BYD RACCO 200(試乗車)・300Premium(展示車)
はじめに
電気自動車の黒船?
満を持しての海外製の軽自動車?
日本で最も売れるスーパーハイト軽の真打ち?
…と言われている(誰が言ってる?)
BYDのRACCO(ラッコ)に試乗してきました。
言わずと知れた中国を代表する自動車メーカーですね。
普段は試乗そのものを目的として試乗しているのですが(いや、試乗でその気にさせてくれたら別ですよ)、
今回は普段の足として買い換えを検討している前提での試乗になります。
諸々の事情により、すぐの買い替えじゃないですけど、うちのタントの立ち位置ってほんとに電気自動車向きなんです。
実は過去にもサクラを検討したのだけれど、タントの利便性を犠牲にする気にならなかったんですよね。航続距離もやはりちょっとだけ足りない(ガソリン車の満タン距離から見劣りする)
でも今回は利便性ガチ、航続距離ガチなので。
これまで12年間保有しているタントでの実績として、満タンスタートして出先で給油した記憶はほとんど無いことから、今回の満充電の航続距離320kmはほぼ条件を満たすことになります。
それでは本編をどうぞ。
諸元
まずは諸元の確認から。
ちなみに最近のクルマの紹介って、こういう数字の入る仕様や諸元が隠しページに入るようになってますね。(仕様が見たい方はこちらをクリック、みたいな)
グレード BYD RACCO 200 / 300Premium
本体価格 214万5000円 / 249万7000円
仕様
寸法・重量
全長 3395mm
全幅 1475mm
全高 1800mm
ホイールベース 2520mm
車両重量 1230kg
モーター
駆動方式 FF
永久磁石同期モーター
モーター最高出力(ネット値) 47kw(64PS)
モーター最大トルク(ネット値) 160N・m
パワーバッテリー
リン酸鉄リチウムイオンバッテリー
総電力量 35.84kWh
一充電走行距離 320km
足回り系
フロントサスペンション マークファーソンストラット
リアサスペンション トーションビーム
フロントディスク ベンチレーテッドディスク
リアディスク ソリッドディスク
タイヤサイズ 165/65 R15
その他
最小回転半径 4.8m
乗車定員 4名
以下、それぞれの項目に沿って全くの私見でお送りします。
ボディーカラー
チーズイエロー (200)
明るいところでよく見たら、パステル調のイエローでした。
あまり国産車には無いカラーなのですが(ハスラーあたりにあったかも?)、なんかこの造形には合っていないように感じました。これならモビリティショーの時のホワイトでいいかなと。
ミッドナイトグリーン (300Premium)
ミッドナイトグリーンの300Premiumは展示車なので、屋内での撮影です。スズキのアルトにこんな感じの色があったような。
決して悪くはないですが、ラッコのイメージとは少し違う気がしました。
カタログで他の色を見ると、ミライースや先代フリードでよく見た光沢系の水色(アークティックブルー)があり、これなんかは似合いそうです。
これらを見て思うのは、2トーンカラーの選択肢が無いのは惜しいなと。ルーフトップを完全にガラスエリアで宙に浮かしているデザインなので、例えばルーフを黒、ボディを白とかすればそのままハマると思うんですけど。
多分マイナーチェンジ用に残しているんでしょうね。
ついでにエンジンの無いエンジンルーム(笑)
なんか結構、ガラガラです。写真では写りませんでしたが、奥の方は何もありません。
なんなら、300-500ccくらいの「発電用エンジン」が収まっちゃうんじゃないの?ってくらい。
あるんでしょうか、PHEV化?!
