救助もこんなことができるよ!
という主旨はわかるのですが、屋内の狭いステージでそれをやられてしまうと「小芝居感」が半端ないのです。
屋外のいわば実寸大の訓練施設でやっている消防訓練ですら、あまり実感が湧かないと言うのに、ましてや縮尺模型みたいなもので、「さあ!救助隊が到着しました!消火活動を始めます!!」とアナウンスされてもなあ・・・
ぜひ次は屋外に街の一部を移築して、臨場感あふれる展示に昇華させて欲しいです。実際、無人での救助活動は二次被害の抑制に非常に効果があるのだから、一般客の理解を深めることは意味があることだと思うので。でも小芝居では人の心は動きません。
宇宙開発
月面探査車の実寸大モックアップは良かった。内部の設えが簡素で、宇宙生活の疑似体験までいかなかったのは少し残念だけれど、モビリティショーだからこそ、ここまでスペースを取って出来たことかと思います。特に小学生のグループが目を輝かせながら見学している姿には、自分が子供のころに宇宙開発に夢を描いていたのを重ねて、なんかいいなあと思わされました。
従来エリア(モーターショー的エリア)
詳細はすでに写真にてお伝え済みですが、ここでは所感を中心にお話しします。
レイアウト
どうやってメーカーの並べ方を決めているのか、これは毎回の疑問です。
入口から近いエリアにトラックメーカーを固めたのだけは良くわかりました。奥にしたら誰も行かないからですね。公式にも聞いた気がします。
ただそれ以外になると、なぜトヨタとレクサスが別々なのかとか、3社しかない輸入車メーカーを分散させる意味が本当にあったのかとか・・・
そのあたりは昔の、狭い通路にギッシリ観客が詰めかけ、コンパニオンを撮影するカメコが通路に溢れていた時代の発想ではないかと思います。
人気のあるブースを分散させるやり方は、確かにそういう時代には有効だったかもしれません。
しかし、例えば博物館の展示を考えたとき、時代も種類も異なるものをバラバラに展示しますか?しないですよね?
このショーだって、本来であれば開催側が伝えたいことをきちんと伝えられるように考えて配置がされるべきだと思うのです。
今までは物理的な制約でやりたくてもできなかった、それは仕方ない。でも時代が変わって配置しなくてはいけないメーカーが減った。お客も減ってる。
その結果としてブース間がとても広く、通路は昔の倍くらい取れてました。各社ブース内も(本当の意図は不明ながら)何も置かれていない空間がたくさんあって、とても回りやすかった。
客の人口密度が減った?
やった、これで本来やりたかったことがやれるようになった!と逆転の発想をした人はいないのでしょうか?
今までの優先順位である「混乱無く来場者をさばく」から、もっと意識を上げて「来場者が効率よく回れる」「開催者の意図をわかりやすく伝える」ためのレイアウトがあったはずです。
変化への各社の対応
モーターショーからモビリティショーに変わった訳ですが、この変化への対応は各社各様でした。全くの私見で分類するならば、
- 前回に近い温度感なのは三菱
- 昔のモーターショーはBYD
- ガラリと変えたのはホンダ
と言ったところでしょうか。
ちなみに旗振り役だったトヨタは三菱に近いです。
そう言うわけで統一感の欠如は隠しようもないのですが、雑多なものが同時に存在することによって生まれる熱量のようなものもあり、テーマの捉え方の違いをネタとして考えさせられる面白さが自分の中ではありました。要するに、今回の狙いであった「変化」の効果は十分に感じられたように思います。
説明員
コンパニオン(笑顔の提供)から技術説明員(情報の提供)にシフトしたのかな、と思うほど、各社ブースでは技術説明員の姿が目立ちました。地味な印象にも寄与してましたが・・・
中でもトヨタの説明員体制はしっかりしていたように思います。
