ヒゲの先生からの電話はいつも突然である。
「のり、10時47分から56分までの間にJR富田駅に来れるか?」
私に渡したいものがあるから駅まで取りに来るようにとおっしゃるのだった。
ここだけの話、話の長い先生、あ、小さく書くと余計目立つかな?
9分間で用が済むのかしらと疑心暗鬼ではあったが、約束の時間に駆けつけた。
時間通り47分に名古屋行の電車は着いて、
降りてみえた先生はビニール袋を私に手渡し、
ちょっとだけその説明をしてくださって、
反対ホームに渡られると、
直にやってきた56分の亀山行の電車で先ほど来られた方向に戻って行ってしまわれた。
先生は名古屋に出られる途中、私の近くの富田駅までお越しくださった。
が、富田駅は普通電車のみの停車駅、
だからまた反対方向の電車に乗って四日市まで戻られ、
そこから快速で名古屋に向かわれたのだと、後になってわかった。
有難い限り、そこまでしてくださって・・・
どうしても本日午前のうちに私に渡したかったものというのは、この茎わかめだった。
今月の初めに日間賀島に行かれた先生は茎わかめを買って帰り、
美味しかったから今度は送ってもらったのだとおっしゃる。
土曜の朝採った茎わかめが日曜に先生のお宅に届き、
昨夜はしゃぶしゃぶにして召し上がられたのだそうだ。
あまりの美味しさに、食いしん坊の私の顔がちらつき、
これは一刻も早く月曜の午前中に届けようと思ってくださったとのこと、
有難いやら申し訳ないやら・・・
そして、「一刻も早く食べろ」とおっしゃりながら、電車に乗って手を振られた。
ギュッと詰まった袋からは思った以上にたくさんの茎わかめ。
そのうち1枚を開いてみると、こーんなに大きい。
私はスーパーで買ったメカブしか食べたことはなかったのだが、
あれはもっと根元の方で茎が太くて粘りが強かった。
この茎わかめはもう少し上部を指し、茎部は細く、葉が広い。
だけど熱湯をかけると鮮やかな緑色になるのは同じはずだ。
先生は、
しゃぶしゃぶには、白い白菜と人参を少し加えてオレンジ色を添え、
そこでワカメを熱いだし汁の中に入れて
暗い緑色からパーっと鮮やかな美しい緑色になるところを楽しめ、と。
さすが美術の先生でいらっしゃる、「料理も目で楽しまなアカン」と持論を展開、
色彩は何においても重要な位置にあるとおっしゃった。
「色」。
屈んだ女性と屈んでその上に乗った男性とが体をすり寄せて性交するさまを描いた象形文字。
セックスには容色が関係することから、顔や姿、彩などの意になります。
また、すり寄せる意を含みます。
そのしゃぶしゃぶはまた今夜ということにして、まずはお昼はサラダで。
白とオレンジ色を足すにはと、ゆで卵を足してみましたがいかがでしょう。
トマトの赤まで加えて、ちょっとくどくなってしまったでしょうか。
確か高校時代の私の美術の成績はお情けの4だった、
私の色彩感覚はこれが精一杯ですからご容赦を!