技術的に可能であっても、コスト的には難しいかもですけどね。
外観
写真やモビリティショーでの印象は、現行タント(ノーマル、さらに言うとそのプロトタイプのDN U-SPACE)の顔立ちに、先代ルークスのサイドビュー、リアはノアかヴォクシーかなと言う印象でした。
実車を間近で見てもその印象が大きく変わることはありませんでしたが、フロントマスクは思ったほど現行タントでは無かったですね。
と言うか、
タントでもう少しライト周りをグリルと整合させて、プロトタイプ寄りにデザインしたらどうかなと思っていたので、RACCOはむしろDN U-SPACEの正統な量産型に見えてきます。
ただ、全体的な「安物払拭の狙い(後述)」からすると、日本人が重視しがちなフロントマスク(の立派さ)へのコストのかけ方は少し甘いかもしれません。
サイドビューは良くも悪くも個性が少ないです。
無駄なキャラクターラインが無いのはむしろ好感が持てますが、その分このカテゴリーでは車種不明になりがちなのは仕方ない。
強いて言えばリアクォーターガラスの処理とドアハンドルあたりにデザインが垣間見えますが、まあそこに拘るユーザーが少ないのも事実でしょう。
ただし200のホイールカバーはいただけませんね。もう少し何とかならなかったのかと残念です。
展示車(300Premium)のホイールはこちら。
比べるとだいぶ良いですけど、なんかサクラっぽさを感じるのは、予備知識(主査がサクラの元開発者)によるバイアスですかね?
内装
エアコン等の、走行中に操作したいスイッチが物理的に残されているのは良いです。実は先日、シトロエンC3を代車でお借りしたのですが、途中でコントロールパネルがブラックアウトしてしまって。まあフランス車ですから特に驚くほどのことでも無いのですが、さてこうなるとオーディオも空調もコントロール出来なくなるんですよ。いやあ、エアコンAUTOで入れておいて良かった〜となりました。
話をRACCOに戻すと
シフトレバーが電気自動車にあるまじき一等地に配置されてます。電気自動車のシフトの話を聞くに、ここまで存在感が無くても良かったのではないかと。
「電気自動車はその特性上、ニュートラルには入れたくない(空回しになるから)」と言う話を聞き、
じゃあこのシフトレバーのR-N-Dの並びは何のため??
と思うに至る訳ですよ。それならボタンでいいじゃんと。
確かにモーターを空回し(負荷ゼロ)するのは、モーターには良くない感じですよね。だったらエマージェンシー以外は入れる必要が無い。何なら普段ユーザーの選択肢から外しても良いくらいですよね。
エンジン車は順方向と逆方向(バック)のギアを切り替える際にどうしてもニュートラルの存在が必要になる瞬間があり、今や形骸化しつつあるとは言えR-N-Dの並びに意味があると言えますが、電気自動車でバックする時はモーターを逆回転させてるからニュートラルは不要なんですよね?だったらそれに応じたインターフェースにすべき。
シート
これが意外と良かったです。
Premiumだとレザー(合皮)、それ以外はファブリックですが、どちらも頑張っているのがわかります。
表皮の張りと内部のクッションのバランスが絶妙で、現行車種の中でベストかなと思うのはルークスですが(先代(2世代目)NBOXの前席は格別でしたが現行はそれより明らかに劣る)、それとはちょっと方向性が違えど、なかなか良い勝負なのではないかと思わせるレベルです。安物とは言わせない、と言うことでしょうか。
展示車のレザー張りで試乗してみたかったですが、試乗車のファブリックは暑い日には良いなと改めて思ったり。
30分ほどでしたが、腰砕けのようなことにはならなかったです。これ、作りの悪い安いウレタンだとこんな短時間でもわかるものなので。
あとこれは実際に乗った状態での感想では無く、静的質感だけですが、後席がなかなか良いなと。軽自動車で後席をマトモに座れるようにしていたのはタント第2世代の頃のタントエグゼくらいしか思い浮かびませんが、RACCOの後席はやはり現行ではベストに近いルークス並みかそれ以上かも。ただし走らせてみてどうかは、今度後席試乗して確認してみます。
タントエグゼのリアシート(ダイハツ公式より)