微妙にユニフォームが違っていて、胸元のラインの色が違うんですよ。ラインがオレンジの方が研究開発の方だったのかな?ちょっと詳しい質問をしようとすると「詳しい者を呼んできますね」と探してくれます。で、呼ばれた人はとにかく詳しい。
特に印象に残っているのはFT-Seの説明をしてくれた方。(「別記事で」とトヨタの記事で書いたのはこれです)
受け答えが完全に当事者視点だったので、この試作に直接関与していることは間違いないです。
話せば話しただけリアクションが返ってくるのが楽しくて、しかも相手も楽しそうに語ってくれて、これが今回の白眉、一番楽しいアトラクションだったのではと思うくらいです。
実際の会話の一部はこんな感じ。(話は盛ってません。むしろ忖度して省いてます)
冗長ですが楽しそうな雰囲気が伝われば幸いです。
「FT-Se、サイドのドアと後輪の間にある”切り欠き”って、可動してエアブレーキになるとかあります?」
「いや、それも考えたんですけど、法規で車幅が変わっちゃうのがダメなので」
「これってスズキさんのスイフトみたいに平置きされたコンセプトカーって訳じゃないから、市販前提・最優先じゃないんでしょ。だったら法規に縛られる必要無いですよね?」
「言われてみればその通りですね!普段まず法規を守ることから仕事しているので」
「それはコンプライアンス的には100%正しいんですが、せっかくコンセプトカーを手掛けるのだから理想を優先しても良いのでは?」
「おっしゃる通りですね。視野が狭かったようです。でも部下も私も目の前のことで手一杯で、ついこういう思考になっちゃうんですよね」
「いやいや、今のモリゾーさんが開発現場を直接見てくれてるうちが、理想を掲げて好きなことをやるチャンスなのでは?と、部外者的には思いますけど?」
「うわ、、失礼ながら同業者ですか?・・・違いますか。よく事情ご存じですね。おっしゃる通りなので、いつまで今の感じで出来るのかなんて話したりしてるんですよ」
「だったらさっきのエアブレーキだって、『今の法規には合わないが安全に寄与する技術として世に問いたい』って実装しちゃえば良かったじゃないですか。クルマが停まるためにはタイヤと路面の摩擦、ディスクとパッドの摩擦だけで今は制動してるけど、それに上乗せするのは空気の摩擦(抵抗)だとか言って」
「ほんと、言われてみればその通りですね。デザイン側から実は色々提案を受けることもあるんですけど、法規がネックになることが殆どなんですよ」
「法規って、しょせん過去の技術を基にして作られてるじゃないですか。だから時代が変われば変わっていいと思うんですよね。自動車のエアブレーキとか、微妙な制御ができなかった時代にはむしろ危険だったと思うんですけど、三菱さんの昔の、80-90年代前半とかのコンセプトカーとか凄かったんですよ。HSRでググってみてください。HSR-Ⅱなんて車体の前後左右に可動フラップだらけですよ。派手にバタンバタン動くもんだから、当時はなんかネタみたいな感じで現実味は少なかったです。コーナー回る時にイン側だけフラップが持ち上がってエアブレーキかけるとか、今ならトルクベクタリングで同じことが出来ちゃってます、とか。でも気流のアクティブ制御とかは、今ならリアルタイムにフィードバック制御が可能なんだから、出来ることは飛躍的に増えてますよね」
「電気自動車なら四輪独立制御も普通にできるし、演算するためのCPUもセンサも、ADASもあって従来車よりケタ違いに高性能になってるから、それらの資産を流用すれば追加コストも抑えられそうですよね、、、これアリかもな」
「そうですよ。そうした変化を具体的なベネフィット(利益)として私たちに示すのが、コンセプトカーの役目でもありますよね?特にこのケースは安全をキーにできるから、規制緩和もしやすいはず」
「いやあ、お話しできてよかった。さっそく社内で話をしてみます」
「こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次は2025年でしょうか?どんなショーになるか楽しみに待つことにします。