そうそう、Premiumだと運転席のみですが電動です。シート前後上下・角度とシートバックの角度と言う、スタンダードなもの。メルセデスっぽい、座面とシートバックを模した形のスイッチが座面の右脇(ドアでは無い)にあり、操作感は良かったですね。軽自動車にありがちな、手動でシートを上に上げると斜め方向に前にせり出すみたいな変な動きもしないので、ポジションは決めやすかったです。ここにも安物感を払拭しようとする意志が。
そうなると電動でなくてよいので、ステアリングはテレスコを付けて欲しかった…これもマイナーチェンジ待ちでしょうか。(カタログを良く読むと、ステアリング手動4way調整とも書かれているので詳細は不明ながらテレスコはありそうです。ディーラーでテレスコがあればなと言った時に否定されなかったので、確認不足のまま記載してしまいました。すみません。)
ドア開閉
今回の売りのひとつがスライドドア搭載なので、そこもコメントしておきます。
まず前席のドア。これが、良い。何が?音ですよ、音。
いかにも剛性高くて撓んでない感じの硬質な音がするんです。軽自動車全体と言っても過言では無いですが、少なくともスーパーハイトのなかではダントツですね。特にこれに関しては安物感など微塵もありません。
リアのスライドドア。まあこちらは電動だし普通です。が、ドアハンドルを引いて開閉させると、一拍遅れて動作するのがちょっともどかしい。それを伝えたところ、ドアハンドルにあるスイッチで操作してみてくださいと言われ、その通りにスイッチを押してみたところ、これがスッと動き始める。ドアハンドルに手が掛かった状態でいきなり動かすと危ないと言う判断なのかな?
走行
ここの営業所のコースは毎回同じです。
幹線道路から少し外れたエリアにクローズドな周回コースがあります。もちろん公道ですが、信号が無く交差点もほとんど無いので、リスクは低いコースだと思います。残念ながらアップダウンは皆無なので、それは試すことが出来ません。路面は平滑なゾーンとやや荒れたゾーンがあり、NVHの確認はやりやすいです。
路面が同一な条件で複数の車種を試すことが出来て、かつ何周も回れることから繰り返し確認できるのはとても良いですね。
とは言え一般道ですから、高速域の挙動やパニックブレーキ、ダブルレーンチェンジなどは試していません。
その前提で、以下。
しばらく前に、ドルフィン/シーライオン6/シーライオン7を同じコースで試乗させてもらいました。その時感じたのは「BYDはユニットを買って単に組み付けるだけの安易なクルマ作りはしていないんだな」です。
電気自動車に関して今でも印象に残っている言葉は、初代86の主査をつとめた多田さんが講演で言っていたこと;「皆さんは電気自動車はつまらない、と良く言われる。でもそれは電気自動車だからでは無く、我々メーカーの責任です。なぜかと言うとエンジンを使うより遥かに忠実に、電気自動車は開発者の理想をよりリアルに実現できるからです。つまり、つまらないと言われているのは電気自動車ではなくメーカーであり設計者であり、私のような主査が「面白くないクルマ」を理想に置いているからであって、電気自動車を悪者にして嫌わないでください」
なんか昔のAKBみたいな話ですが(笑)、出力特性が自由になることや出力の取り出し方がシンプルになることなど、なるほどと思わされました。
そこでBYDに話を戻すと、どのモデルでも「走る曲がる止まる」が破綻せずに出来ている。これらは単に組み付けただけでも、机上の設計だけでもなかなか形になりにくい部分です。と言うことは、彼らはちゃんと彼らなりに作りたい理想を持って、それを実現するための努力(≒コストをきちんとかける)をしているのでしょう。
ハンドルを切りながらアクセルを開閉する、
ブレーキを踏んですぐまたアクセルを踏み替える、
公道でよく起こるこれらのことをやってみても、車重なりのイナーシャは感じることはあってもそれ以外は実に素直。もっと派手な味付けを想像していただけに、そこは意外でした。
そして今回のRACCOですが、これも基本的には同じファミリーの味付け。さらに言えば、ゼロ発進の加速はむしろ控えめ。これはエンジン車に慣れたユーザーへの配慮でしょうか。もちろん控えめと言ってもゼロ回転から160N・mありますからね(モーターは特性上、ゼロからの回転トルクが最大)、遅くはないです。一方で動き出してからの中間加速ははっきり速いです。体感で30km/hを超えたあたりで速さを感じます。ぜひ高速道路での100km/hレンジでも試乗してみたいですね!
足回りは、ドルフィンなどと比べるとややバタつくかなと言うところ。車重がドルフィンより相対的に軽い(軽自動車としてはタントやN-BOXより約300kg重い)のに対して、サスペンションの追い込みが少し間に合わなかったのかもと言う印象です。そのせいで収斂が少し遅れ、揺れ戻しを感じたため「足が柔らかいのでは?」と同乗している担当者に言ったところ「いや、硬いと言われることの方が多いです。普段乗っているクルマの違いでしょうか」
いやいや、その日もC36ではなくタントカスタムで乗りつけたんだけど?
確かにバネよりダンパーの問題のような気もするので、これで硬くしたらさらに酷くなるかも。年次改良に期待ですかね。
良い点としては静粛性。
これはドルフィンやその上のシーライオンなどで既に体験済みなのだけれど、遮音にはとても気を遣っているようです。
RACCOは流石に上級並みとは言えないけれど、サクラやN-ONE e:などよりひとクラスは上の静かさに感じました。いわゆるロードノイズの遮断も丁寧に処置している印象です。
気になったところ
細かいところですが、明確にうーん、となったのは
警笛、ホーンの音。
これは実際に聞いてもらうしかないのですが、なんとも気の抜けた音がします。一番近いのが、幼児が乗るおもちゃのクルマのホーン。パプ、パプと言う感じの。あれです。
試乗中に警告ではなくサンキューで軽く鳴らしたのですが愕然としました。
試乗中に鳴らす人は少ないかもしれないので、買ってから気付く人も多いでしょうね。きっと評論家は指摘しないだろうし。
あとこれだけ後席シートを良くして居住性に気を遣ったのなら、なぜサーキュレーターが無いのかと。いっそ潤沢なバッテリーを活かして後席エアコンを付けていたら拍手ものでしたが。
まとめ
本文でも書いた通り、少し前に上級車種3台を同じコースで乗っているので、それとの比較をしながら乗ることができました。
少し落ち着いたら山坂道に駆り出して乗ってみたいと思いますが、少なくとも平地で乗り回す限りではほぼ完成している感じです。
特によく出来てるなと思ったのは、タントは3世代かけてようやく完成形に至った、スーパーハイトと言う異形のプロポーションでの動的質感が最初から合格レベルに達していたこと。タントは2世代目で上屋のロールが自然になり、3世代目でシャーシのブレが収まりました。N-BOXも完成形は2世代目ですよね。
RACCOは初代にしてそれらの最新世代に並んでいる(か、むしろ上)と思います。
この完成度のものをたった2年で出してくるなんて、国産勢はもっと危機感を持ってもよいのでは。
ただ、爆発的に売れるかと言うと、そうでもないかもしれません。
そう思う理由はいくつかありますが、
まずは中国メーカーであることがやはり挙げられるでしょうね。
イデオロギーを脇に置くとしても、「いつ無くなるかわからない」と言う不安。ヒュンダイ(ヒョンデ)、サーブ、オペルと日本人はこれらを見てきています。
しかもBYDの当面の狙いとなるアーリーアダプターと、撤退した個性的なブランドの購買層は被っていた可能性もあり、実際私も一時期オペルのアストラカブリオに乗っていたことはここのブログにも書いていることです。
次は価格です。
かつての「アルト47万円」に匹敵するプライスショックを与えるには、最上級グレードで乗り出し200万円未満が必要だったのでは。
それが見積書を出してもらうとこうですよ。
300Premiumで
約310万円
…100万円以上高い。
確かに航続距離320kmでこの質感なら妥当なんでしょう。
でも
「妥当」では足りないんですよ。
壁は壊せない。
価格だけで勝負するくらい、言い方は何ですが、見えない札束で購入者をひっぱたいて(えっ!そんなに安いの?!)と引かれるくらいでないと。
RACCOと言うクルマ自体の問題ではない。
このままトヨタブランドで同じ価格で出せば大ヒットでしょう。
でもBYDはトヨタの立ち位置とは全く違う。それはわかっていたはずでしょ?
さて、どうなりますかね。